ナイフ男と奇術師 王の帰還 第1話
文字数 4,243文字
国王プチュミ七世アレキシ・ライトが潜伏先の洞窟からその支持者と共に姿を消したことは本国ダキア王国へも伝えられた。行方は現在のところ不明である。
「十分な数の兵を送ったと聞いていたが、なぜそのような結果になった」
目前に跪き控える千人隊長の報告に摂政イァカミ伯爵は湧き上がる怒りを抑え声を発した。今、この男をこの場で斬り捨てたところで絨毯の染みを作るだけだと自分に言い聞かせる。この場で切り捨てるとは容易いが後釜を探すのは面倒極まりない。実際、その消息を絶って七年経つが先代国王の息子、名ばかりであっても現国王であるアレキシの帰還を待望の声は厚いものがある。それを殺めようというのだ、事は秘密裏に進めなければならない。まだこの男を使わなければならない。
「生存者からの報告によると討伐隊はほぼ二人の男により倒されたということです」
「ただの二人にか……?」
「強力な力を持つ魔導士と魔器使いと聞いております」
「なるほど、並みの兵では歯が立たぬということか」
「……次回は抜かりないよう対処いたします」
「次回か……」
何を悠長なことを……手が腰の剣に向かうが押しとどめる。
「……いいだろう、もう一度機会をやろう」どうにか気を落ち着け言葉を喉から押し出す。
「次は選び抜いた兵を連れお前も先頭に立て。そして必ず陛下を討ち果たせ」
「ありがとうございます。ご期待に副えるよう努めます」頭を床に触れんばかりに押し下げる。
「うむ、それから今出している部隊はすべてこちらに下げるとよい」
「はぁ……」
「この時期に動いた奴の狙いは恐らく先の挙式にあるはず、ならば探さずとも向こうからやって来る。そこを仕留めるのだ。わかったな」
「はい!」
ほどなく千人隊長は伯爵の執務室から出て行った。
「父上からは横着するな、出し惜しみをするなと言われたもんだ」伯爵はため息をついた。
「かえって余計な手間がかかるとな。忌々しいがそれが正しかったのだ」座ったまま椅子から体を回し背後の赤い天幕に話しかけた。
「お前たちに出向いてもらうべきだったな」
「必要な金を惜しむからだ」天幕の向こうから低い男の声が聞こえた。
「で、どれだけ首を取ればよい?」と落ち着いた女の声。
「今のところ三つになりそうだ。後はどうにでもなるだろう」
「承知した」
洞窟からの出口は小さな滝となっていた。滝口の段差を綱を使い一人ずつ降り、流れ続く川に沿って歩いていく。まだ、しばらく陽は昇りそうにないが川面を照らす月が導いてくれそうだ。
しばらくしてコールド達を含むライト一行は対岸へと渡り、そこから細い山道を行きと廃村へと到着した。元は金鉱採掘者の村らしいが、金が取りつくされた今は無人の廃屋があるのみだ。しかし今日は違っている。コールド達が廃屋が並ぶ通りを歩いていくと、それを察した者たちが建物内から姿を現した。皆、濃緑の鎧を身に着けている。ここが彼らの集合地点ようだ。
彼らはライトとの無事な再会に感激していたが、コールド達が混じっていることに戸惑いが隠せない者は多数いた。迷い込んできたよそ者は退去の折は放置される予定だったからだ。それについては、ライトのコールド達による洞窟脱出時の協力を称える言葉により解消することができた。
次の行程としては母国であるダキア王国への帰還である。だが、この濃緑の鎧で行進していくわけにもいかない。多くは無難な旅人や退役兵士に扮して大トリキア公国との国境を越え首都トゥルグ・ムルシュに乗り込むことになっている。どうにも目立つコールド達はベンソンが別行動を提案したが、彼らにもちゃんと役割があてがわれた。
旅の軽業師一座の一員である。確かに商売道具としてなら銃を持ち込んでも短剣を山ほど下げていてもいいわけが立つ。ライトも顔を真っ白に塗り派手なかつらを被る予定らしい。
「これを着るのか」コールドは手渡された時思わず声に出してしまった。
