第81話  おっぱい職人 1

エピソード文字数 3,962文字

 ※


 蓮は楓蓮と従姉弟である。


 この情報は瞬く間に遠方組に広まると、次の休憩時には魔樹も知る事となり、昼休憩には紫苑さんや坂田さんにも知れ渡った。


 次々と人に伝わっていくと、さすがに心配になる。

 だが聖奈は「全然大丈夫よ」と余裕綽々の態度でいると、不思議と安堵するのであった。


 今更取り消しは出来ないし、俺が染谷くんにそう言ったのだから、これはもう自分の責任でもあるからな。




 俺はここから遠方組や仲の良い友人には、蓮は弟、楓蓮はお姉さんというキャラを演じなければならない。


 距離が必然的に近くなり、今まで以上に付き合いを慎重にしなければ。

 俺達入れ替わり体質の人間は、こうやって嘘をつき続けなければならない。


 嘘の上に嘘をどんどん積み重ねてゆくのだ。


 正直いうと、嘘なんてつきたくない。

 本当は……この身体のこと。全部伝えたい。

 

 だけどそれは俺達にとって、不可能なことなのだ。




 高校当初の目的であった友達を作るという項目はクリアした。


 いい友達にも巡り会えたし、何よりも一緒にいて楽しいと思える人間が沢山出来た。



 でも最近……ふと考えるんだ。

 


 みんなと仲良くなるにつれて、俺はもっと嘘を付き続けないといけないのだろうか? それって本当に仲良くやれているのだろうか?


 どれだけ相手のことを知ったとしても、一番大事なことを教えない。教えられないって……それが果たして友人や親友だと言えるのだろうか。


 どこかのタイミングで正直に喋る方が良いのか?


 今よりもっと嘘を積み重ねる前に告白した方が良くないか? 


 正直に喋るタイミングを失ってしまうのではないか?



 もし、正直に喋ってみて、上手くいったら……


 聖奈のような素晴らしい関係になれるのだろうか?



 じゃあ上手く行かなかったら? どうなる? 

 

 ドン引きされて、公の場にチクられたりしたら?


 

 親父は言った。


 どんなに外面が良くても、裏で何を考えているのか分からないのが人間だと。簡単に相手を信じるなとも言われて来た。


 俺がもし告白して失敗すれば、俺だけの責任じゃなくなる。凛だって親父だって迷惑をかけてしまう。


  

 だから俺には……


 この身体のことをカミングアウトする勇気がない。


 あぁ……


 もうこの話を考えるのは止めよう。どれだけ悩んで考えたとしても、答えはいつも一緒なのだから。


 ※ 


 今日は火曜日。そして夕方。自宅にて。


 今は華凛と仲良くソシャゲーに夢中になっていた。全国のプレイヤーとパーティを組み、敵を倒すといったよくあるゲームだな。

あぁ~またさっきの人達来てくれたよ! やろっやろっ!
どうやら俺達を認めてくれたんだろ。ダメだって思うパーティは速攻抜けられるからな
この二人。ガチガチの課金しすぎだよ
そして上手いときたもんだ

 こういう時の華凛は活き活きしてる。

 外で全く喋れないのに、ゲームになると、やたら上から目線になるし、まぁそんな所が可愛いと思う姉であった。

ちゃんとお姉ちゃんの回復範囲に戻ってくるし
位置取りが上手いんだよな。そこら辺の奴とは違うな

 一緒にプレイしてるゲストの二人は久しぶりのヒットだった。

 相当やりこんでいるのか、息もピッタリだな。俺や華凛も上手いとは思うが、こいつらもかなりの手練れとお見受けした。

もう終わった。三分も掛かってないよ
すんげー火力だな。俺のキャラ殆ど活躍してねー

 こりゃベストタイムだ。今までのゲストよりも倍は早いぞ。



 ちなみに俺はプリーストなので回復専門職だ。

 昔っからこういうゲームで何を選ぶとなったら、真っ先にヒーラータイプだったりする。


 なんというか、戦うよりも、仲間を守るといったシチュエーションの方が好きなんだよな。

もっかいやろ!

 上機嫌な華凛だったが、丁度マッチング画面の最中にインターホンが鳴る。


 こんな夕方に来客なんて誰だろう。

 そう思いながら立ち上がると「はやくっ」と華凛が急かすのであった。


 玄関前のモニターで確認すると……ん? 平八さん?

平八さんだ。どうしたんだろ?
おねーちゃん。さっきの人また来たよ!
待ってくれよ。そいつらと他の奴入れてやっといてくれ
 玄関のドアを開けると、平八さんとその横にはダンボールが二つほど置かれていた。
こんばんは。楓蓮お嬢様
あれ? 一人? どうしたんっすか?
 どうやら平八さんは聖奈の命により、俺の家にこのダンボールを届けろと言われて訪問して来たらしい。
何が入ってるんですか?
恐らく楓蓮お嬢様や華凛お嬢様用のお洋服かと思われます
 マジで? それはもしかして女物ばっかりじゃないの?
でも俺。こんなのを貰ってもお返しが出来ないですよ
それはお気になさらず、と。聖奈お嬢様が申しておりました

