第23話 謎のスイッチヒッター?!

文字数 788文字

 試合は完全に投手戦の様相を呈していた。
 8回表。
 桜台の攻撃。
 トップバッターは伏兵もしくはクセモノと呼ばれる8番打者の神楽坂佑だ。
 長身長髪。長い手足。男性ファッションモデルのような容姿で女性ファンも多い。
 その男が左打席に立ってゆったりとバットを構えている。
 いまにも長打を放ちそうな雰囲気だ。
 だが……

「ストラックツー!」
 簡単にノーボールツーストライクに追い込まれてしまった。神楽坂は内角球が打てな
い。だが、アウトコースの球なら長いリーチを活かして流し打ちができる。
 要するに腕をたたんだひっぱりのバッティングができないのだ。

「タイム!」
 神楽坂が球審にタイムを要求し打席をはずした。
 すると……
 そのまま左打席にもどるかと思いきや、今度は右打席に位置を変えた。

「カグさんてスイッチヒッターだっけ?」
 三塁側桜台ベンチで遊川が首をかしげた。
「いや、おれはあいつが右で打つのをみたことがないぞ」
 神楽坂と同学年の高3で主将をつとめる大城智也(おおしろ・ともや)がいった。遊川と同じく首をひねって
いる。
「左対左だから風巻のスローカーブがみえにくいだけだろ」
 とこれは小野兄の弁だ。小野兄も高3で神楽坂とはクラスメイトだ。
 武藤監督はこの会話には加わらずダグアウト奥を振り返った。
 監督の実の娘でありマネージャーの加奈が滝沢の右足の甲を氷嚢で冷やしている。
 それは頼我の打球を食いとめた代償だ。真っ赤に腫れあがり痛々しい。
 このままゼロ行進がつづけば延長戦に突入する。
 この様子ではもって9回裏まで。ここらで先制点をとっておかなければ配色濃厚に
なる。

「プレイ!」
 球審が試合再開を告げた。
 頼我が振りかぶり、インコースにゆるいカーブを投げた。3球つづけてのカーブだ。
「えっ?!」
 頼我が目をみはった。
 インコースのカーブがなぜかアウトコースのカーブになっていた。



       第24話につづく
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