第10話 おじいちゃん、お年玉をありがとう

文字数 562文字

母の父親・・・祖父が亡くなったのは、私が小学校の頃だった。

特に患っていた訳でもない。
突然の死の知らせは、驚きを通り越して実感のないものだった。

祖父は、祖母と一緒に旅行中であったと聞く。
「ちょっとここで待っててくれ。
 そこに知り合いの寿司屋がある。
 挨拶をしてくるよ」
祖母と荷物を残して祖父は去っていった。
祖母は、独りそこで荷物番をしていた。

寿司屋へ入った祖父は、店主はいるかと尋ねた。
生憎その日、店主は休みであった。
私はこういうモノですと名刺を渡した祖父は、お茶を一杯所望した。
お店の人が祖父の前に湯呑を出す。
祖父は、その湯呑に手を伸ばした・・・。

ここで、祖父の人生が終わった。

店主を尋ねて来店した老人が倒れたので、お店の人はあわてて救急車を呼んだ。
どこの誰であるかは、先ほど名刺を受け取ったのでわかっている。
名刺の電話番号に電話をすると老人の長男夫人が電話に出た。

その頃、祖母の目の前を救急車が通って行った。
しかし、その救急車が、自分の夫を乗せているとは、夢にも思わなかったに違いない。

1月21日が祖父の命日だ。
正月には、元気だった祖父が亡くなったと聞いても全く実感がない。
その上、献体をしたとのことで、葬儀の場にはご遺体もなかった。
小学生の私は、祭壇に手お合わせて祖父に別れを告げた。

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