丈が長く巨大な袖がついた上着で布地はぺらぺらしている。柄は職人が持っている明るい色の染料を、全部使ったのではないかと疑う派手さの花模様で、背中にはカンジロウ一座と入っている。
「あっちの予備は残っていないのか」
コールドは他の一座担当の者の上着を指差した。彼らは緑と黒の縞模様の上着を着ている。芝居小屋の地味な緞帳のようだがあちらのほうがまだましだ。
「お前たちにはそれを着てもらう。毒には毒、派手には派手だ。さらに派手なもので覆い隠す。俺も着るから我慢してくれ」
化粧を施されているライトが二人を慰めた。彼は顔を真っ白に唇は赤に塗られ今は目と眉を黒い眉墨で描かれている最中だ。
「悪いな」禿げ頭の男が言った。ジェイソンと言ったか。彼とは捕まって以来何度か言葉を交わしている。
「だが、助かってるよ。あんた達がいなかったら俺たちが着る予定だったんだ」
彼の隣にいる赤毛の女が恥ずかしそうに笑った。
「一理あるかもしれないがこの人数で動くのは危険でもあるぞ」とベンソン。
「わかっている。だが王宮に進入するにはこの一座が必要だ」
ライトは綿帽子のように丸く真っ赤に染められたかつらを被った。
「これもその一つだ。俺は嫌だとは言ってられない」
どのように手に入れたのかダキア王家から出されたカンジロウ一座への招聘状は格別の効き目を現した。国境の検問所では書状に書かれた署名により、眠たげな係官の眼はたちまち見開かれ、荷車に載せられた荷物の検査も手早く終了し出発することができた。
別の検問所の横柄な態度の係官に対しはジェイソンは落ち着いてはいたが、いささか芝居がかった口調で詰め寄った。
「ここで時間を浪費し、摂政閣下との打ち合わせ、さらには挙式での余興に間に合わないとなればどうされるおつもりか」この言葉で係員たちの動きが変わったのはコールド達にとって最大の見せ場となった。
後の首都トゥルグ・ムルシュまでの道中も仇敵であるはずのイァカミ伯爵の署名のおかげで目立つ騒ぎもなく移動することができた。やがて、一行がたどり着いたのは大通りの一つにひっそりと建っている宿だった。建物自体は小ぶりではあるが、入り口の両脇には女神や天使像が飾られた優美な造形にコールド達は目を見張った。
一行からジェイソンが抜け出し宿に入っていった。ほどなく、宿を出てきたジェイソンは宿の脇にある路地を指差した。
「そんなうまい話ないよな」コールドはイヤリングでベンソンに問いかけた。
「あぁ」若干の落胆が伝わってくる。
ベンソンもいくらかは期待していたようだ。裏通りとなればいつも通りの安宿である。食堂や飲み屋が一体化し、狭い個室に手足が洗える洗面台があれば上等である。
コールド達も協力し荷車を路地の奥へと押していく。さっきの宿の裏手まで到着するとジェイソンが車寄せの一画を指差した。
「勝手に泊めていいのか?」とベンソン。
「話はついている。これを表に置いておくわけにはいかないだろう」
「泊まるのはここか」
「そうだ」
コールドとベンソンは思わず顔を見合わせた。
「宿代なら心配ない。こちらで持つからゆっくりと旅の疲れを取ってくれ」とライトの声。
「あぁ、助かるよ」 とコールド。
コールドとベンソンの二人ははなから宿代を払ってもらうつもり気でいたが、それは黙っておいた。
ライトから「二人では狭いかもしれないが我慢してくれ」とあてがわれた部屋の広さはいつもの倍はあり、洗面台どころか水浴びまでできるようになっていた。しばらく洞窟暮らしをしていたといえ、やはり王家と一般人の感覚の違いは大きそうだ。
とりあえず道中の汚れを落としコールド達は集合場所と伝えられた食堂に向かった。ここでも感覚の違いが見えてくる。彼らがよく利用する食堂は小さな四人掛けのテーブルが並べてありカウンターの向こうに調理場が見えているような場所だ。今回案内されたのは靴を付けることもためらうような豪華な絨毯がひかれた広間だった。中央には巨大な縦長のテーブルが置かれ周囲には背もたれの高い椅子が並べられている。ライトとジェイソンを始めとする一座はもう全員揃い席についていた。その雰囲気にコールドは思わず軽く頭を下げてしまった。
