恋に落ちたイケメン
文字数 1,607文字
今まではわいわいきゃいきゃいとキャンディのような女の子しか目に入らなかった。
女の子たちは色とりどりに煌 めいて俺を魅了した。
そんな彼女たちに比べて中田さんは静かだ。
動ではなく静。
そんな印象を受けた中田さんがワンダーフォーゲル部。
☆
とりあえず雅紀に話を聞こうと、俺はスマホでメッセージを送った。
『久しぶり。雅紀ってワンダーフォーゲル部なんだな』
その夜、雅紀から返信があった。
『ワンゲルやってるよ。智も興味あるの? いつでも部員募集中』
めちゃくちゃ興味ある。ワンゲルじゃなくてそこに所属する中田香さんに。
でもさすがに、久しぶりに連絡を取った友達にいきなりそんなことを言うほど俺はアホではなかった。
雅紀は次の週、お互いの部活がオフの火曜に俺の家に来ることになった。
☆
「相変わらず愛想ないなぁ」
雅紀の顔に一瞥 をくれてさっさと定位置に戻るマルチーズのコロを見て雅紀が言う。
「愛想ないんじゃなくて、雅紀のことを認めてる、みたいな感じ」
「俺、コロに認められてるのか」
雅紀がフッと笑う。
こういう顔がかっこいいよな……。
妬 ましいような、うっかりときめいてしまうような、複雑な気持ちで俺は雅紀の微笑みを見ていた。
「前の彼女が来た時なんてすごい勢いで吠えてたから」
「前の彼女って佐々木穂乃果 だろ。噂 になってたもん。今度の獲物は中山だって」
「獲物ってなんだよ」
「佐々木って男を取っかえ引っかえしてるだろ。智の次は三年のバンドマンだったもんな」
俺は去年の傷を思い出した。
「俺の黒歴史は置いといて、雅紀は昔、コロのウ●コを一緒に取りに行ってくれただろ? そんなことを覚えてるんじゃないの?」
俺が中一の時に飼い始めたコロ。うれしがってその時同じクラスで仲の良かった雅紀と散歩に連れて行った。フンを取らずに帰ったら母親に怒られて、ビニール袋を持ってコロのフンを二人で回収に行った。
「そんなことあったなぁ」
雅紀は笑いながら言った。
☆
「雅紀バスケ上手かったじゃん。なんでワンダーフォーゲル部なの?」
雅紀がセンターで活躍したバスケ部は市の大会で優勝したはずだ。
「父親が山好きで、俺、小さい頃から山に登ってたんだよ。親子で山登りすると子どもはグレないって父さんは信じてるみたい」
「じゃあ高校ではワンゲル部に入ろうって決めてたんだ」
「そこまで思ってないよ。でもチラッと覗きに行ったら山の写真とかあって奇麗だなって……。山に登るのもいいかもなって思って」
奇麗だな の部分が妙に引っかかって食いついてみた。
「ほんとは奇麗な女子目当てだったんだろ?」
雅紀は驚いたように目を見開いて俺の顔を見た。
「お前、知ってたのかよ……」
俺は雅紀の口から聞きたくないことを聞く予感がした。
「そうだよ。本当の目的はそこだったよ。めちゃくちゃ奇麗な人で、その人が目を輝かせて『一緒に山に登ってみない?』なんて言うもんだから……。でも、実際山に登ってみたら奥が深いんだ。楽しいよ。最初は邪 な気持ちだったかもしれないけど……」
やっぱり雅紀は中田さん目当てだったのか……。
俺はあっけなく終わった恋に気が抜けた。
すると雅紀が言った。
「詩芳 先輩ってすごいんだよ。俺にとってはあの人こそ山で、雄大な自然で……」
アホのように恋心を語る雅紀の口から出てきた名前に俺の頭が反応する。
詩芳先輩……? 誰それ。
「でも詩芳先輩の魅力って智にまで伝わってるの? ホントまじでどうしよう……」
アホだな。イケメンだって恋すりゃただのアホなんだ。
愛すべきアホなイケメン雅紀に俺は聞いた。
「詩芳先輩と付き合ってんの?」
