第25話 歓迎
文字数 3,987文字
「ようこそ、特待生君」
赤みを帯びた肉厚の手が、骨ばった麗射の手を包み込んだ。
彼の目の前で白髪と白髭の中に顔があるような老人が赤ら顔に満面の笑みを浮かべている。
「私は学院長の蛮豊 だ。麗射 君の入学を心から歓迎する。君の壁画からは型にはまらない荒ぶる魂の共鳴を感じたよ、ともすれば様式の美しさに耽溺 しがちなこの学院に、君は新しい風を吹き込んでくれた。感謝している」
校長の挨拶が終わると同時に大きな歓声が上がり、麗射はまるでうねりの高い波にのまれるように学院長室から宴会場へと流されて行った。
それからのことは良く覚えていない。有志で開催された宴会には肴とナツメヤシやブドウから作られた酒やジュース、駱駝 の乳から作られた酒など地方色豊かな飲み物が用意され、皆が集まって飲めや踊れやの大騒ぎの一晩だった。その日の麗射の杯は、まるで尽きることを知らない魔法の杯。麗射の前には入れ代わり立ち代わり様々な酒の入った瓶を持った人々が一言でも会話をかわそうとばかりに列を作る。いきなり熱い芸術論を吹っ掛けるものもいれば、勢いよく抱き着いて泣きだす何を考えているのかわからない輩もいた。
総じて空気を読むものはおらず、ただひたすら挨拶に名を借りた自己表現が繰り広げられる。芸術の総本山のあまりに個性的な人々の洗礼に圧倒され、麗射はただひたすら杯を空にするしかなかった。
翌朝。
ぼんやりと目を覚ました麗射の見たものは、汚れた低い天井ではなく、光沢のある白い石で作られた高い天井であった。明り取りの横長の窓からは、午後の強い光が射しこんでいる。どのようにしてたどり着いたのかはよく覚えてないが、ここは彼に割り当てられた寮の一室らしかった。
麗射はおそるおそる両腕を横に広げた。牢獄では寝返りを打つだけで誰かの身体の一部に当たっていたものだが、麗射の手に触るのはどこまでも続く空間と柔らかい布敷きだけ。麗射は心置きなく寝たまま大きく伸びをすると、自由になった実感をかみしめた。
隣に並んだベッドの上には、麻で作った軽い布が無造作に丸まっている。同室者はすでに起きて活動を始めているらしい。
あれほど飲んだのだから翌日に残ってもおかしくはないが、酒の質が良いのであろうか、頭の痛みも感じない。昨日は押し寄せる人々のおかげで豪華な食事を横に見ながらほとんど食べる暇がなかった麗射は、軽い空腹を感じていた。
昨日宴会があった広間が通常院生たちが食事をとる食堂であり、深夜と早朝以外いつでも学院生であれば何らかの食事をすることができる。のろのろと起き上がった麗射は、共同の手洗いで顔を洗いなんとなくの勘を頼りに食堂に向かった。
皆授業に出ているのか辺りには人影がない。がらんとした廊下にはパンを焼いたらしい香ばしい香りが漂っていた。
「昼にも焼きたてのパンが食べられるのか、豪勢だな」
こんな香りをかぐのは何年ぶりだろう、麗射は鼻を膨らませて意地汚く食欲を掻き立てる空気を吸い込んだ。しかし、そんなのは序の口であった。
食堂に入った途端、麗射の足が止まる。彼はポカンと開いたまま閉じない口から、垂れそうになったよだれを慌てて吸い込んだ。
砂漠の放浪と牢獄で慢性的な飢えに耐えてきた麗射にとって、美術工芸院の食堂はまるで神々が食べる天界の食事であった。
昼ご飯というのに、中央のテーブルにずらりと並ぶ大きな深皿の数々。昼食時間が過ぎているからか皿の上に残っているのは少量ずつであったが、そこには麗射が一年近く食べたことがない卵や、鶏肉をふんだんに使い、スパイスを変幻自在に操った豪華な料理がずらりと並んでいた。端っこに積み上げられた平べったく焼かれた何の変哲もない焼きたてのパンですら、うっすらとオリーブの香りが立ちのぼる手抜きのない品であった。