「コールド、ベンソンよく来てくれた。空いている席に座ってくれ」
ライトに促され端の方で開いていた席に着いた。
「ミル、彼らはニック・コールドとマーチン・ベンソン。縁あって今回の計画に協力してくれている」
ライトはすぐ横に立っている上等なお仕着せを身に着けている白髪頭で長身の男に手で示した。ミルと呼びかけられた男は奇異ないで立ちの二人組にも微笑みを浮かべ軽く頭を下げた。
「彼はミル・サガン。このハイラル・ジィリオの支配人であり、古くからの父の友人であり俺の支持者でもある人だ。彼のおかげで俺は白塗りも赤いかつらも被らなくて済む」
二人も彼に頭を下げておいた。
「では、ミルこれまでわかったことを話してもらえるか」
「はい、ですがその前にこの部屋についての説明を一つしたいと思います。もうご存じの方もおられるはずですが、お静かにお聞きください」
サガンは後ろを向き最寄りの壁へと近づき、最寄り壁に取り付けられたランプを両手で掴んだ。そして力を込めて右へ四分の一ほど回す。
「非常時はこの部屋にお越しください。このランプを右に回せば」彼はすぐそばに壁を押した。壁は静かに動き奥に通路が見えた。
「隠し扉の鍵が開きます。使用後は必ず鍵を閉めてから立ち去るようにしてください」
サガンはランプを元に戻し向き直った。
「では報告に移りたいと思います。アレキシ様暗殺の失敗の報は既にイァカミ伯爵の耳に入ってることは間違いありません。表立った動きはまだ見られませんが、用心に越したことはないでしょう。 挙式は予定通り執り行われます。イァカミ伯爵の威信が掛っておるでしょうからね。花嫁となるヤスミン様も修道院を出られてからはこちらで過ごされております」
「元気そうか?」
「はい、アレキシ様の帰還の報を聞き大層お喜びになり、一刻も早い再開を待ち望んでおられます」
「まさか、お前その式に乗り込むつもりか?」 とコールド。
「その通り。その場で国民と居合わせた外国の貴賓客たちに国王であるプチュミ七世アレキシ・ライトの帰還を知らしめるつもりだ」
「十分な数の兵を送ったと聞いていたが、なぜそのような結果になった」
目前に跪き控える千人隊長の報告に摂政イァカミ伯爵は湧き上がる怒りを抑え声を発した。今、この男をこの場で斬り捨てたところで絨毯の染みを作るだけだと自分に言い聞かせる。この場で切り捨てるとは容易いが後釜を探すのは面倒極まりない。実際、その消息を絶って七年経つが先代国王の息子、名ばかりであっても現国王であるアレキシの帰還を待望の声は厚いものがある。それを殺めようというのだ、事は秘密裏に進めなければならない。まだこの男を使わなければならない。
「生存者からの報告によると討伐隊はほぼ二人の男により倒されたということです」
「ただの二人にか……?」
「強力な力を持つ魔導士と魔器使いと聞いております」
「なるほど、並みの兵では歯が立たぬということか」
「……次回は抜かりないよう対処いたします」
「次回か……」
何を悠長なことを……手が腰の剣に向かうが押しとどめる。
「……いいだろう、もう一度機会をやろう」どうにか気を落ち着け言葉を喉から押し出す。
「次は選び抜いた兵を連れお前も先頭に立て。そして必ず陛下を討ち果たせ」
「ありがとうございます。ご期待に副えるよう努めます」頭を床に触れんばかりに押し下げる。
「うむ、それから今出している部隊はすべてこちらに下げるとよい」
「はぁ……」
「この時期に動いた奴の狙いは恐らく先の挙式にあるはず、ならば探さずとも向こうからやって来る。そこを仕留めるのだ。わかったな」
「はい!」
ほどなく千人隊長は伯爵の執務室から出て行った。
「父上からは横着するな、出し惜しみをするなと言われたもんだ」伯爵はため息をついた。
「かえって余計な手間がかかるとな。忌々しいがそれが正しかったのだ」座ったまま椅子から体を回し背後の赤い天幕に話しかけた。
「お前たちに出向いてもらうべきだったな」
