第22話 育谷江大の上司の過去

文字数 6,497文字

------------------------20年前------------------------

 

少年はそこに立っていた。


11歳のあどけなさの残る。

赤い帽子と履き古したスニーカーを身に着けた
ごく普通の・・? いや・・
彼の目だけは、普通の経験をした
少年のそれではない。
幾多の戦いを経験した(おとこ)の目。

それもその筈。
目が合えば問答無用で戦いを挑んでくる
凶悪なトレーナー。それらを数百人退け
各町に存在するジムで、ジムリーダーが持っている
8つのバッヂを手にした者のみが立てる場所‥
ここは、モケポンリーグ

  それは、凄まじく厳しい戦いで
4人の強敵四天脳を倒して初めて姿を現す
チャンピョンを倒さないといけないのだ!

 当然一度戦闘エリアに足を踏み入れたら
勝ち抜くまで戻る事は出来ない
まさにデッドオアアライブ。
しっかり回復薬の備蓄をしていなければ
途中で力尽きてしまう。だが、少年は
激闘の末四天脳を撃破。



ついにチャンピョンが姿を現す。
・・!? 子供である・・しかもその顔には見覚えが
チャンピョンは何と
少年と共に同じ町から旅立ったライバルの少年。
その名は、クリーンだったのだ。
 
「よおーッ! !おまえ!
おまえも きたか!
…… はッはッ うれしいぜ!
ライバルの おまえが よわいと
はりあい ないからな!
おれは ずかん あつめ ながら
かんぺきな モケポンを さがした!
いろんな タイプの モケポンに
かち まくる ような
コンビネーションを さがした!
…… そして いま!
おれは モケポン リーグの
ちょうてんに いる!

おまえ!

この いみが わかるか?
…… …… ……
…… わかった! おしえてやる!
この おれさまが!
せかいで いちばん!
つよいって こと なんだよ!」

 と言い戦いは始まる。


 
まず
鳩の様なピジッョトを使い
つばさで欝、吹き飛ばすゾ等を使用し翻弄。
そいつを倒すと

 エスパータイプのフデーィン
狐のような顔で長い髭を生やし
黄色い皮膚のモケポンだ。
素早い上に賢くて、サイコキネツスや
サイケ光線爆弾で苦しめてくる。

 そして次は、大きな(さい)の様なモケポンの
サインドを駆使してくる。
そいつの恐ろしい
にらみつけろとしっぽふりふりで防御を下げてからの
強烈なみだれ月は痛いにも程がある。

それを退けると次は
やしの木を彷彿とさせるモケポンの
ナッーシが登場。彼の催眠街で眠らせてからの
ふみつけろや、たまなげろのコンビネーションも
尋常ではない。しかし

その大リーガーも裸足で逃げ出す程
剛速球の【たま】の間を掻い潜り
ほんの僅かな隙を狙い、必殺の一撃を叩き込む!

 そして彼は、伝説の炎モケポンまでも操る。 
その名はウイィンデ。
炎のように赤い毛皮の大型犬のモケポンだ 
彼のにらみつけろからのほえろの
コンボに恐怖しながらも果敢に戦い続ける。

 最後に登場するはカメスクッ
祖父の大木怒博士から貰った最愛のパートナー。
水色の表皮と甲羅を持ち、大きい大砲を二門
背中に装備した亀型のモケポン。
彼が挑戦者の少年と共に旅立つ時は
まだ小さいコゼニカセギガメであったが
身長3倍、体重10倍以上の大きさに進化し
少年を迎え撃つ!

