第13話 惠登場!優とコントレイル&サリオスの大事件!?(6)
文字数 2,615文字
「じゃあ、テレビ点けるね」
果凛が競馬観戦のためにリモコンをテレビに向け、『鞍さんの作るおにぎりは絶品だな』と堪能する。
住民たちも雨降りの中で毛艶も分からないような6レースのパドックの確認を諦め、鞍さんの包み飯を味わうのが優先する。
テレビが点灯すると、ゲート前、一頭の馬に注目が集まるのが映し出されていた。
『え、何なの?』と焦る果凛が食い入るように見る。
ゼッケンから、対象は2枠3番プリンスチャームだと分かる。
「馬体検査ですね」
優が事実を述べるとリビングに緊張が走る。
馬場入場後、騎手を振り落とそうとするほど、暴走したらしい。
『出走できるのかしら…』と鞍さんが不安がる。
乗馬の経験が深い鞍さんは、馬が傷つくのは見たくないという。
「まあ、無理して出走する必要はないですよね」
惠の心配を住民たちは容認するが、実際どうなるのか。
短い時間の二分の経過が、二時間のように長く感じられる。
「あ、発走除外だって」
冴の冷静さが無情だが、目の前で大事故に至らずで住民たちは胸を撫で下ろす。
「あの、発走除外って。馬券はどうなるの?」
競馬初心者の惠が優に伺いを立てる。
「基本的には返還されて、賭けたお金は戻って来るよ」
返事を受けると『なら、良かったですね。果凛さん』の惠は明るく果凛に向くが、ツインテールを小刻みに動かしている。
「枠連はダメなんだよなぁ」
果凛は大きな息を床にぶつけると、優が解説する。
枠連の発走除外は同枠に出走馬がいると、同枠のゾロ目以外は返還にならない。
2枠3番プリンスチャームは競争除外だけと、同じ2枠の2番にキラービーが出走するから枠連の返還は無理だ。
キラービーはプリンスチャームの除外後、14頭立の13番人気だ。
鞍さんが買おうとした馬連ならこの悲劇は避けられた。
「冴姉ぇ…」
果凛は珍しく涙目になる。
だが、冴は首をゆっくり左右に振り『先週の桜花賞、間違えて買ったスマイルカナが馬券になった』のと同じ期待はするなと残念がる。
そして一頭少ない十四頭のゲートインを迎えた。
ドラゴンズバックが好スタートもトロワマルスがダッシュを効かせて先頭に立つ。
3番手はグットマックス。
『どこにいるんだよ』と果凛が探す馬券絡みの二頭をやっとカメラが捉えると、カップッチョは後から3番手、キラービーは最後方だ。
不良馬場の芝1200m、3コーナーでこの状況、ほぼ、お手上げだ。
トロワマルスは悪い馬場をものともせず、先頭を突き進む。
直線を向いても持ったまま、少し行ったところで追い出しにかかると後方を突き放す。
水飛沫を上げて、独走態勢になると果凛が好きなデムーロ騎手を背に5馬身差の圧勝だ。
さすが、鞍さんが連軸と見立てただけのある強い競馬だ。
例の二頭は何処かへ行ってしまっていた。
結果は1着と12着、『代用品』は13着だ。
果凛が悔しそうに肩を落として震えている。
哀情を漂わす鞍さんと惠は『どうしよう?』と困ったように顔を見合わせる。
『まあ、こんなこともあるよ』と言う冴は果凛の肩を『気にするな』と小さく叩き、励ました。
「いやー、惜しかったですね」
優が果凛に近づくと軽口を叩く、本人は彼女を元気づけしているらしい。
「果凛さんが選んだ馬が除外にならなければ、馬券、取れてましたよ」
その瞬間、優はオットマン後方へ吹っ飛んだ。
『あっくすぼんばー』と雄叫びが後を追った。
右腕をくの字に曲げ、プロレス技を繰り出した果凛が鼻息荒く佇立する。
「タイムオーバーを喰らう馬を選ぶヤツに馬鹿にされたくないわ!」
今日の不良馬場では馬の馬場適性もあるだろうが、果凛はそんなの無視だ。
彼女の肩とツインテールが息を切らすように同時に上下する。
『タイムオーバーって?』惠の問いに冴が答える。
勝った馬から離され過ぎたりすると、ペナルティが科される。
今回の芝1200mの1勝クラス、新馬以外の競走で1400m以下の芝のレースだから、勝馬から3秒離されると制裁として、一ヶ月間出走できないとのことだ。
『優もしばらく『出走』出来ないのかねぇ』と床に倒れた男を冴は冷静に眺めていた。