うれしいことに食事はすべてが食べ放題であった。理性を失って満腹になるまで食べた後で、麗射は棚にデザートが並べられ始めたのに気が付いた。午後のティータイム用のメニューであろうか、濃い目のミントティー、幾重にも重ねられたパイ生地の中にすりつぶしたナッツを挟んで蜜に浸したもの、細い麺を集めた生地にチーズを挟み焼き上げたものなど一品で十分に満足を得ることができる手の込んだメニューがこれでもかとばかりに並ぶ。抗しがたい魅力に負けて手を伸ばしたデザートだが、満腹のはずなのに不思議と胃の腑の隙間にすんなりと収まっていった。
満腹感に満たされて我に返った麗射を襲ったのは別れてきた仲間たちへのうしろめたさだった。
「ああ、あいつらにも食べさせてやりたい」
麗射はため息をついた。
走耳 、幻風 、氷炎 、雷蛇 。皆元気に生きているだろうか。逃避行や牢内でろくな食事にありついていないだろう彼らにここのふっくらした肉まんじゅうの一切れでも持って行って食べさせてやりたりたかった。しかしあの厳しい牢獄に差し入れができるわけもなく、麗射はしばし天帝に仲間の無事を祈った。
ふと顔を上げた麗射は、昨夜目をやる余裕がなかった食堂の壁や天井に壮麗な絵や模様が描かれているのに気が付いた。手元に視線を落とすと何でもない小皿にまで凝った絵付けが施されている。院生の作品かもしれないが、相当な技量の持ち主が作ったものに間違いはなかった。
この美術工芸院は教授や生徒たちが創作する数々の美術品を売ることで財を成している。食堂に並ぶ豪華な料理から察するに、その売り上げは麗射の予想をはるかに超えているようであった。「真珠の美が財を積む」と言われることは知っていたが、噂にたがわぬ各所の豪奢さに麗射は圧倒されていた。
美術工芸院への入学は難しく、憧れの美の砦を目指して各地の精鋭が集まってくる。危険な砂漠に隔てられているため、残念ながら女性の入学者はいないが、男子学生だけでも様々な髪や目の色、風貌をしており、なかなか華やかであった。見かけは違ってもそこは美の砦の住人らしく彼らの服は一様に顔料や油によって色とりどりに汚れていた。
「おはよう、昨日は眠れたかい」
お腹の隙間にこれでもかとミントティーを流し込んでいる麗射に声をかけたのは同室のレドウィンだった。彼は麗射が牢獄から美術工芸院に来るときの御者を務めてくれた男で、なんと学院生代表を務めている。新入生の部屋は、経験のある年上と組まれるらしくこのレドウィンは今年で4年目、すなわち卒業の年を迎えていた。彼はこの学院の自由な雰囲気を体現したかのような、中央を残してそり上げた髪をたてがみのごとく固めて、七色に染めるといった奇妙な髪型をしているが、その髪型とは真逆で、温厚で真面目な男であった。
「ええ、ありがとうございます。寝床が信じられないくらいふかふかで、雲の上で寝ているようでした」
「そりゃよかった、今日の予定は?」
「授業は明日からなので、今日は準備をしてゆっくりするように言われています」
昨日の余韻かレドウィン自慢の虹色髪は四方八方を向いている。彼は卵と小麦粉でできた粥が入った器をテーブルに置くと、大きく伸びをした。
「しかし昨日は飲みすぎた。お前強いな、ナツメヤシ酒は良く飲むのか」
麗射は首を振った。
「地元の波州では米の酒ばかりで、ナツメヤシの酒は初めて飲みました。口の中に含んだとたん、こうファーって無くなる感じがたまりませんね」