「やっとだよ。もしフラれたら部活でも気まずくなるしどうしようって。でも勇気ふり絞って告白したんだ。そしたら『やっと言ってくれた』って。もし俺が言わなかったら先輩から言うつもりだったって……」
幸せの涙なのか、雅紀の目は少し潤 んでいた。
女の子たちは色とりどりに
そんな彼女たちに比べて中田さんは静かだ。
動ではなく静。
そんな印象を受けた中田さんがワンダーフォーゲル部。
☆
とりあえず雅紀に話を聞こうと、俺はスマホでメッセージを送った。
『久しぶり。雅紀ってワンダーフォーゲル部なんだな』
その夜、雅紀から返信があった。
『ワンゲルやってるよ。智も興味あるの? いつでも部員募集中』
めちゃくちゃ興味ある。ワンゲルじゃなくてそこに所属する中田香さんに。
でもさすがに、久しぶりに連絡を取った友達にいきなりそんなことを言うほど俺はアホではなかった。
雅紀は次の週、お互いの部活がオフの火曜に俺の家に来ることになった。
☆
「相変わらず愛想ないなぁ」
雅紀の顔に
「愛想ないんじゃなくて、雅紀のことを認めてる、みたいな感じ」
「俺、コロに認められてるのか」
雅紀がフッと笑う。
こういう顔がかっこいいよな……。
「前の彼女が来た時なんてすごい勢いで吠えてたから」
「前の彼女って佐々木
「獲物ってなんだよ」
「佐々木って男を取っかえ引っかえしてるだろ。智の次は三年のバンドマンだったもんな」
俺は去年の傷を思い出した。
「俺の黒歴史は置いといて、雅紀は昔、コロのウ●コを一緒に取りに行ってくれただろ? そんなことを覚えてるんじゃないの?」
俺が中一の時に飼い始めたコロ。うれしがってその時同じクラスで仲の良かった雅紀と散歩に連れて行った。フンを取らずに帰ったら母親に怒られて、ビニール袋を持ってコロのフンを二人で回収に行った。
「そんなことあったなぁ」
雅紀は笑いながら言った。
☆
「雅紀バスケ上手かったじゃん。なんでワンダーフォーゲル部なの?」
雅紀がセンターで活躍したバスケ部は市の大会で優勝したはずだ。
「父親が山好きで、俺、小さい頃から山に登ってたんだよ。親子で山登りすると子どもはグレないって父さんは信じてるみたい」
「じゃあ高校ではワンゲル部に入ろうって決めてたんだ」
「そこまで思ってないよ。でもチラッと覗きに行ったら山の写真とかあって奇麗だなって……。山に登るのもいいかもなって思って」
奇麗だな の部分が妙に引っかかって食いついてみた。
「ほんとは奇麗な女子目当てだったんだろ?」
雅紀は驚いたように目を見開いて俺の顔を見た。
「お前、知ってたのかよ……」
俺は雅紀の口から聞きたくないことを聞く予感がした。
「そうだよ。本当の目的はそこだったよ。めちゃくちゃ奇麗な人で、その人が目を輝かせて『一緒に山に登ってみない?』なんて言うもんだから……。でも、実際山に登ってみたら奥が深いんだ。楽しいよ。最初は
やっぱり雅紀は中田さん目当てだったのか……。
俺はあっけなく終わった恋に気が抜けた。
すると雅紀が言った。
「
アホのように恋心を語る雅紀の口から出てきた名前に俺の頭が反応する。
詩芳先輩……? 誰それ。
「でも詩芳先輩の魅力って智にまで伝わってるの? ホントまじでどうしよう……」
アホだな。イケメンだって恋すりゃただのアホなんだ。
愛すべきアホなイケメン雅紀に俺は聞いた。
「詩芳先輩と付き合ってんの?」
「やっとだよ。もしフラれたら部活でも気まずくなるしどうしようって。でも勇気ふり絞って告白したんだ。そしたら『やっと言ってくれた』って。もし俺が言わなかったら先輩から言うつもりだったって……」
幸せの涙なのか、雅紀の目は少し