第1話 消えた太郎

文字数 305文字

 「けっ、毎日魚を取ってやがるくせに、なんでカメだけ助けるんだ。」
 「こないだ鶴の恩返しって話、ばあ様から聞いてたよ。」
 村人たちは太郎の不可解な行動に眉をひそめていた。

 太郎は小さな漁村に母親と二人で暮らしていた。猟師というものは一人ではできない。大漁の日もあればボウズの日もある。互いに融通しあって暮らしていた。
 不漁が続いたある日。漁に出た太郎が沖に船を残したまま忽然と消えた。
 「まだ帰ってないのかい?」
 猟師仲間が太郎の年老いた母の身を案じながら尋ねてくる。
 「どうしたかね。まさか、無理して遠出して波にさらわれたんじゃあるまいね。」
 近所の衆も交代で陸の上や浜を捜索してくれた。
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