「必要な金を惜しむからだ」天幕の向こうから低い男の声が聞こえた。
「で、どれだけ首を取ればよい?」と落ち着いた女の声。
「今のところ三つになりそうだ。後はどうにでもなるだろう」
「承知した」
洞窟からの出口は小さな滝となっていた。滝口の段差を綱を使い一人ずつ降り、流れ続く川に沿って歩いていく。まだ、しばらく陽は昇りそうにないが川面を照らす月が導いてくれそうだ。
しばらくしてコールド達を含むライト一行は対岸へと渡り、そこから細い山道を行きと廃村へと到着した。元は金鉱採掘者の村らしいが、金が取りつくされた今は無人の廃屋があるのみだ。しかし今日は違っている。コールド達が廃屋が並ぶ通りを歩いていくと、それを察した者たちが建物内から姿を現した。皆、濃緑の鎧を身に着けている。ここが彼らの集合地点ようだ。
彼らはライトとの無事な再会に感激していたが、コールド達が混じっていることに戸惑いが隠せない者は多数いた。迷い込んできたよそ者は退去の折は放置される予定だったからだ。それについては、ライトのコールド達による洞窟脱出時の協力を称える言葉により解消することができた。
次の行程としては母国であるダキア王国への帰還である。だが、この濃緑の鎧で行進していくわけにもいかない。多くは無難な旅人や退役兵士に扮して大トリキア公国との国境を越え首都トゥルグ・ムルシュに乗り込むことになっている。どうにも目立つコールド達はベンソンが別行動を提案したが、彼らにもちゃんと役割があてがわれた。
旅の軽業師一座の一員である。確かに商売道具としてなら銃を持ち込んでも短剣を山ほど下げていてもいいわけが立つ。ライトも顔を真っ白に塗り派手なかつらを被る予定らしい。
「これを着るのか」コールドは手渡された時思わず声に出してしまった。
丈が長く巨大な袖がついた上着で布地はぺらぺらしている。柄は職人が持っている明るい色の染料を、全部使ったのではないかと疑う派手さの花模様で、背中にはカンジロウ一座と入っている。
「あっちの予備は残っていないのか」
コールドは他の一座担当の者の上着を指差した。彼らは緑と黒の縞模様の上着を着ている。芝居小屋の地味な緞帳のようだがあちらのほうがまだましだ。
「お前たちにはそれを着てもらう。毒には毒、派手には派手だ。さらに派手なもので覆い隠す。俺も着るから我慢してくれ」
化粧を施されているライトが二人を慰めた。彼は顔を真っ白に唇は赤に塗られ今は目と眉を黒い眉墨で描かれている最中だ。
「悪いな」禿げ頭の男が言った。ジェイソンと言ったか。彼とは捕まって以来何度か言葉を交わしている。
「だが、助かってるよ。あんた達がいなかったら俺たちが着る予定だったんだ」
彼の隣にいる赤毛の女が恥ずかしそうに笑った。
「一理あるかもしれないがこの人数で動くのは危険でもあるぞ」とベンソン。
「わかっている。だが王宮に進入するにはこの一座が必要だ」
ライトは綿帽子のように丸く真っ赤に染められたかつらを被った。
「これもその一つだ。俺は嫌だとは言ってられない」
どのように手に入れたのかダキア王家から出されたカンジロウ一座への招聘状は格別の効き目を現した。国境の検問所では書状に書かれた署名により、眠たげな係官の眼はたちまち見開かれ、荷車に載せられた荷物の検査も手早く終了し出発することができた。
別の検問所の横柄な態度の係官に対しはジェイソンは落ち着いてはいたが、いささか芝居がかった口調で詰め寄った。
「ここで時間を浪費し、摂政閣下との打ち合わせ、さらには挙式での余興に間に合わないとなればどうされるおつもりか」この言葉で係員たちの動きが変わったのはコールド達にとって最大の見せ場となった。
後の首都トゥルグ・ムルシュまでの道中も仇敵であるはずのイァカミ伯爵の署名のおかげで目立つ騒ぎもなく移動することができた。やがて、一行がたどり着いたのは大通りの一つにひっそりと建っている宿だった。建物自体は小ぶりではあるが、入り口の両脇には女神や天使像が飾られた優美な造形にコールド達は目を見張った。