 玄関前でずっと喋る訳にもいかず、とりあえずダンボールをリビングに運ぶと、華凛はスマホを見たまま平八さんに挨拶する。


 一応「ゲームに夢中なんですみません」と言うと平八さんも「結構ですよ」と返してくれる。一応お客なんだからさ、そういう態度は良くないだろ。


 ダンボールを開けると、こっちは華凛用なのか可愛い服が大量に入っていた。

 その他に下着やら小さなブラなど、女物のありとあらゆる物が揃っているじゃないか。

じゃあ……こっちが俺?
そのようですな

 どうでもいいけど平八さん。さっきからスマホを持ったまま俺の胸を覗き込んでるんですけど。


 まぁいい。放置しておこう。いつものことだ。

うあ……マジかよこれ

 もう一つのダンボールには俺用と思われるシャツやらワンピやらが入っており、靴やヒールまで入ってるじゃないか。


 更には下着まで出てくると、そのショーツを手に取ってみる。 フリフリのレースが付いていたり、リボンが付いてるのとか、それはもう女の子って感じのモノばかりであった。


 下着類は問題ない。何とか隠せるからな。


 だけど、スカート全般や、フリフリっぽいワンピは絶対着れねーぞ。マジでこういうのを着てしまうと、俺は男であるという信念が捻じ曲がりそうなんだ。

おおっ。このブラジャーなどは素敵ですな。

きっと楓蓮お嬢様のおっぱいにジャストフィットするでしょう

 俺に気を使っているのかどうか分からないが、俺に似合うと思われるブラジャーの紐の部分を摘んで見せてくれる。


 それにしても、平八さんが普通に「おっぱい」なんて言うから非常に困る。結構良い年してるでしょ? そう思うと内心微笑ましくもあった。


 聖奈が言うには確か……おっぱい職人とか言ってたよな?


 あっ! そうだ。

ねぇ平八さん。前から聞きたかったんですけど。そんなに女性の胸が好きなんですか?
 すると平八さんは、こちらを一瞬見たと思えば再び俺の胸を覗き込むのであった。
いかにも。平八とおっぱいは決して切り離せぬモノです

 そう言い切った平八さんはいつも無表情だ。


 なんとなく格好いいセリフだとは思うが、おっぱいと言う言葉が全てを台無しにしてるぞ。


 おっと。違う。俺はそういう質問をしたいのではなく……


 平八さんが俺の胸をガン見してるから、ついつい突っ込んじまったじゃないか。

親父から聞いたんですけど。本気を出したらすげー強いらしいですね

 子供の頃から知ってる平八さんだが、そんなイメージは特別持っていなかった。

 大人の男だからそれ相応というだけだった。

いえいえ。平八めなどは麗華さんの足元にも及びませぬぞ。

弱点であるおっぱいを見せられては、もはや勝負にもなりませんでしたな

 う~ん。平八さんは本当におっぱい好きなんだな。さっきからずっとおっぱいばかり言ってねーか?


 だけどこうやって喋ってると、無表情ながら僅かだけど口角が上がっているのに気が付いた。

じゃあ男だとどうなんですか? 強いんでしょ?
いかにも。おっぱいが無い相手など、平八めの敵ではござらぬ

 おおっ! これは期待できるぞ。

 つまり、蓮で勝負するならマジでやってくれそうだ。

じゃあ一回俺とやってくださいよ。蓮で。稽古つけて欲しいんですが
 すると平八さんは俺の胸を違う角度から眺め出した。
それは出来ませぬな。おっぱいが無ければ平八めが本気を出す意味を見出せませぬ

 おいおい。軽く拒否られちまったぞ。


 そして、俺の胸を見ながら手を顎にやり「ふむぅ」とか漏らしてやがる。


 何か吟味されているようで気持ち悪いんだけど。

そこをどうにか
こればかりは蓮ぼっちゃまにお願いされましても、平八はやりとうございませぬな……

 ぬぅ! 頑固じゃねーか平八さんよ!

 これだけ頭を下げてもダメだっていうのか。



 ここで「楓蓮ならどうですか?」などと言うつもりは毛頭無い。なんとなく俺がそう言うとでも思ってそうな無表情だし。ずっとガン見だし、さっきより顔が近くなってるし!

一つ提案がございます。楓蓮お嬢様との勝負でなら……やらせていただきましょう

 くっ! 自分からきやがったか。


 ここで俺がOKを出したら、すげー負けた気がする!

 っつーか。この視線に対して俺はどうすればいいんだよ。


 殴ってもいいのだろうか。

いや、それはちょっと勘弁してください
残念ですな。平八めと致しましてもやはり、それ相応の対価がございませぬと……

 中々強欲な奴じゃねーかよ。


 こりゃぜってー平八さんの提案に折れたくねぇ!



 明らかな不満顔が出ちまってるが、そんな事はどうでも良さそうだ。しかも色んな角度から俺の胸を凝視してやがる。


 なんだかシャツを着てるのに、中まで見られてるような気がしてくるぞ。




 まぁまて。落ち着こう。


 ここはちょっと時間を掛けて平八さんと打ち解けようじゃないか。こんな事で一々苛立ってはダメだ。


 聖奈も平八さんはおっぱい職人って言ってたじゃないか。


 好きなのは分かってるんだし……


 今日は平八さんとそっち系統の話をガッツリしてやろうじゃないか。




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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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