トロントの音楽隊 第1部

文字数 1,732文字

 カナダのケベックという都市に、一匹の猫が住んでいました。ただしこの猫、普通の猫ではないのです。何しろ彼は長靴…もといブーツを履いて二本足で歩き、人間の言葉を話し、おまけに尻尾の先が二本に分かれているのですから。この「長靴を履いた猫又」はもともと日本に住んでいたのですが、インターネットでカナダの有名バンドの存在を知り、その一人に憧れてはるばるこの国にやって来たのでした。
 猫又は見よう見まねでギター演奏を覚え、憧れのギタリストと同じように自分もロックバンドで活躍したいと思うようになりました。そこで猫又は自分を売り込むために、もっと大きな都市のトロントへ行くことを決めました。

 猫又はヒッチハイクを続けてトロントにたどり着きました。街を歩いていると、白くてもふもふした感じの背の低い男を見かけました。ロッキー山脈のふもとの村出身のビッグフットです。彼は路上でベースを弾きながら歌っていますが、皆彼にちらりと目を向けるだけで、立ち止まって聞く人は居ませんでした。そこで猫又は彼の歌を最後まで聞き、拍手を送りました。
「君、すごいニャン!」
 猫又の声に、ビッグフットはびっくり。
「おめえ聞いてくれたのか、オイラの歌」
「そうだニャン。おれッちはギターやってて、バンドを組みたいと思ってるニャン。もしよかったら、おれッちとバンドやるニャン!」
「バンドかぁ、いいなそれ!オイラもあるベーシストに憧れてベース始めて、はるばるこのトロントまでやって来ただ!」
 ほぼほぼ同じ目的でトロントに来たこの2体の妖怪は、すっかり意気投合し、こんなやりとりまでしました。
「じゃあ、好きなバンドを言うニャン。せーの!」

 猫又とビッグフットの口からは、同じバンド名が出ました。こうして、この2体の間に完全に仲間意識が芽生えました。

 少し歩いていくと、猫又とビッグフットは切れ長の目をした、背が高くてやせたアジア系の若い男を見かけました。何と彼は自分から彼らに話しかけてきました。
「ちょっと失礼。君たちは、バンドの仲間を探しているのかい」
 まさにそのとおりのことを言われ、猫又はびっくり仰天。
「そ、そうだニャン。でも、何で分かったニャン?」
 アジア系の男は、ニヒルに笑って答えました。
「それは二人とも背中に楽器、それもギターを持っているからだ。そこで君たちにお願いがある。俺を君たちのバンドに加えてほしい、ギタリストとしてね」
 猫又とビッグフットは思わず顔を見合わせ、ビッグフットが話しかけました。
「でもおまえ、妖怪のオイラたちを見てもビビんねえのか?」
「俺も君たちと同じで、妖怪だ」
 そう言った直後、アジア系の男は人間ではとても出せない霊気を放ちました。その頭からは狐の耳が現れ、お尻からは狐の尻尾が九本も現れました。
「き、君もしかして、妖狐ニャン!?」
 猫又に問われると、雄の妖狐は軽く笑みを浮かべました。
「いかにも。俺は九本尻尾の妖狐、通称『九尾の狐』だ」
 猫又は、同郷の妖怪に会えて何だかうれしくなりました。
「ツインギターってのも、なかなかカッコいいなあ」
「九尾、おれッちたちのバンドにぜひ入ってニャン!」
「喜んで」

 仲間探しをしている間、3体の妖怪はこんな会話をしていました。
「残るはヴォーカルだな。バンドの顔と言うべき重要ポジだ」
「歌える妖怪は居ニャいかニャン?」
「いいヴォーカルに会いてえなあ」
 そんな彼らを見て、一人の長いブロンドヘアーの人魚がつぶやきました。
「あの人たち、面白そう…」
 そして人魚は彼らのもとへ歩いていきました。
「ちょっと失礼します。皆さんはどのような集団かしら」
「あぁ、おれッちたちバンドニャんだけど、仲間を探してるところだニャン」
「バンド!?それは素敵!」
 彼女は目をキラキラさせました。すると、九尾が彼女に話しかけました。
「君、とてもかわいい声をしてるね。ルックスも頭からつま先まで文句なし。このバンドのヴォーカルにぴったりだ。そうだろう?」
 猫又とビッグフットもうなずきました。こうして人魚の心は決まりました。

 結成、MONSTORONTO(モンストロント)!!
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