至道流星

文字数 5,198文字

ここで至道先生が執筆されます。
他の方は書き込みをお控え下さい。
アメリカ国防総省生物兵器防衛分析センター魔人能力解析研究所

shidou

主任、次のターゲットが確定しました。
ほぉう。次はどこへ出張しろというんだ? アマゾンの密林のど真ん中か? 戦闘真っ只中のシリアの廃墟か? それとも、エスキモーと一緒にアザラシでも食って何日も過ごせってかぁ?
いえ、今回のターゲットは日本にいます。『キャベツ太郎』を発現させる特殊能力の持ち主です。
ああー? 『キャベツ太郎』?
日本で発売されている五郷屋というメーカーが作った御菓子だそうですが。
ああー?
意味がわかんねえ。なんだそのお菓子は。
なんでも、日本のある山村のメーカーが作っている名産だとか……。大変な科学力を秘めているという噂で、国防総省肝いりの魔人です。
御菓子に科学力? バカも休み休み言え。
はい、衛星からの測定で、現場からは大変な磁力を観測しています。
当該地域は、量子的に極めて異質な状況になっているとかで――。
2日後。
日本の某村にて。

shidou

何もねえ!
店らしきものが何もねえええええ!
ナイトフォークで米軍基地に着いたと思ったら、そっから6時間もタクシーに乗せられてこんなところに……。
畜生、この仕事を押し付けられてから、ツイてた試しは一度もねえ……。
まぁいい……その分ターゲットが早く見つかるだろうよ。
とっとと終わらせて、早く本国に帰還するとすっか。
1時間後。

shidou

よーう、お兄ちゃん、ようやく見つけたぜ。
見つけた? 誰のことですか?
テメーだよ。ちょっと話があるんだが、乗らないか? おーっと、俺は詐欺師じゃないぜ。詐欺師みたいなもんではあるがな。
ど、どっちなんすかねー?
テメーの言葉は訛りが強くて聞き取りにくい。
もっと普通にしゃべりやがれ。
俺は半分日本人なんだが、日本に住んだことは一度もねーからな。しょうがねーんだよ。
はあそうですか。日本に住んだことがないと主張する人が、こんな山村までやってきて、私に話しかけているってシチュエーションが怪しいと思います。
そうだな。その通りだよこん畜生。
そこで認めてどうするんですか! ただの怪しい人で終わっちゃいますよ! 世界平和を乱す怪しい人は許しません……!
まぁどっちでもいい。金ならやる。だから付き合ってくれねぇかな。
どう見ても、あなたは平和を乱す怪しい人ですね。
付き合うどころか、ここで……。
妹は、ちよとか言ったな。
テメーが妹にゾッコンなことは調べがついてるんだ。
なっ!?!?

ちが!?

ぼっ、ぼくはシスコンなんかじゃ!?!?!?
テメーがシスコンだろうが変態だろうがゴミ虫だろうが、こっちはどうだっていいんだよ。
妹には手をださねえ。だから付いてこい。それだけなんだ。
あなたのことを、ここで始末しろとぼくの直感が言っています。世界平和を乱し、妹に手をかけようとする輩など、許しておくことはできません。
ぶちのめしてやってもいいんだが、できればまずは話し合いでケリをつけたいところだ。
豪邸を用意してやる。月給も……そうだな1000万くらいか? 月給1000万で、妹に裕福な暮らしをさせてやれや。貧しいんだろ、テメーは。生活に困ってることだって調べは付いてるぜ。
毎日キャベツ太郎だけ食って飢えをしのいでいるらしいじゃねーか。
は? い? 1000……万? 月給ですよ?
ん、まぁそのくらいは出るんじゃねーの
鼻くそほじりながら言わないでください!
でな、俺たちは魔人研究をしている組織なんだ。悪いが組織名は明かせないが、そんなに怪しいところじゃない。
怪しいですよ、十分すぎるほど!
うんにゃ、そのバカな頭をちったあ回転させてよく考えてみやがれ。わけのわからん組織がいきなりこうしてやってきて、大金を出す約束までして、お前さんを連れていこうとするか? 貧乏組織のわけがねーだろう? そうだ、バックは国家レベルだよ。当たり前だろ。おーっと、これ以上は言えないって寸法よ。だが、わかるだろう? わかれよ。
断固拒否します
あなたみたいな怪しい詐欺師の話を信じるなんて無理でした
しゃーねーなぁ。だったら力づくでわからせてやるしかないじゃねーか
こっちは早く帰りてえんだよ。
自殺志願者って初めて見ました
死なないようにお前さんを連れ出してやんよ。表に出ろ!
おうよ、です! ていうか、さっきからずっと表ですよ!
おうキャベツ野郎、お前さんの能力はお見通しだぜえ。とっとと発動してみやがれってんだ。御菓子を出して何ができるのか知らんがなぁ。