 必殺のからにこもろとかみつけで
激しく攻撃してくる。その猛攻を退け
満身創痍の中勝利を手にしたのだ。

 何? チャンピョンの割には
技がしょぼいのではないかであるだと?
それにサインドの技構成は防御低下が二つある
一つでいいのではないかだと?
む!! 鋭いな。
サインドの防御低下二つ持ちの理由は
私の考えではあるが恐らくこんな理由がある。
それは・・かなしばれ対策なのだ
かなしばれとは、相手の技一つをランダムで
数ターン使用禁止にする恐怖の技。
せっかく防御を下げて弱ったところに
鋭い攻撃をヒットさせるという素晴らしいコンボ
その前段階を封印されては意味がない。
だが、その完璧な技、かなしばりれにも欠点がある。
それは、一つの技しか封じられないという事
故に、しっぽふりふりが封印されている時は
にらみつけろで、にらみつけろが封印された時は
しっぽふりふりで確実に守備力を下げる事ができる
こうする事で・・何?
それじゃ肝心の攻撃技の、みだれ月が
封じられたらどうするのだ? ・・だと?

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 そ、そそそそういう確率は
絶対確実にないので安心してほしい。

 そして、技がしょぼい事に関してだが
そうなのだ、彼は途方もない
縛りプレイをした上でリーグを制したのではないか?
という結論に達した。

だがこれは、直接本人に聞いた話ではない
あくまで仮説という前提で聞いていただきたい。
その縛りとは、スキルマシン使用禁止と
レベルアップで習得した技は必ず覚えさせると
といった内容だ。

 一つずつ説明していく

 スキルマシンとは1から50まであり
そのマシンには、技のノウハウが入っている。
本来の成長では覚えない技でも
適性があれば使用するだけで強制的に
番号に対応した技を覚えさせる事ができる。

 ただその際、4つまでしか技欄がないため
一つ忘れなくてはいけない
今まで使っていた馴染みの技を強制的に
忘れさせられたモケポンは

         ξポカンξ

 という凄惨な破裂音と共に
今の今まで覚えていた筈の技を跡形もなく忘れ
同時に激しい頭痛を伴う。
それもその筈、強制的に全く新たな情報を
頭に流し込まれる訳だ。そう・・強制的に・・
その音は恐らくモケポンの脳細胞が
1億個消滅する時に響く音と言われている。

マスターが任意のモケポンの頭にヘルメット状の
器具を装着させて使用するマシンだ。
モケポン達は専用の捕獲ボールに閉じ込めているので
逃げたくても逃げられない

 そして 元々あった物を忘却していく時

 「イタイヨ クルシイヨ」

 言葉は話せないが、そんな事を習得中に
思っているかもしれない。
その為彼は、自分のモケポンを
そんな目に合わせたくないという優しさから
スキルマシンを完全に縛った。

  クリーンは疑問に思っていたのだ。
自然の摂理を捻じ曲げてまで
モケポン達を戦いの道具にする必要はあるのか?
‥という事を
そんな物に頼らず、自力で覚えるスキル
のみでも戦えるのではないか? と。
そして、当然秘伝スキルマシンという
便利なマシンも縛った。

 これは物語の進行上必須の技を
覚えられるマシンの事で
道を塞いでいる木とかを切ったり
大岩を動かしたり、暗い洞窟内を照らしたり
水上を移動したり、空を飛び移動したりと
便利な技が詰まっているが
一度使うと忘れる事ができない
4つしか技スペースがないのに、その内の一つを
一生そのままでは不憫と考えたのだろう
なんと優しいチャンピョンなのだ・・

名は体を表すというがまさにクリーンな心を持つ男。
私はこういう男は嫌いではない。

 一応一つだけ忘れる方法はあるが
忘れ親父というおっさんに会わなくてはいけない
そこで、彼に強烈な忘却の魔術を
施されなければ忘れる事が出来ない。
当然モケポン達は、苦しみながら忘れる事になる。
ならば初めから覚えさせなければよい。

 故に目の前に立ちはだかる木は、手刀で切り落とし
動かせる大岩は、モケポン達と力を合わせ押し動かし
闇に包まれ光が無くては進めない暗い洞窟内は
何度何度も入り、伊能忠敬のごとく
地道に歩きながらマッピングして攻略した。
水上を移動する時に必要な技も使わず
クリーン一人で簡易な筏いかだを造り移動した。

