第1話 プロローグ
文字数 2,417文字
■タイトル:ありがとうポン
日曜日、ポンが突然、死にました。
午前6時、いつものように「朝ゴハンちょうだい!」と、外からポンの鳴き声が聞こえました。夫が朝ゴハンを持っていくと、大よろこびで「ダッコしてくれ!」と、甘えていたそうです。
9時、洗濯物を干しに表へ出ると、ポンが尻尾を振ってついてきました。
10時、玄関先で「ポン!」と呼ぶと、こちらにやってきました。
「ポンちゃん、かわいいね~~。大好き、大好き♪」と、お鼻をくっつけたら、ちゃんとしめっていて「あ~、今日も元気だね」と安心しました。
でも、私が家の中へ戻っていこうとすると、背中で「ワオーン!」と、甲高い声が聞こえました。あとで考えるとこれは、ポンの「サヨナラ」でした。
11時、庭仕事をする夫をポンは、お座りして眺めていたそうです。それから、お昼ご飯を食べたり、午後になってお客さんが訪ねてきたり、パソコンで作業したりと、ばたばたしていました。
午後3時、洗濯物を取り込もうと外に出ると、ポンは、庭の草むらの上で、横になっていました。こんなこと珍しいな~と近づいても、起きる気配が、ありません。
何か胸騒ぎがして、家の中の夫を呼びました。足が立ちすくんで動けません。夫がポンに近づいて、身体をゆらしましたが、何の反応もありません。
信じられないことに、ポンは死んでいました。「まだ、あったかい・・」と夫は言い、薄目を閉じさせました。おそるおそる私も近づきました。
いつものようにノーテンキに身体を伸ばし、ポンは、スヤスヤ眠っている様に死んでいました。とっても安らかな顔でした。触ったら、まだ身体が温かくて・・。
もう何がなんだか、わかりません。ウソとしか、夢としか思えない。ありえない。
「なんで?なんで?なんで?」さっきまで、あんなに元気だったのに、なんで?
それから、白いシーツでポンをくるんで、家の中に入れ、お水と大好きだった骨のオヤツとお線香を供えました。
夫が「火葬しなければいけないね」と、ペット葬祭の会社に電話をしました。「明日、お迎えに行きます」と言われました。
この日は、夫と二人で、ポンを送るお通夜になりました。私は、涙が止まらなくなり、息が苦しくなり、つらくて、ずっと泣いていました。
「なんで?なんで?なんで?」その言葉しか、出てきません。
何が悪かったのだろう?
ペットフードやオヤツが合わなかったのだろうか?
マダニに刺されたのだろうか?
それとも、マダニ除けの薬がきつかったのだろうか?
マムシにかまれたのだろうか。
急に寒くなったからだろうか?
考えても、考えても、答えが出ません。ワクチンも打っていたし、ダニやフィラリアの薬も毎月飲んでいたし、食欲もあったし、ウンチもきれいだったし、いつも飛び跳ねてたし、お散歩も大好きだったのに。もう、わけがわかりません。
何の前兆もなかったのに・・。
けれども、私が気がつかないだけで本当は体調が悪くて、ずっと苦しかったのかなあ、と思うとたまりません。
次の朝、目が覚めたら、ポンの死はやはり夢ではなく、現実でした。家の中に、白いシーツにくるまった白いポンが横たわっていました。私の目は、土偶のように腫れていました。人生の中で、こんなに泣き続けたことがあったかな。心が悲しいと身体が苦しくなるんだな。人生で一番、悲しい・・。
午前中、ペット葬祭の人がポンを迎えにきてくれました。この日は夫が仕事なのでポンを送り出し、私は一人になりました。食べることも、動くこともできずに、ただぼ〜〜っと・・。
夜、小さな白い骨壷に入ったポンを連れて、夫が帰ってきました。リビングに、骨壺を置いて、ポンと最後の夜を過ごしました。ちょうど、お彼岸です。
ポンは、お彼岸に、彼の岸に渡って行ったんだね。
きれいに死んでたね。
苦しんだ様子はなかったから、それがせめてもの救いだね。
脳卒中とか、心筋梗塞とか、そういうのかな?
信じられないね。
あんなに元気だったのにね。
でも、みごとな死にっぷりだね・・。
と泣きながら、二人でポンの話をしました。
翌日の秋分の日、庭のイチジクの木の下にポンの骨を埋めました。ポンが、7年と10カ月過ごした庭です。肉体から解放されたポンの魂が、庭中を軽やかに自由に駆けまわってくれるといいなと思います。
ポンが死んで、今日で6日目です。早くに、このブログでお知らせをしなければと、書き始めたのですが、悲しくて、つらくて、今日になってしまいました。
ポンは、幸せ者です。たくさんの方に「ポン、ポン」と可愛いがっていただきました。 みなさま本当に本当にありがとうございます。
7年と10カ月前、「このワンコは、飼い主がいないから、保健所に行くしかないそうだよ」と、友人が白い子犬を連れてきました。
あまりにかわいくて、かわいそうで「じゃあうちで飼います」と、家族に相談することなく、即決してしまいました。もし、誰か反対しても、絶対に説得する!
けれども、誰も反対せず、その日から家族の一員になりました。
ポンと暮らした日々は、本当に幸せでした。ポンがいるだけで、悲しい時も、落ち込んだ時も、どれだけ救われたかわかりません。
だから、しばらくは、悲しくてつらい日々が続くと思いますが、あまりメソメソしてると、ポンが成仏できないと困るので、努力して気持ちを明るくします。
ずーっと泣き続けているので、私の顔は、土偶さんから山姥のようになってきました。こんなことじゃあ、いかん、いかん、笑ってなければ、ポンも悲しがるよ。
ポン、毎日面白かったね。ポン、いつも楽しかったね。
ポンのおかげで毎日幸せだったよ。ポンも幸せだったかな。
ポン、ありがとうね。また、会おうね。
ありがとう、ポン!
第2話「NPOとPON」に続きます。