でなければ、ここで解体ショーのマグロになっちまうぜ
アリスターは、コンバットナイフを取り出した。

shidou

竹ぼうの答えもまたず、アリスターはコンバットナイフを突き入れた。
素早い動きに、竹ぼうは一瞬ひるむ。
次の瞬間、竹ぼうの肩口からは鮮血が噴き出ていた。

shidou

くっ、動きが人間並みじゃない!
このままじゃ世界平和が乱される……!

お菓子『キャベツ太郎』無限増殖!
喰らえ!
ぐっ!?
な、何だッ!?
そのとき、幾千万もの『キャベツ太郎』が突然姿を現した!
数えきれないほどの御菓子のパッケージである。中にはもちろん、あふれんばかりのキャベツ太郎が詰まっているようだった。

あまりの物量の前に、アリスターは中空を見上げ、しばし唖然とする。

shidou

な、何!?

菓子袋が空に溢れかえって!
さらに喰らえ!
必殺、キャベツ太郎ESP!
破裂攻撃!
がっ!?
御菓子の屑にまみれて前も後ろも・・・・…!
さらに無限増殖! 行きます!
幾億個ものキャベツ太郎の袋が、中空いっぱいに広がった。
凄まじい勢いで増殖していくキャベツ太郎。

どこまでも、空いっぱいにどこまでも、キャベツ太郎が広がってゆく。
もはや空間という空間が、キャベツ太郎のパッケージで埋め尽くされ始めていた!

shidou

す、すげえ……!
御菓子だと思ってなめきっていたら、とんでもねえぞこいつは!
こいつがお前さんの能力か……!
なるほど!
こいつは本当に量子的にどうにかなっちまってる空間か……!
どうりで国防総省が……!
キャベツ太郎のなかで消し飛んでください! えいっ!
キャベツが俺の頭んなかに……
ああ、俺の頭んなかにキャベツの構造が入り込んできやがる! どうなってんだこいつはよぉ!
御託を言っている暇があるんですか!?
うおっ?
俺の知能がキャベツのありとあらゆる物理法則を解析したことは確かだが……どう技を返せというんだこいつによお!?
こんなキャベツ野郎に、俺の天地融合が効くわけが……!
無理だ……!
消えてなくなれーーーーー!
おいおい、こいつぁ只事じゃないぜ!
冗談はその特殊能力だけにしろってんだよこん畜生!
俺はトンズラこかせてもらうぜ! こんなキャベツの化け物に俺が敵うわけがねーんだよぉ!
アリスターは転げるようにして場を離れたが、どこからともなく空間から湧いてくるキャベツ太郎のせいで、逃げ道は完全にふさがれていた。
アリスターは懸命にキャベツ袋から遠ざかろうともがいた。だが、あまりの空間圧迫力に押しつぶされ、ついにアリスターはその場にくずおれる。

shidou

逃げようったってそうはいきませんよ!
世界平和を乱し、妹のちよにちょっかいを出そうとしたあなたを、

ぼくは全力で許さない!!!
ま、待て! 話し合おう!
何でもする!
カネならやる!
名誉でもなんでもくれてやる!
日本人なら土下座か? 土下座なんだろ? やってやる、やってやるよーーー!!

スペシャルオートマチックスーパー土下座だこの野郎!!!!!!!!!!
キャベツの時空の彼方へと消し飛べーーーーーーーーーーーーーー!
こ、こんな超魔人、今まで会ったことねーぞ!?
勝てるわけがねえ!
ひっ、ひいいいいいいいいい!
袋爆発の超圧力でキャベツの時空の彼方へと消えろーーー!!
キャベツ太郎ESP!
超破壊、キャベツ太郎!
まともに受けたら死ぬ……!