空をとぶ技は便利であるが
何故か自由に飛び回る事は出来ず
一度行った事がある街にしか行けないので
地上の移動は、自転車で東奔西走したという。

 いくら大切な仲間だからと言って
ここまで親身になって彼らを守れるトレーナーは
一体どれだけ居るのだろうか? その上で
モケポンリーグの頂点を目指しているのだから
頭が下がる。努力を決して惜しまず
粉骨砕身モケポン達を守るその姿勢
誰でも出来る事ではない。

 2つ目の縛りは
モケポンは成長と共に新しい技を覚える。
その技も、順番に自然の流れに任せ
モケポン達の自由に覚えさせた。
その結果が、あの技構成なのだ。
純粋に鍛えぬき成長し、体に宿った技。
それこそがそのモケポンの最高の技
そういう考えに至ってもおかしくはないであろう。
クリーンはその考えを決して捻じ曲げず
四天脳を倒していきチャンピョンとなった。
道中沢山の回復薬を使用する事にはなったが・・
縛りを徹頭徹尾し、王者になった者はクリーンのみ
前人未到で空前絶後、唯一無二の偉業を成し遂げた。

  私は全シリーズプレイしているが
その私の記憶が正しければ、後にも先にもこれ程までの
偉業をなしとげたチャンピョンはいない。
・・と、これが私の立てた仮説である。
全てあっているとは限らないが
かなり良い線は行っていると思う。

 そして、王座に君臨しても
そのスタイルを決して変える事は無かった。

 しかし、挑戦者は王者ともあろうものが
そんな縛りをしているとは露知らず
スキルマシン全開で超凶悪な
破壊兵器の様なモケポン達で挑み、勝利を手にした。
王者になると、任天動オフィシャルルールにより
回復薬の使用回数が限られてしまう。
いつもの必殺の無限回復戦術が封じられてしまうのだ。
これじゃあ負けてしまっても仕方がない・・
負けた時のクリーンのセリフが、私の心に深く響く。

 …… ばかな!
ほんとに おわったのか!
ぜんりょくを かけたのに まけた!
せっかく モケポン リーグの
ちょうてんに たったのに よう!
もう……!
おれさまの てんかは おわりかよ!
…… そりゃ ないぜ!

 なぜ……
なぜ まけてしまったんだ……
おれの そだてかた……
まちがってなんか いないはずなのに
しょうが ないぜ……
おまえが モケポン リーグ
しん チャンピョンだ……!

…… …… ……

…… みとめたく ねーけど

 そう、彼なりに天然では最強の組み合わせで
迎え撃ったが、縛りに縛り切った技構成に加え
回復薬の回数制限も数回のみでは
ガチガチにスキルマシンで覚えさせ
回復薬の使用制限がない
挑戦者のモケポンには及ばなかったという事だ
だが、チャンピョンは
彼のモケポンのナチュラルパワーを信じ
力の限り戦った。

少年はクリーンとリーグで会う前にも
何度か戦っている。その時の技構成思い返してみる。
すると、その時もスキルマシンを
使った形跡は無かったのだ。
もともとそういうマシンの存在を
知らなかっただけなのではと思う方もいるだろうが
豪華客船サントワンヌ号で船長から
秘伝スキルマシン1を受け取っている。
知っていて敢えて縛ったという根拠はここである。

 「おれのそだてかた……
まちがってなんか いないはずなのに」

 彼のこの言葉には偽りはないだろう。
彼がスキルマシンを使用していたなら・・
覚える技で必要な物を厳選し、新しく覚えた技でも
弱い技、使えない技なら切り捨てるという冷徹さがあれば
彼の地位は揺るがなかったであろう
だが、彼はそれをしなかった。
その理由は一つ
モケポン達に対する深い愛情。それだけだった。

 私は強く思う。後にも先にも
こんなストイックな王者はいなかった。
かれはせかいでいちばんつよくやさしいチャンピョンだ。
断言する!