「そうか、俺は砂漠生まれだから逆にコメの酒なんて飲んだことがないぞ、飲んでみたいものだな」
自身の歓迎会なので先に席を立つわけにいかず、勧められるまま杯を重ねた麗射が床に就いたのは夜が明ける寸前のことである。
「あれだけ飲んだのに、二人とも砂呑 だな。俺なんか獏雨 だぜ」
二人の会話をげっそりした顔で聞いていた血のように赤い髪の青年がつぶやいた。
砂漠が水を吸い込むように、飲んでも飲んでも平気な人間を広沙州 では砂呑と呼んでいる。そしてまれに雨が降ると砂漠に濁流が走り一面水浸しになることから、嘔吐などではげしく場を汚す行為は漠雨と呼ばれ軽蔑された。
「夕陽、お前は飲み過ぎだ」
水だけを目の前に置いて机に突っ伏すひょろ長い体躯の青年。その赤毛をレドウィンはがさがさと乱暴にかき回した。様々な地域から生徒が集まるこの学院でも、これだけの赤毛は珍しい。昨日の酒宴でも本名ではなく皆から『夕陽さん』と呼ばれていた。学年は麗射と同じようだが、ほとんどの人からさん付けされているところを見ると、留年を繰り返しているようである。
「うえーっ、触るなあ」
今にも死にそうな声で夕陽がうめいた。
「どうせお前は授業に出ないんだろ、麗射にこのわかりにくい学院の内部を案内してやれよ。この魔窟に巣くう妖怪にはうってつけの仕事だぜ」
「誰が妖怪じゃ」
ぶつぶつつぶやきながら、水を飲み干した夕陽が立ち上がる。
「それでは行こうか、焼刻の英雄殿」
「そんな、俺、英雄だなんて――」
「皮肉だよ、決まってるじゃない」
さらりときつい言葉を発すると夕陽は、何事もなかったように凍り付いた麗射を振り返った。
「どしたの? 行くよ」
悪意は全くなかったらしい。
麗射は我に返ってこの奇妙な先輩の後を慌てて追った。
「よっ、獄雄 の麗射!」
麗射を見つけると皆が口々に歓迎の声をかける。中には昨日の余韻をひきずって肩を組んでくる者もいた。
しかし、そのたびに今の夕陽の言葉が麗射の脳裏によみがえった。よく見ると、顔は笑っていても目が笑っていないものや、麗射を避けて向こうに行ってしまうものもいる。
――危ない、危ない。すんでのところで勘違いしてしまうところだった。
俺はこの学院に放り込まれた毛色の変わった話題、でしかない。いや、もっと言えば酒の肴ぐらいか。
歓迎の裏側に潜む感情に気づかせてくれた、ひょうひょうと前を行く赤毛の男に麗射は心の奥で感謝をささげた。
赤みを帯びた肉厚の手が、骨ばった麗射の手を包み込んだ。
彼の目の前で白髪と白髭の中に顔があるような老人が赤ら顔に満面の笑みを浮かべている。
「私は学院長の
校長の挨拶が終わると同時に大きな歓声が上がり、麗射はまるでうねりの高い波にのまれるように学院長室から宴会場へと流されて行った。
それからのことは良く覚えていない。有志で開催された宴会には肴とナツメヤシやブドウから作られた酒やジュース、
総じて空気を読むものはおらず、ただひたすら挨拶に名を借りた自己表現が繰り広げられる。芸術の総本山のあまりに個性的な人々の洗礼に圧倒され、麗射はただひたすら杯を空にするしかなかった。
翌朝。
ぼんやりと目を覚ました麗射の見たものは、汚れた低い天井ではなく、光沢のある白い石で作られた高い天井であった。明り取りの横長の窓からは、午後の強い光が射しこんでいる。どのようにしてたどり着いたのかはよく覚えてないが、ここは彼に割り当てられた寮の一室らしかった。