ここは一か八かの、フルパワーの天地融合だっつーんだよぉおおおおおおおおお!
テメーの技をそのまま返してやるぜ!

天地融合……キャベツ太郎ESP!
超破壊キャベツ太郎!!
(この男死なない……!)
(あと一歩なのに、この人の能力……ぼくのキャベツ劣化コピーを発動している……! そのせいで……!)
すでに村のすべてがキャベツ太郎で飲み込まれかけていた。

shidou

こうなりゃヤケだ……だぎゃあああああああああ!
はああああああああ!
おんどりゃあああああああああああああああああ
キャベツヴぁらああああああああああああああああああああああああああ!
(ダ、ダメだ……やっぱりこいつは化け物だ!!)
俺の負けだ……ゆるじでぐで……
あの世で後悔してくださーーーい!
や、やめろおおおおおおおおおおお!!!!!
この星がキャベツで押しつぶされて消えていまうことになるんだぞおおおおおおおお!
ちよだって、この村で暮らしてるんだろおおおがあああああ!
おわああああああああああああ、身体が、俺の身体が擦り切れ・・・・・・・・・・・うぐおあおうああああああああ!
えっ、村どころか星がぼくのキャベツの力で……!?

そんなまさか……この人が同じキャベツESP特殊能力を繰り出しているせいで、時空そのものが歪んで……!?
気づけば地球は、空いっぱいに広がった無限のキャベツ太郎によって飲み込まれつつあった。
無限のキャベツ太郎を創り出す空間の渦は、今やブラックホールと化していたのだ!

shidou

これは……!
発動を止めないと……!
だが時すでに遅く――。
互いの能力は暴走を始めていた。

shidou

うわああああああああああああああああああ!

ちよぉぉおおおおおおおおおおお!

ちよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
ぎょえあああああああああああ!
なんだこのキャベツホールは……!
どこへ俺を巻き込もうとしていやがるんだよおおおおおおお?
そのとき、ゾクリとアリスターの背筋に走る感覚があった。
未だかつて人生において、ただの一度も経験したことがない衝撃だ。

shidou

何か、何か今までにない感覚……。
な、なんだこれは……。

これが……キャベツ……!!
ああっ、ぼくたちの星が消えて……。
で、でも、宇宙が……広がってゆくような……。

これが……真のキャベツの力……。
おいテメー、予定変更だ!
その能力発動を止めるな!
な、なに言ってるんですか……!
なんとか、なんとかして止めないと……!
テメーのキャベツを改変するようなものすげえ特殊能力に、俺が同じものをぶつけてる!
そしたらどうだよ!?
新しい宇宙が生まれそうだってんだよ! こいつは行くところまで行くしかねえ!
も、もうやめてくれ……!
止まらない、止まらないよ……!
このまま俺たちの宇宙を創っちまうぞ! どうでもいい地球なんざ消し飛ばしちまえ!
俺たちが神だ!
か、神!? そんなものに興味はありませんよ……!
ばっきゃろーテメー! テメーが興味がなくとも、この俺はあるんだよぉ!
そんなめちゃくちゃな!
テメーの望みはなんだ? 言ってみろ!
望み……?
ち、ちよと……
よっしゃ、俺に従えば、ちよと結婚させてやるぜ! 本当だ!
でも地球が……!
捨てちまえそんなもん! キャベツ能力全開! どりゃあああああああああああああああああああああああああああ!
う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
いいぞ、地平の彼方が見えてきた――!
俺たちが神だ――!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時間になりました。執筆終了です。
ぐうう……。
もう時間ないと思って中盤過ぎから駆け足すぎました……。
ありがとうございました……もう吐きそう……。

shidou

1月29日、対戦翌日です。
ふと気づいたので書いておきます。

先だって開催した第一回オンライン座談会『創作講座』のなかで、ぼくが自分の小説の執筆の仕方を折々に触れさせていただきました。再編集している電子書籍のほうでは、さらにまとまって書いてあります。