挑戦者は、その竜攘虎搏(りゅうじょうこはく)の戦いに勝ち賞金を受け取る。

 四天脳から一人5000円位
チャンピョンから6000円と合計26000円貰えるのだ。
勝利した後、大木怒博士がやってきて
祝福の言葉を述べていく。そして、その後
殿堂入りしモケポンを登録すると
エンデングと言う物が流れ出す。

 そして、ここからが信じられないかもしれないが
それを見終わると、何故か理屈は分からぬが
また四天脳と戦う前に戻っているのだ!!
だが更に驚くべき事に先ほど受け取ったはずの
26000円は残っている・・!

そして仲間モケポン達にも異変が、そう
戦った経験は積まれていて、レベルアップしている。

 そして恐る恐る中に入ってみると
先程戦った四天脳が
初めて会う様な素振りで声を掛けてくる。
これは、タイムリープの一種であろうか?
しかし、既に相手の手の内は掌握済み。
更に経験も積んで
初戦時よりも強くなっているので
楽に倒す事ができる。
そして当然の様に再び同じ賞金を獲得できる。

 もうお分かりだろう。彼はこの不思議な現象を利用し
繰り返し行ったのだ。それだけでも凄い事であるが
彼は一味も二味も違った。一般人は混乱し
右往左往しているところであるが
更に効率を考え
先頭の自分のパートナーモケポンに
山盛りご飯と言うアイテムを持たす。

このアイテムの効果は、相手が支払う金額が
何と2倍になるのだ。そして技にも拘った
モケポンの技の中には猫も小判という技がある。
その技を使用すると、レベルの2倍のお金が入る。
レベル100の猫も小判は一回200円
32回使用可能なので使い切れば
山盛りご飯の効果も合いまり12800円追加される。

 そう、彼は一周約65000円も稼いでいたのだ。
慣れてくると20分位でエンデングが終わる。
一時間に3回は出来る
故に時給195000円になるのだ。それを16時間やれば
3120000円。これを毎日繰り返す事で富を築いた。
しかし彼は、単調で簡単なモケポンマスターに
愛想が尽き、約100億円程稼いだ後に引退し
電力会社を一代で設立したのだ。

 何? 過去に(さかのぼ)り同じお金を
貰っているから、当然同じ番号で
偽札扱いされないかであるだと?

・・大丈夫なのだ。四天脳を含めチャンピョンも
その時偶然小銭しか持ち合わせておらず
全部硬貨による支払いだったのだ。
硬貨には、製造年が記されているが
番号までは記されていない。

だが、同じ年度で同じ人物の指紋が硬貨に付いている。
何枚も同じ場所に同じ指紋が付いた硬貨があるから
ここを指摘されれば危険であるが
65000円分を硬貨で貰い続けると中々重いのだ。
故に、貰う度に自分の口座に振り込んでいたのだ。
なので途中で警察等に尋問され荷物検査されても
ばれる事は無い。

まあ造幣局のその年度の硬貨発行量と
受け取った硬貨の年度を照らし合わせ
その年度の硬貨だけ発行量よりも
はるかに多いという事に気付かれれば
そこから足は付くとは思うが運よく大丈夫だった。

  更には時期も悪かった。当時四天脳も油断していた。
それはクリーンが新チャンピョンとして
その日誕生したばかりだったのだ。その数時間後に
挑戦者が来るなど予想だにしていなかった。
小銭しか持っていなかったのも頷ける。

 ------------------------20年後------------------------

そんな経験をした彼は
モケポンを意のまま操れる。
その技術を人心掌握のスキルにも応用させて
電力会社を経営している。
故に部下の行動は全てお見通し
ピカチュウが秘密裏に行ってきた行動の全てを
すぐに見抜き、こう言い放つ。
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