第49話

文字数 2,653文字

 そうか、とルイスはため息のように言った。
「そもそも、僕はずっと前から気になっているんです」シノワが言葉を継ぐ。「どうして魔法は封じられていたんでしょうか? 建国史が史実だとしたら、初代司祭が【星】を封じたことで、魔法が魔法使いだけのものになりました。つまり、それまで魔法は封じられていなかった。どうして初代司祭は【星】を封じたんでしょうか。少なくとも、そうする必要があったからですよね?」
「言い伝えでは、内紛を終結させるためだったと言われている」
 ルイスが答えるが、シノワはどこか釈然としなかった。
 子どもの頃から何度も聞いてきた建国史。子どもの頃は疑問に思うこともなく聞いていたのだが、最近になって、魔法がこうして存在していることが、どうしてもいいことだと思えなかった原因はこれだとシノワは思った。
「そもそも、初代司祭はお墓を掘っていて封じられていた【星】を偶然見つけてしまったんですよね? ということは、元々【星】は封じられていたということになりませんか? だとしたら、どうして【星】は封じられてたんでしょうか。必要のないものだったからじゃないんですか?」
 ふり返ると、ガゼルがにやっと笑った。
「とてもいい着眼点だよ、シノワ」
 その言い回しに、シノワはハッとする。ここカルムでは魔法の火には神が宿らないと言われていたり、他の魔法使いの本拠地でも、魔法を禁止されているものがあったことを思い出す。
「魔法使いは、本当に大切なものには魔法を使わない……」
 半ば独り言のようにつぶやくと、ガゼルが、その通り、と楽しげに言った。
「建国当時、初代当主たちは【星】から得る魔法を、善きもの、とは認識してなかったってことだよ。だって、彼らは【星】を一生懸命力を合わせて封じたんだから」
「そうか、じゃあ、やっぱり……」
 言いかけたシノワをさえぎるように、ガゼルはチチッと舌打ちをする。
「建国史は千年ぐらい前の話だ。現在も魔法が封じられるべきかどうかは、また別の問題だよ」
 えぇ、とシノワが肩を落とすと、隣でルイスがくすりと笑みをこぼす。
「ウィルド、あなたは面白い導き方をするのですね」
「そうでしょうか」
 ガゼルは物の名前や道具の使い方などはすぐ教えてくれるが、こういうことの答えは全く教えてくれない。シノワには少しも導かれているようには思えなかった。
──魔法がどうあるべきかを、魔法使い以外の人間が考え、選択する。それが私とクリフォードの望みだよ
 シノワが一生懸命お願いして、やっとガゼルが答えたのはそれだけだ。だから、シノワが考え、答えを出すしかない。
 シノワは息を吸った。
「魔法の広がったテサには、良いことも悪いこともある。でも、ジーナさんは、クリフォードさんは敢えて失敗させるさせるために魔法を解放したんだと言いました。つまり、クリフォードさんも、これは「失敗」だと思ってた。ルイスさんも、魔法の解放には反対だった。そして僕も、いろいろな出来事を見て、いろんな人の話も聞きましたが、それでも、どうしても魔法をこのままにしておきたいと思えない。初代司祭と当主たちも魔法を封じたし、戦争は終わったのに、クリフォードさんが解放するまで魔法は封じられてきた。それは、たぶん、封じておくべきだったからです。きっとテサの人を困らせるためじゃありません。
 だから、僕は、魔法を元のように封じてほしい。これが今の僕の答えです」
 ルイスは満足げに微笑んだ。
「では、カノの証文を」そう言ってルイスはゆっくりと息を吸う。「カノは魔法封じに賛同する」
 ルイスの口からこぼれ出た光が弧を描き、ガゼルの手のひらに落ちた。そしてダイスの第五の面に、火を表す赤い文字が浮かび上がった。
「確かにいただきました」
 そう言ってガゼルはシノワの手のひらにダイスを載せた。
 ついに、証文がそろった。賛成四人、協力しないが一人。これで、魔法が封じられる。
 思わずシノワがふり返ると、ガゼルは笑ってうなずいた。
「よくがんばったね」
 シノワは思わず泣きそうになって、もう一度手のひらのダイスに目を落とす。
「正直、あなたが協力してくださるとは思いませんでした」
 ガゼルが言うと、ルイスは表情を厳しくした。ガゼルは眉を持ち上げる。
「そのことなのですが、ウィルド。あなたにお話しておかなければならないことがあるのですよ。私も悠長に構えている場合ではなくなってきたようでして」
「と言いますと?」
「今回の件にも、裏でジュストが関わっています」
 シノワはさっと額が冷たくなるのを感じた。学院長が関わっているとはどういうことなのか。ガゼルの方を見やると、彼はいつになく険しい表情を浮かべていた。
「それは確かですか?」
「ええ。クロムは、ソウェルのために長く法印(タウ)を研究してはいましたが、成功には至りませんでした。クロムに協力していた友人たちからも話を聞いたのですが、ソウェルの法印に関しては、クロムがノービルメンテの者から助言をもらっていたと言うのです。確かに、クロムが組んだにしては繊細で複雑過ぎるものでした。ユルの者かどうかはわかりませんが、ノービルメンテは確実に関わっています」
「ここへ来てすぐに、ご子息が動かれたのも、彼らから情報を得ていたからでしょうか」
 おそらく、とルイスはうなずいた。
「クロワでのおもちゃの話も、おそらくジュストが関わっていると見て、間違いないでしょう。クロワの外への流通が確認できましたが、その後の足取りが追えませんでした。クロワの流通ルートのいくつかは、ジュストも深く関わっていますから、知らないということはあり得ないでしょう。
 そして今、法庁(バーカナン)以外の役所の方でも、何やらおかしな動きがあるという報告が入りました。昔からどの役所でも、上層部にノービルメンテ出身者が多かったのですが、最近になって、トップが少しずつノービルメンテ出身者か、ユル家の者に変わりつつあるというのですよ」
 ガゼルは深々とため息をついた。
「ユルが司祭に非協力的なのは、建国当時からの伝統だという話ですが、あの人は国家転覆でも狙ってるんですかね」
「この動きはさすがに捨て置けません。どうか、法庁(バーカナン)にお戻りください、ウィルド」
 面倒だなあ、とうめいてガゼルは椅子の背にもたれかかった。
「ウィルド、カノの証文は、ジュストの動きを止めるためのものと思っていただきたい。何かあれば、お呼びください。いつでもカノは参じます」
「ありがとうございます、カノ」
 うなずくと、ルイスは腰を上げた。
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