第1話 裕子と生きる意味

文字数 1,080文字

ねえ、ママ
なあに
人間は、どうして生きているの?
えっ?
なぜみんな、今を生きようとするの?
きゅ、急にどうしたの?
私にはわからない。人間に、生きている意味なんて、あるのかしら
……あ、あなた! ちょっときて! あなた!











◆裕子と物欲◆
 デパート。母と小学生の娘。
今日は裕子の誕生日だから、何でも好きなのを買ってあげるからね
…………。
どうしたの?
私たちは、物欲が大きすぎるのよ
えっ?
現代はモノがあふれているから、なんでも欲しがってしまう
だけど、それで私たち、賢くなったといえるのかしら?
ゆ、裕子……。
モノはいらない
ひとつ手に入れると、さらに手に入れたくなって、いつか私の腕で抱えきれなくなるから
あなた! 裕子がまた変なのよ! あなた!












◆裕子とカレー◆

 自宅。母親と小学生の娘。
今日は裕子の好きなカレーよ
わあ、ありがとう、ママ
 ぱくっ。
どう、おいしい?
うん、おいしい!
けど――
けど?
このおいしいカレーを食べられない貧しい国の人たちのことを思うと、私達はなんて幸せなのだろうと思うわ
え?
幸せすぎる。そう、幸せすぎるのよ
世界中の人間の八人に一人が、いまも飢えに苦しんでいるの
こうして私がのんきに晩御飯を食べている間にも、世界のどこかで人が死んでいく
ゆ、裕子?
そんなこといってもキリがないのはわかってる
でも、それを心の片隅に置いて、この食べ物の味をかみしめなければ、私達は他人のことを思いやることさえいつか忘れてしまうような気がするのよ……
あ、あなた! 裕子がまた変なのよ! あなた!












◆裕子とエアコン◆

 道を歩く母と娘。
もうお昼ね。レストランで何か食べよか
わあい。わたし、フルーツパフェが食べたいな
そうね。じゃあそこのレストランにしましょうか
 近くのレストランに入る。
わあ、すずしい~!
気持ちいいわ~。やっぱり外と違って中は涼しいわね
すずしい。確かにすずしいわ
でも……
でも?
エアコンでこれだけ涼しくなっているということは、本来室内にあった暑さが外に出ていることになるのよ
それが日本中のレストランで、いえ、一般家庭やオフィスビルでも行われているとしたら、一体わたしたちはどれだけの熱を排出していることになるんだろう
な、なにを言っているの、裕子?
夏に涼みたいのは、だれもが思う素直な気持ち。でもそれが過剰になれば、それだけ地球に負担がかかることを、私達は忘れてはいけないと思うの
こうしている間にも、南の島の人たちは温暖化による海面上昇で自分の住む場所がなくなってきているわ。私達は、その人たちのことも考えて、いまを暮らしていかなきゃいけないのじゃないかしら
ゆ、裕子!どうしたの、裕子!
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登場人物紹介

母親

ほら裕子。自己紹介しなさい

裕子

裕子です! 十歳です! 小学四年生です!

好きな教科は国語と社会で、苦手な教科は体育です!

でも友だちも先生も優しいし、学校はとても楽しいでーす!


――なんてね。フフ。

自己紹介で私の全てを知ろうだなんて、虫がよすぎると思わない?

所詮自己紹介なんて自分の中の良い部分、自慢したい能力を披露するだけのものよ。

本当の人間性はこんなことじゃ到底理解し得ないことに、この欄を読む側もそろそろ気づくべきじゃないかしら。


母親「ど、どうしたの裕子!」

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