まあ、それは早く元気になって欲しいと、姉から弟への思い遣りの気持ちなのだ。
次のレースが望む方向にいけば良いのだ、そう住民たちは願っていた。
「よし、取った!」
タイセイビジョンが直線内に切れ込むと、後続を2馬身離す。
直線は力強く抜け出す姿が小気味良い。
優が腰あたりで右手の拳を引くと、ガッツポーズとなる。
惠はスタートからゴールまで叫びっぱなしで、煩すぎた。
土曜阪神メインのアーリントカップは惠が主役だ。
晴れ間が見える阪神コースを観ると中山も明日は晴れるといいなと思うのは惠だけではないだろう。
朝日フューチュリティで大好きなサリオスの2着したタイセイビジョン、『休み明けだけど友情応援するんだ』と言い張っていた。
優も唯一の重賞勝ち馬なら、休み明けでも確か3月18日から8本時計を出した調教が乗り込み豊富なので、十分勝負なると踏んだ。
『じゃあ、単勝1万円、勝負しちゃいましょう』は鞍さんのご神託だった。
「お見事」
「やったな」
目を細めた冴が拍手すると、顔を紅潮させた果凛が惠に抱きつく。
惠も抱きつき返す姿を鞍さんが微笑ましく眺める。
やはり競馬ファンの喜びは馬券的中に他ならない。
「結果論ですが、この強さなら単勝の払い戻し300円はオイシイかも」
優も中山6レースの汚名が挽回出来たとあって喜びもひとしおだ。
復活した優を鞍さんが微笑ましい表情を向け、スマホを手にする。
自身が申し込んだスマホの画面でアーリントカップの的中を噛みしめたかったのだ。
「あれっ」
何だか動作がおかしい、いつもの画面に行かない。
『鞍さん、大丈夫?』の冴に『ええ、まあ、いいか』との鞍さんだ。
柱の時計を見ると四時が過ぎる。
鞍さんは『予想大会の準備しなきゃ』とエプロンの皺を直す。
リビングを見渡すと目尻を下げる果凛が『惠の方が馬券上手じゃん』と優をからかっていた。
冴と惠はその光景に失笑する。
住民たちの仲が良い光景を目にして、気持ちよく皐月賞の『予想大会』できますねと、鞍さんはリビングに漂わした。
『予想大会』で饗される手作り料理、その準備にキッチンに向かう鞍さんはやはり嬉しそうだった。
果凛が競馬観戦のためにリモコンをテレビに向け、『鞍さんの作るおにぎりは絶品だな』と堪能する。
住民たちも雨降りの中で毛艶も分からないような6レースのパドックの確認を諦め、鞍さんの包み飯を味わうのが優先する。
テレビが点灯すると、ゲート前、一頭の馬に注目が集まるのが映し出されていた。
『え、何なの?』と焦る果凛が食い入るように見る。
ゼッケンから、対象は2枠3番プリンスチャームだと分かる。
「馬体検査ですね」
優が事実を述べるとリビングに緊張が走る。
馬場入場後、騎手を振り落とそうとするほど、暴走したらしい。
『出走できるのかしら…』と鞍さんが不安がる。
乗馬の経験が深い鞍さんは、馬が傷つくのは見たくないという。
「まあ、無理して出走する必要はないですよね」
惠の心配を住民たちは容認するが、実際どうなるのか。
短い時間の二分の経過が、二時間のように長く感じられる。
「あ、発走除外だって」
冴の冷静さが無情だが、目の前で大事故に至らずで住民たちは胸を撫で下ろす。
「あの、発走除外って。馬券はどうなるの?」
競馬初心者の惠が優に伺いを立てる。
「基本的には返還されて、賭けたお金は戻って来るよ」
返事を受けると『なら、良かったですね。果凛さん』の惠は明るく果凛に向くが、ツインテールを小刻みに動かしている。
「枠連はダメなんだよなぁ」
果凛は大きな息を床にぶつけると、優が解説する。
枠連の発走除外は同枠に出走馬がいると、同枠のゾロ目以外は返還にならない。
2枠3番プリンスチャームは競争除外だけと、同じ2枠の2番にキラービーが出走するから枠連の返還は無理だ。
キラービーはプリンスチャームの除外後、14頭立の13番人気だ。
鞍さんが買おうとした馬連ならこの悲劇は避けられた。
「冴姉ぇ…」
果凛は珍しく涙目になる。
だが、冴は首をゆっくり左右に振り『先週の桜花賞、間違えて買ったスマイルカナが馬券になった』のと同じ期待はするなと残念がる。
そして一頭少ない十四頭のゲートインを迎えた。