一行からジェイソンが抜け出し宿に入っていった。ほどなく、宿を出てきたジェイソンは宿の脇にある路地を指差した。
「そんなうまい話ないよな」コールドはイヤリングでベンソンに問いかけた。
「あぁ」若干の落胆が伝わってくる。
ベンソンもいくらかは期待していたようだ。裏通りとなればいつも通りの安宿である。食堂や飲み屋が一体化し、狭い個室に手足が洗える洗面台があれば上等である。
コールド達も協力し荷車を路地の奥へと押していく。さっきの宿の裏手まで到着するとジェイソンが車寄せの一画を指差した。
「勝手に泊めていいのか?」とベンソン。
「話はついている。これを表に置いておくわけにはいかないだろう」
「泊まるのはここか」
「そうだ」
コールドとベンソンは思わず顔を見合わせた。
「宿代なら心配ない。こちらで持つからゆっくりと旅の疲れを取ってくれ」とライトの声。
「あぁ、助かるよ」 とコールド。
コールドとベンソンの二人ははなから宿代を払ってもらうつもり気でいたが、それは黙っておいた。
ライトから「二人では狭いかもしれないが我慢してくれ」とあてがわれた部屋の広さはいつもの倍はあり、洗面台どころか水浴びまでできるようになっていた。しばらく洞窟暮らしをしていたといえ、やはり王家と一般人の感覚の違いは大きそうだ。
とりあえず道中の汚れを落としコールド達は集合場所と伝えられた食堂に向かった。ここでも感覚の違いが見えてくる。彼らがよく利用する食堂は小さな四人掛けのテーブルが並べてありカウンターの向こうに調理場が見えているような場所だ。今回案内されたのは靴を付けることもためらうような豪華な絨毯がひかれた広間だった。中央には巨大な縦長のテーブルが置かれ周囲には背もたれの高い椅子が並べられている。ライトとジェイソンを始めとする一座はもう全員揃い席についていた。その雰囲気にコールドは思わず軽く頭を下げてしまった。
「コールド、ベンソンよく来てくれた。空いている席に座ってくれ」
ライトに促され端の方で開いていた席に着いた。
「ミル、彼らはニック・コールドとマーチン・ベンソン。縁あって今回の計画に協力してくれている」
ライトはすぐ横に立っている上等なお仕着せを身に着けている白髪頭で長身の男に手で示した。ミルと呼びかけられた男は奇異ないで立ちの二人組にも微笑みを浮かべ軽く頭を下げた。
「彼はミル・サガン。このハイラル・ジィリオの支配人であり、古くからの父の友人であり俺の支持者でもある人だ。彼のおかげで俺は白塗りも赤いかつらも被らなくて済む」
二人も彼に頭を下げておいた。
「では、ミルこれまでわかったことを話してもらえるか」
「はい、ですがその前にこの部屋についての説明を一つしたいと思います。もうご存じの方もおられるはずですが、お静かにお聞きください」
サガンは後ろを向き最寄りの壁へと近づき、最寄り壁に取り付けられたランプを両手で掴んだ。そして力を込めて右へ四分の一ほど回す。
「非常時はこの部屋にお越しください。このランプを右に回せば」彼はすぐそばに壁を押した。壁は静かに動き奥に通路が見えた。
「隠し扉の鍵が開きます。使用後は必ず鍵を閉めてから立ち去るようにしてください」
サガンはランプを元に戻し向き直った。
「では報告に移りたいと思います。アレキシ様暗殺の失敗の報は既にイァカミ伯爵の耳に入ってることは間違いありません。表立った動きはまだ見られませんが、用心に越したことはないでしょう。 挙式は予定通り執り行われます。イァカミ伯爵の威信が掛っておるでしょうからね。花嫁となるヤスミン様も修道院を出られてからはこちらで過ごされております」
「元気そうか?」
「はい、アレキシ様の帰還の報を聞き大層お喜びになり、一刻も早い再開を待ち望んでおられます」
「まさか、お前その式に乗り込むつもりか?」 とコールド。
「その通り。その場で国民と居合わせた外国の貴賓客たちに国王であるプチュミ七世アレキシ・ライトの帰還を知らしめるつもりだ」