秘境らーめん

文字数 509文字

 あばら家の軒下に電球が三つ。そのうち二本は死んでいて、最後の一本もチカチカと心もとなく点滅をくり返している。
「……本当に営業してんのか、ここ?」
 ふとそんな疑問が脳裏をかすめたが、背に腹はかえられない。
 なにしろこんなクソ田舎で道に迷って、ようやく見つけた食い物屋だ。いまの空きっ腹なら、死ぬほど不味いラーメンが出てきても、汁まで堪能できる自信がある。
「へい、らっしゃい……」
 暖簾をくぐってカウンターに座ると、陰気な親父が厨房から呟いた。
 おれは軽くイラッとして、身をのり出しぎみに俯いたままの親父に注文を通す。
「腹減って死にそうなんだよ、ラーメンひとつ!」
「ですが生憎、今日はもう店じまいで……」
「あ? 知るかよそんなこと、いいから早くラーメン持ってこい!」
 するとつぎの瞬間、カウンター越しのおれの眉間にナタのような麺切り包丁が振り下ろされた。親父はおれの脳を引きずり出すと、手早く湯がいてドンブリに放り込む。
「……へい、よそ者ラーメン一丁」
 注文が着丼すると同時に、おれはその上に顔から突っ伏した。
 ずん胴のなかでは、ぐつぐつと音を立ててスープが煮えたぎっている。

〈麺料理、了〉
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