ドラゴンズバックが好スタートもトロワマルスがダッシュを効かせて先頭に立つ。
3番手はグットマックス。
『どこにいるんだよ』と果凛が探す馬券絡みの二頭をやっとカメラが捉えると、カップッチョは後から3番手、キラービーは最後方だ。
不良馬場の芝1200m、3コーナーでこの状況、ほぼ、お手上げだ。
トロワマルスは悪い馬場をものともせず、先頭を突き進む。
直線を向いても持ったまま、少し行ったところで追い出しにかかると後方を突き放す。
水飛沫を上げて、独走態勢になると果凛が好きなデムーロ騎手を背に5馬身差の圧勝だ。
さすが、鞍さんが連軸と見立てただけのある強い競馬だ。
例の二頭は何処かへ行ってしまっていた。
結果は1着と12着、『代用品』は13着だ。
果凛が悔しそうに肩を落として震えている。
哀情を漂わす鞍さんと惠は『どうしよう?』と困ったように顔を見合わせる。
『まあ、こんなこともあるよ』と言う冴は果凛の肩を『気にするな』と小さく叩き、励ました。
「いやー、惜しかったですね」
優が果凛に近づくと軽口を叩く、本人は彼女を元気づけしているらしい。
「果凛さんが選んだ馬が除外にならなければ、馬券、取れてましたよ」
その瞬間、優はオットマン後方へ吹っ飛んだ。
『あっくすぼんばー』と雄叫びが後を追った。
右腕をくの字に曲げ、プロレス技を繰り出した果凛が鼻息荒く佇立する。
「タイムオーバーを喰らう馬を選ぶヤツに馬鹿にされたくないわ!」
今日の不良馬場では馬の馬場適性もあるだろうが、果凛はそんなの無視だ。
彼女の肩とツインテールが息を切らすように同時に上下する。
『タイムオーバーって?』惠の問いに冴が答える。
勝った馬から離され過ぎたりすると、ペナルティが科される。
今回の芝1200mの1勝クラス、新馬以外の競走で1400m以下の芝のレースだから、勝馬から3秒離されると制裁として、一ヶ月間出走できないとのことだ。
『優もしばらく『出走』出来ないのかねぇ』と床に倒れた男を冴は冷静に眺めていた。
まあ、それは早く元気になって欲しいと、姉から弟への思い遣りの気持ちなのだ。
次のレースが望む方向にいけば良いのだ、そう住民たちは願っていた。
「よし、取った!」
タイセイビジョンが直線内に切れ込むと、後続を2馬身離す。
直線は力強く抜け出す姿が小気味良い。
優が腰あたりで右手の拳を引くと、ガッツポーズとなる。
惠はスタートからゴールまで叫びっぱなしで、煩すぎた。
土曜阪神メインのアーリントカップは惠が主役だ。
晴れ間が見える阪神コースを観ると中山も明日は晴れるといいなと思うのは惠だけではないだろう。
朝日フューチュリティで大好きなサリオスの2着したタイセイビジョン、『休み明けだけど友情応援するんだ』と言い張っていた。
優も唯一の重賞勝ち馬なら、休み明けでも確か3月18日から8本時計を出した調教が乗り込み豊富なので、十分勝負なると踏んだ。
『じゃあ、単勝1万円、勝負しちゃいましょう』は鞍さんのご神託だった。
「お見事」
「やったな」
目を細めた冴が拍手すると、顔を紅潮させた果凛が惠に抱きつく。
惠も抱きつき返す姿を鞍さんが微笑ましく眺める。
やはり競馬ファンの喜びは馬券的中に他ならない。
「結果論ですが、この強さなら単勝の払い戻し300円はオイシイかも」
優も中山6レースの汚名が挽回出来たとあって喜びもひとしおだ。
復活した優を鞍さんが微笑ましい表情を向け、スマホを手にする。
自身が申し込んだスマホの画面でアーリントカップの的中を噛みしめたかったのだ。
「あれっ」
何だか動作がおかしい、いつもの画面に行かない。
『鞍さん、大丈夫?』の冴に『ええ、まあ、いいか』との鞍さんだ。
柱の時計を見ると四時が過ぎる。
鞍さんは『予想大会の準備しなきゃ』とエプロンの皺を直す。
リビングを見渡すと目尻を下げる果凛が『惠の方が馬券上手じゃん』と優をからかっていた。
冴と惠はその光景に失笑する。
住民たちの仲が良い光景を目にして、気持ちよく皐月賞の『予想大会』できますねと、鞍さんはリビングに漂わした。
『予想大会』で饗される手作り料理、その準備にキッチンに向かう鞍さんはやはり嬉しそうだった。