2020年4月2日

文字数 2,188文字

2020年4月2日
 朝、相変わらず咳が出る。おまけに、時々胸が痛くなる。天気もいいので、掃除をして換気をする。風が少し強いが、陽の光が暖かい。パンデミックの現実を忘れそうになる。

 パンデミックは近代以前から発生している。それを産業化やグローバル化のせいと批判することは短絡的である。ただ、近代産業化は、主として農業が引き起こしてきた従前の環境破壊に比べて、その規模・速度がはるかに上回っている。また、グローバル化はそれまでの人間の移動の歴史を圧縮している。そのため、パンデミックが発生しやすい条件が用意されていることは確かだ。

 「感染症と人類史」や「感染症と世界史」というトピックはそのスケールにおいて魅力があり、研究の意欲を刺激する。そのため、少なからずの著作が出版されている。それを抽象化すれば、次のようになるだろう。

 森林などの自然環境を開発すれば、動物の生息領域が狭まり、異種同士の接触機会が増える。それを通じて病原体が変異する可能性が高まる。そうした領域へ進出することで、人間は動物と触れることが増加、病原体に感染しやすくなる。

 農業を始めとする産業が発展すると、人口が増加したり、都市化が進展したりするため、人間同士の接触が増える。都市には内発的に人口増加させる力が弱い。けれども、システム論的に関連ビジネスの機会を大きくするので、周辺から人口を集めやすい。こうした状況により、従来は個人や家族間でとどまっていたが、共同体内で感染症が流行するようになる。

 また、戦争も密集空間や他の共同体との接触機会を増やすのみならず、食糧事情・衛生環境を悪化させ、感染・発症リスクを大きくする。さらに、インフラ整備や交通手段の発展に伴い、移動できる距離が拡大、速度が上昇、物量が増大する。それにより感染者が潜伏期間内に遠方に動いたり、媒介する動物が運ばれたりするようになって、感染症の流行地域が拡張してしまう。

 産業化・グローバル化はこの過程の圧縮である。しかし、そこで発達した経済や科学が感染症対対応につながったことを見流してはならない。食糧事情の向上、公衆衛生の改善、科学的知識の進化、情報の共有、医療資源の蓄積などはその産物であり、それなくして今日の感染症の抑制はあり得ない。そうした背景により、天然痘は根絶され、ペストやコレラが大流行することはまずない。

 産業化・グローバル化は移動の歴史の圧縮であるから、新興感染症が従来に増して出現しやすいことは確かである。数が多ければ、それはパンデミック化しやすい。環境問題だけでなく、新興感染症対策も前提にして持続可能な開発に取り組む必要がある。

 新興感染症は絶えず生まれている。それがいつパンデミックにつながるかはリスクではなく、不確実性に属する。SARSや鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ、MERSなど21世紀に入ってから数年に一度の割合で流行が起きている。それを念頭に置くなら、環境問題同様、新興感染症は持続可能な開発の検討・実践に組み入れるべきだ。

 持続可能な開発は将来世代の消費水準を現在とほぼ一定に維持することである。それには従来民間・社会資本に限定されてきた資本概念を自然・人的・社会関係資本などに拡張し、その投資を促進する必要がある。ただ、感染症問題は地球温暖化と違い、慢性と言うより、急性の事態をもたらす。医療を始め制度資本もそれに加えることが求められる。

 新自由主義が浸透した政府や企業の姿勢は、新興感染症の流行の際、感染を防止するどころか、促進しかねないことを示している。政府は無駄の削減と称して医療資源を縮小、製薬会社も利益の少ないワクチンの開発から手を引いている。感染爆発が起こると、自身御無関心や無責任、無能をごまかすために、政府は情報操作、企業も隠蔽工作に熱心に取り組む有り様である。悪いのは他国や国際機関、市民、運だというわけだ。パンデミックをきっかけに新たに信頼と協力が形成されるとは限らず、むしろ、自己正当化の口実に利用される。

 今回の最大の教訓は健康や公衆衛生の重要な理由が身に染みたことだ。格差拡大や社会保障不備がパンデミックには弱いことが明らかになっている。社会厚生関数を新自由主義の稼得能力依存型からジョン・ロールズ型にすることが感染症問題を前提にした持続可能な開発に不可欠である。それには税制の整備や財政の健全性を怠ってはならない。

 夕食は、酢豚、豆腐とニンジンの中華スープ、蒸し鶏の野菜サラダ、ダイコンとしらすのマリネ、食後はコーヒー、干し柿。ウォーキングは10249歩。都内の新規陽性者数は97人。

参照文献
石弘之、『感染症の世界史』、角川ソフィア文庫)、2018年
加藤茂孝、『人類と感染症の歴史』、丸善出版社、2013年
ジャレド・ダイアモンド、『銃・病原菌・鉄』上下、倉骨彰訳、集英社文庫、2012年
田城孝雄他、『感染症と生体防御』、放送大学教育振興会、2018年
マイク・デイヴィス、『感染爆発』、柴田裕之他訳、紀伊国屋書店、2006年
メアリー・ドブソン、『Disease 人類を襲った30の病魔』、小林力訳、医学書院、2010年
ウィリアム・H・マクニール、『疫病と世界史』上下、佐々木昭訳、中公文庫、2007年
山本太郎、『感染症と文明――共生への道』、岩波新書、2011年
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み