滝口流

文字数 2,984文字

こちらにて滝口流さんが執筆されます。他の方は書き込みをお控え下さい。
「ああ、まさか私が一時間番組を任されるなんて……これで日本中にパンの素晴らしさを伝えることができるわ……!」
リリイ・パンナコッタは喜びに打ち震えていた。
都内のとあるスタジオ。
ここではこれからパンナコッタのパン教室という生放送番組が始まろうとしていた。
その司会を務めることになったリリイは、感極まって今までの苦労を思い出す。

takigutir

「アッくん、みーくん……。お姉ちゃん、頑張るからね……!」
「本番10秒前でーす」
「はーい……あれ?」
彼女がゲスト席を見る。
そこには一人の女子高生が座っていた。

takigutir

「今日は料理研究家の富岡先生が来るはずだったんじゃあ……」
「…………」
彼女の記憶によれば、富岡は今年40になる中年男性だった。
しかしそこにいたのは15、6ほどの一人の少女。

リリイは訝しげに思いながらも、番組の放送は始まってしまった。

takigutir

「はーいみなさん、はじめまして! どうも私はパン料理研究家のリリイです! 今日は皆さんに美味しいパン作りの方法を――」
彼女が予め決められていたセリフを言うのを遮るように、女子高生は立ち上がって声を張り上げた。

takigutir

「この日本は――腐敗している!」
「え、ええ!?」
当然だがそんなことは台本にのっていない。
リリイの驚きを余所に、彼女は言葉を続けた。

takigutir

「食糧自給率の低下、農業の衰退、秘密組織JA、農協軍事部隊の実効支配……日本人よ立ち上がれ!
「そ、そんな……こんなの……番組が続けられなくなっちゃう……!」
長く努力をしてこの番組の枠を獲得するに至ったリリイは焦る。
パン食の普及の為、是が非でもこの番組を失敗させるわけにはいかない――!

takigutir

「……はい! それでは元気な彼女にも美味しいパンを頂いてもらいましょう~!」
リリイは少し悩んだ挙句、無理矢理番組を続けることにした。
苦渋の選択だが、誰が彼女を責められようか!

まだ言葉を続けようとする女子高生に対して、番組のスタッフがつまみ出そうと近付く。

takigutir

「君! 本番中なんださっさとそこを――」
「無限排泄”うんボロス”――!」
「グワァーー!」
スタッフがまるでゴムまりのようにはじき飛ばされる。

takigutir

「――――!?」
リリイがその声に視線を向ける。
そこには顔に人糞を乗せた男性が倒れていた。

takigutir

「私の邪魔をする者は誰一人として許さない――! この日本に農業の光を取り戻す為、私はこの肥料をみんなに届ける――!」
彼女は自身の人糞を握りしめた。

takigutir

「そんな……まずい……」
リリイは戦慄する。

takigutir

「あんなものを放送したら――番組が打ち切られちゃう!」
彼女はカメラマンに視線で合図を送る。
カメラマンは頷くと、そのカメラのレンズをリリイが中心になるように向けた。

takigutir

「――はい、少しトラブルが発生していますが、それでは早速料理を始めましょうか~」
「その放送枠――この大盛小歌音がもらうわ!」
彼女は名乗りをあげると、手を振りかぶった。
その手には自身が出したうんこが握られている!

takigutir

「――シュートッ!」
小歌音はうんこの散弾銃を彼女に投げ放った!

takigutir

「えーでは水を加えた小麦粉を――」
リリイは手元で生地をこねる。

takigutir

「――薄く引き伸ばしたのがこちらになります!」
瞬間、彼女が画面外に投げ放った生地はこんがりと焼きあがった。
発酵をさせずに薄く焼き上げるパン――ロティと呼ばれる南アジアのパンだ。

それは遮蔽物となり小歌音の放ったうんこを受け止める。

takigutir

「なんてこと……! こんなツワモノが、まだ日本に存在していたなんて――!」
小歌音は驚愕の声をあげる。
しかしその口元は笑っていた。

takigutir

「気に入ったわ……。あなた、私と共に日本を救わない?」
「お断りします――! パンを……パンをこんなにして! AD! 追加の小麦粉を!」
スタッフの一人がスタジオの外に走っていく。
運良く隣では中華麺のフードファイトが開かれており小麦粉が山のように積まれていた。

takigutir

「そう……。そうね。やっぱりあなたではダメだわ……」
彼女はブリブリとパンツの中に脱糞しながら言葉を続ける。

takigutir

「――日本人なら、米よ! 食糧自給率を上げるため! 米を食べなさい!」
彼女はそう言いながら両手に人糞を携え走り出した!
その後にはぽろぽろと彼女の足跡が残されていく!

takigutir

「うんボロス――インフィニティ!」
彼女は宙に舞った。
極限まで溜め込んだ人糞を一斉放射することによる人知を超えた跳躍!
そしてその飛び上がりは、同時に大気を汚染する!

takigutir

「なんてこと、これじゃあ画面が――ええいっ!」
彼女は大きな小麦粉の袋をその場にぶちまけた。
白い小麦粉がもうもうとあたりへと広がる!