麗射はおそるおそる両腕を横に広げた。牢獄では寝返りを打つだけで誰かの身体の一部に当たっていたものだが、麗射の手に触るのはどこまでも続く空間と柔らかい布敷きだけ。麗射は心置きなく寝たまま大きく伸びをすると、自由になった実感をかみしめた。
隣に並んだベッドの上には、麻で作った軽い布が無造作に丸まっている。同室者はすでに起きて活動を始めているらしい。
あれほど飲んだのだから翌日に残ってもおかしくはないが、酒の質が良いのであろうか、頭の痛みも感じない。昨日は押し寄せる人々のおかげで豪華な食事を横に見ながらほとんど食べる暇がなかった麗射は、軽い空腹を感じていた。
昨日宴会があった広間が通常院生たちが食事をとる食堂であり、深夜と早朝以外いつでも学院生であれば何らかの食事をすることができる。のろのろと起き上がった麗射は、共同の手洗いで顔を洗いなんとなくの勘を頼りに食堂に向かった。
皆授業に出ているのか辺りには人影がない。がらんとした廊下にはパンを焼いたらしい香ばしい香りが漂っていた。
「昼にも焼きたてのパンが食べられるのか、豪勢だな」
こんな香りをかぐのは何年ぶりだろう、麗射は鼻を膨らませて意地汚く食欲を掻き立てる空気を吸い込んだ。しかし、そんなのは序の口であった。
食堂に入った途端、麗射の足が止まる。彼はポカンと開いたまま閉じない口から、垂れそうになったよだれを慌てて吸い込んだ。
砂漠の放浪と牢獄で慢性的な飢えに耐えてきた麗射にとって、美術工芸院の食堂はまるで神々が食べる天界の食事であった。
昼ご飯というのに、中央のテーブルにずらりと並ぶ大きな深皿の数々。昼食時間が過ぎているからか皿の上に残っているのは少量ずつであったが、そこには麗射が一年近く食べたことがない卵や、鶏肉をふんだんに使い、スパイスを変幻自在に操った豪華な料理がずらりと並んでいた。端っこに積み上げられた平べったく焼かれた何の変哲もない焼きたてのパンですら、うっすらとオリーブの香りが立ちのぼる手抜きのない品であった。
うれしいことに食事はすべてが食べ放題であった。理性を失って満腹になるまで食べた後で、麗射は棚にデザートが並べられ始めたのに気が付いた。午後のティータイム用のメニューであろうか、濃い目のミントティー、幾重にも重ねられたパイ生地の中にすりつぶしたナッツを挟んで蜜に浸したもの、細い麺を集めた生地にチーズを挟み焼き上げたものなど一品で十分に満足を得ることができる手の込んだメニューがこれでもかとばかりに並ぶ。抗しがたい魅力に負けて手を伸ばしたデザートだが、満腹のはずなのに不思議と胃の腑の隙間にすんなりと収まっていった。
満腹感に満たされて我に返った麗射を襲ったのは別れてきた仲間たちへのうしろめたさだった。
「ああ、あいつらにも食べさせてやりたい」
麗射はため息をついた。
ふと顔を上げた麗射は、昨夜目をやる余裕がなかった食堂の壁や天井に壮麗な絵や模様が描かれているのに気が付いた。手元に視線を落とすと何でもない小皿にまで凝った絵付けが施されている。院生の作品かもしれないが、相当な技量の持ち主が作ったものに間違いはなかった。
この美術工芸院は教授や生徒たちが創作する数々の美術品を売ることで財を成している。食堂に並ぶ豪華な料理から察するに、その売り上げは麗射の予想をはるかに超えているようであった。「真珠の美が財を積む」と言われることは知っていたが、噂にたがわぬ各所の豪奢さに麗射は圧倒されていた。
美術工芸院への入学は難しく、憧れの美の砦を目指して各地の精鋭が集まってくる。危険な砂漠に隔てられているため、残念ながら女性の入学者はいないが、男子学生だけでも様々な髪や目の色、風貌をしており、なかなか華やかであった。見かけは違ってもそこは美の砦の住人らしく彼らの服は一様に顔料や油によって色とりどりに汚れていた。