そのぼくの執筆方法の都合のよい実例の一つが、この即興作品になっていると気づいたので、もし第一回オンライン座談会の内容に興味があった方がいれば、参考情報として意識しながらご確認いただくと、より理解が進むと思います。ちなみに本作は60分間で書きっぱなしで、推敲など一切していません。書き殴ったあとに見直しや手直しも一切していませんから、誤字脱字や変な表現が残っているのはご理解ください。

要点は、

★会話形式を主体で展開していること
★地の文は最低限の説明(ト書きレベル)にして、可能な限り会話の流れのなかに情勢を盛り込んでいること
★戦闘シーンですら、会話を主軸にしていること(※執筆作品では戦争を描いたものも多々ありますが、ぼくの場合は数万VS数万の兵士がぶつかる会戦シーンすら会話を主軸にして組み立てます)

といったところでしょうか。
小難しい内容や用語が多発するときも、会話主体によりテンポよく読め、ちゃんと文章が頭のなかに入ってくれます。
いちおうご参考程度に。

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※コラボに参加するためにはログインが必要です。ログイン後にセリフを投稿できます。

登場人物紹介

名前:
アリスター・本郷

性別:

特殊能力:
『天地融合』
魔人の能力の根源を直ちに解析し、その力を取り込み、同じ特殊能力を発動できるようになる。

設定:
アメリカ国防総省生物兵器防衛分析センター魔人能力解析研究所所属、魔人確保戦闘員。

元CIA所属の情報機関員だったが、ある戦闘ミッションの最中、魔人戦闘員にとどめを刺されそうになった瞬間、急に魔人の力が具現化して九死に一生を得た。
アリスターは本国に帰還すると、すぐに魔人能力解析研究所に移籍するよう命じられる。本人は固辞しようとしたが、「移籍しなければ身柄を確保し、お前自身が研究対象になるだけだ」と遠回しに脅され、しぶしぶ移籍を呑んだ経緯がある。

あらゆる戦闘ミッションをこなしてきたため、生身の人間としても相当な戦闘力を持っている。ナイフ一本での潜伏から、重火器を持った破壊工作や暗殺に至るまで、並み居る戦闘員と比べても歴戦の手練れ。
だが魔人としては、独自で発動できるような特殊能力はない。あくまで目の前の魔人が自分に向けて使用してきた特殊能力を、瞬時に脳が解析し、まったく同等の特殊能力を返すことができるだけ。それでも自らが養ってきた戦闘工作員としての勘と、意表を突かれた相手魔人が戸惑う隙に、逆にトドメを指してきた。

本人は「早く足を洗いてえ」が口癖であり、いつか自分の牧場を経営するのが夢。隙あらば情報工作の世界から引退したいと願っている。魔人能力解析研究所のなかでも相当な高給取りだが、脅されていなければとっくに引退していたのは間違いない。


相手を倒したい動機:
アリスター自身には、魔人を倒したいという動機はこれっぽっちも存在しない。
しかしアリスターは公務員であり、国家の極秘命令に基づいて魔人の身柄を確保しなくてはならない職業上の責務があった。アメリカは、他国より先駆けて魔人能力を戦闘に応用するために、魔人を生体実験にかける必要があったのだ。一人でも多く、とりわけ秀でた能力を持った魔人を。
そのため高度な魔人能力の保有者は、生死を問わずに身柄を確保し、いくつもの計測器・分析器にかけて研究を続ける必要があった。
同様の研究に、中国人民解放軍も力を入れ始めたと聞く。中国にいる魔人のなかでも、とくに優れたものは刈り尽くされたという噂も、情報シンジケートの間ではまことしやかに語られていた。
ならばアメリカには選択の余地はない。膨大な予算と人員が配備され、今まさに世界中の特異な能力を持つ魔人が刈り尽くされようとしていた。そして今回もアリスターは、最優秀の魔人確保要員の公務員として、魔人の身柄確保を命じられるがまま、嫌々ながら動くのであった。

名前:竹ぼう
性別:男

特殊能力:お菓子『キャベツ太郎』を、自由に出現させ、その袋を破裂させる能力。通称・キャベツ太郎ESP

設定:妹がいる。ちよ。2歳年下のちよ。お父さんは万引きで刑務所にいる。

相手を倒したい動機:真の平和を世界に・・・。法や社会や秩序の外側にあぶれた弱き人々を助けたい・・・そして、本当の悪を倒したい・・・妹をまもりたいんだ

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