再生

文字数 1,173文字

「……人間、待て」

 神沢勇は肉片となった人狼を振り返った。
 が、それはみるみると再生して、狼の形になっていった。
 白銀の(たてがみ)が月光を反射してキラキラと輝いた。

「あらま、狼に退化?」

 神沢勇は皮肉をいう。
 どうやら、全身を破壊されれば人形には完全に戻れないのか、それとも狼の方が本来の姿なのかは分からなかった。

「人間にしてはなかなかやるな。だが、我を倒すことはできぬ」

 負け惜しみのようにも聞こえるが、確かに不死身の人狼には違いない。

「まさか、不死身の狼と戦おうとは思わないわ。借りは返したから失礼するわ」

 神沢勇は何事も無かったように振り返りもせず、歩き出す。

「分かった。今日は引き分けとしよう」

 狼も追撃する力がないのか、負け惜しみなのか判断はつかなかったが追ってはこないらしい。
 神沢勇は内心、ほっとして足早にその場を去った。





      †





「というわけで、怜の仇は討ったからね」

 神沢勇は翌日、怜の病室で自慢話をした。
 実際、ほとんだ圧勝なのだから大したものなのだが、何となく腑に落ちないものが残っていた。
 それが何なのかまでは分からなかったのだが。

「神沢先輩! 流石です! 天才です! やっぱり女子プロレスは最強ですね」

 大分、怪我も回復してきた怜は大はしゃぎである。

「そうなると、怜も再戦しないといけないわね。今度は頑張るのよ」

 神沢勇はまたとんでもないことを言い出す。
 まあ、勇らしいといえば勇らしい。

「分かりました。すでに玲奈ちゃんに特訓を依頼してます。頑張ります」

「何ですって? どんな特訓なの?」

 興味深げに訊いてくる。

「それは秘密ですよ。必殺技を教わるのです」

 秘密と言いながら、ほとんどばらしてしまっている。
 そこは怜らしい。

「まあ、頑張りなさい。玲奈にもよろしく伝えておくわ」

「了解です。でも、人狼が狼のままなら逆に戦いにくいですね。すばしっこそうだし」

「確かにねえ。そこは、ちゃんと練習すれば何とかなるわ。自分の力を信じなさい」

「そうですね。とりあえず、身体を治して。スクワットなんかはもうはじめてるんですが」 

「その調子よ。あまり無理はしないように」

「はい」 

 神沢勇は天才プロレスラー神沢勇吾(かみさわゆうご)と天才女子プロレスラー神沢恭子(かみさわきょうこ)の子供として生まれた。
 いわばサラブレッドなのだが、あまりに強過ぎて対戦相手を怪我させて以来、不遇の時を過ごした。
 その時も秋月玲奈に助けられていた。

 たぶん、今回も怜にとって救いの女神になるのは秋月玲奈だろうと思うが、その彼女の身に事件が起こっていることをその時の怜は知るはずもなかった。
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登場人物紹介

風森怜(かざもりれい)

女子プロレスラー神沢勇の付き人、新人プロレスラー。
最弱女子プロレスラーで通称トマ子。
由来は悪役レスラーによく頭を割られてるため。
一応、主人公。 

神沢勇(かみさわゆう)

天才女子プロレスラー。
数年前、相手レスラーを怪我させてしまったショックから不遇の時を過ごしていたが、美少女アイドルにして秋月流宗家の秋月玲奈との格闘技エキビジジョンマッチで復活する。

神沢優(かみさわゆう)


神沢勇の姉。公安警察、秘密結社<天鴉(アマガラス)>のリーダーでもある。
満月の日に新宿に出没する人狼を秘かに退治している。 

秋月玲奈(あきづきれな)


元美少女アイドルだが、秋月流柔術宗家でもある。
女子プロレスラー神沢勇との格闘技エキビジジョンマッチで秋月流柔術を繰り出しアイドル引退中。
公安警察の神沢優と共に人狼退治に協力している。

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