takigutir

※ただいま映像が乱れております。しばらくお待ち下さい。
そんな表示がされる中、リリイが動いた。

takigutir

「パイ・パン・スコーン!」
手元のボウルで水をバラまくと、空気中の小麦粉と水分を結合させ細長いパンをいくつも作る。
それは折り重なり、大きなネットとなって宙に飛び上がっていた小歌音を捉えた。

takigutir

「何っ……!?」
「パッケージっ!」
リリイの手の動きに連動して、幾本ものパン生地が折り重なる。

takigutir

「こうして――パイ生地の完成!」
小歌音は彼女が作り出したパンの生地に包まれた。

takigutir

「……ふう、これで――」
リリイが息をついたその時、パンの中から腕が突き出る。

takigutir

「……ふふ。こね回して柔らかくしてくれてありがとう。おかげでこんなに簡単に出られるわ」
切り裂いた穴から、小歌音は瞳を覗かせる。

takigutir

「食らわせてあげるわ――。極限まで溜め込んだ、最大出力の”うんボロス”を――!」
小歌音の笑い声に、リリイは答えた。

takigutir

「――これで、終わりじゃないんです」
「――え?」
小歌音は気付く。
自身の体が震えていることに。

takigutir

「な、なに……!? これは……何が起こっているの……!?」
ガタガタと震え、体が青ざめる。
その彼女の身体からは、うんこの臭いとは違う別の臭いが発せられていた。

takigutir

「一次発酵です。パンはこねたら少し寝かせて、細菌の力を活発にする温度で菌に頑張ってもらうんです」
小歌音の肌の色が紫色に腐敗していく。
極限まで溜められて過剰に発酵した人糞が放つ毒素に、彼女は身体を汚染されていた。

takigutir

「そしてもう一度こねてサイズを整えたら――」
リリイの腕に合わせ、パン生地が小歌音を完全に包み込む。

takigutir

「あ、ああ――!」
「――二次発酵」
パン生地の中から、聞こえる音はもう無い。

takigutir

「そしたら焼き上げて、完成でーす!」
ジュワッと瞬時に焼きあがり、そのパンはきつね色に焼きあがった。

takigutir

「……テレビの前の皆さんは、200度の温度でじっくり焼き上げてくださいねー」
プチュリ、とパンの中から人糞が漏れ出る。

takigutir

「――というわけでカレーパンの作り方でしたー! みんなまた来週も見てくださーい!」
人体の重さでパンの外生地が崩れるが、咄嗟にカメラを切り替えられる。

takigutir

☆本日の材料☆
小麦粉 一袋
砂糖3kg
塩1kg
カレー46kg
バター1kg
*  *  *

takigutir

次の週、二度と呼ばれないと思っていた彼女だったが、意外にも番組はパフォーマンスが好評を博して続くこととなった。
彼女は今日こそは、と拳を握りしめる。

takigutir

「さーて、今日作るパンは――」
「この世界の権力者は! 異星人の手によって行動を操られている! 立ち上がれ地球の民よ!」
リリイは口を開けたまま、呆然とする。
彼女の番組は、一筋縄には続けられそうになかった。

終わり

takigutir

30分!30分です!おわりです!

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登場人物紹介

名前:大盛小歌音(おおもり・こがね)
性別:女

特殊能力:うんボロス
無限にうんこができる。

キャラクター設定:
143cm。15歳。高校一年生。国士。
日本の食料自給率低下を嘆いており、フレッシュな肥料を届けるべく、全国を行脚している。

相手を倒したい動機:美しい国、日本のため戦う

名前:リリイ・パンナコッタ
性別:女性
能力:《パイ・パン・スコーン!》
自由自在にパンを作る能力。
この際に定義されるパンとは、麦を粉砕したものをメインの原材料として扱う、加工食品のことである。水分などを混ぜて捏ね、しばしば発酵を用いて焼き上げたもの。
作られたパンはリリイの実力により日本人向けに合わせられた美味しいパンとなっており、口に入れると中はふんわりして麦の香りが広がる柔らかな物が多い。ただしパイやスコーンといったサクサク、もしくはカリッとした食感が好まれるものはそれに準じない。
当然のことだが、食べても頭は爆発しないし、脳の判断機能に影響を与えることもないし、筋肉が異常に発達するようなこともない。
完成したパンの味や効果は、パンとしての概念を逸脱することはできないし、小麦粉も無いのに無からパンを生みだすことはできない。

相手を倒したい理由:
パンの美味しさを広めるため

設定:
世界中を旅していたパン職人。
先祖代々パン職人をしており、日本人の口に合う至高のパンを探して各地を渡り歩いていた。
彼女のパンは味もさることながら生産性も高く、一秒間に食パン30斤にもあたる分量のパンを量産することができる。ただし原材料は生産出来ないため、世界経済に影響を与えるほどではない。
今は日本に定住しており、パンの味を広めるべくパン教室を開いたりしている。
パンの他に好きなものはワインとビールで、休日はもっぱら飲み歩いている。ザル。

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