「おはよう、昨日は眠れたかい」
お腹の隙間にこれでもかとミントティーを流し込んでいる麗射に声をかけたのは同室のレドウィンだった。彼は麗射が牢獄から美術工芸院に来るときの御者を務めてくれた男で、なんと学院生代表を務めている。新入生の部屋は、経験のある年上と組まれるらしくこのレドウィンは今年で4年目、すなわち卒業の年を迎えていた。彼はこの学院の自由な雰囲気を体現したかのような、中央を残してそり上げた髪をたてがみのごとく固めて、七色に染めるといった奇妙な髪型をしているが、その髪型とは真逆で、温厚で真面目な男であった。
「ええ、ありがとうございます。寝床が信じられないくらいふかふかで、雲の上で寝ているようでした」
「そりゃよかった、今日の予定は?」
「授業は明日からなので、今日は準備をしてゆっくりするように言われています」
昨日の余韻かレドウィン自慢の虹色髪は四方八方を向いている。彼は卵と小麦粉でできた粥が入った器をテーブルに置くと、大きく伸びをした。
「しかし昨日は飲みすぎた。お前強いな、ナツメヤシ酒は良く飲むのか」
麗射は首を振った。
「地元の波州では米の酒ばかりで、ナツメヤシの酒は初めて飲みました。口の中に含んだとたん、こうファーって無くなる感じがたまりませんね」
「そうか、俺は砂漠生まれだから逆にコメの酒なんて飲んだことがないぞ、飲んでみたいものだな」
自身の歓迎会なので先に席を立つわけにいかず、勧められるまま杯を重ねた麗射が床に就いたのは夜が明ける寸前のことである。
「あれだけ飲んだのに、二人とも
二人の会話をげっそりした顔で聞いていた血のように赤い髪の青年がつぶやいた。
砂漠が水を吸い込むように、飲んでも飲んでも平気な人間を
「夕陽、お前は飲み過ぎだ」
水だけを目の前に置いて机に突っ伏すひょろ長い体躯の青年。その赤毛をレドウィンはがさがさと乱暴にかき回した。様々な地域から生徒が集まるこの学院でも、これだけの赤毛は珍しい。昨日の酒宴でも本名ではなく皆から『夕陽さん』と呼ばれていた。学年は麗射と同じようだが、ほとんどの人からさん付けされているところを見ると、留年を繰り返しているようである。
「うえーっ、触るなあ」
今にも死にそうな声で夕陽がうめいた。
「どうせお前は授業に出ないんだろ、麗射にこのわかりにくい学院の内部を案内してやれよ。この魔窟に巣くう妖怪にはうってつけの仕事だぜ」
「誰が妖怪じゃ」
ぶつぶつつぶやきながら、水を飲み干した夕陽が立ち上がる。
「それでは行こうか、焼刻の英雄殿」
「そんな、俺、英雄だなんて――」
「皮肉だよ、決まってるじゃない」
さらりときつい言葉を発すると夕陽は、何事もなかったように凍り付いた麗射を振り返った。
「どしたの? 行くよ」
悪意は全くなかったらしい。
麗射は我に返ってこの奇妙な先輩の後を慌てて追った。
「よっ、
麗射を見つけると皆が口々に歓迎の声をかける。中には昨日の余韻をひきずって肩を組んでくる者もいた。
しかし、そのたびに今の夕陽の言葉が麗射の脳裏によみがえった。よく見ると、顔は笑っていても目が笑っていないものや、麗射を避けて向こうに行ってしまうものもいる。
――危ない、危ない。すんでのところで勘違いしてしまうところだった。
俺はこの学院に放り込まれた毛色の変わった話題、でしかない。いや、もっと言えば酒の肴ぐらいか。
歓迎の裏側に潜む感情に気づかせてくれた、ひょうひょうと前を行く赤毛の男に麗射は心の奥で感謝をささげた。