人間の瓶詰

文字数 1,227文字

 初夏の週末は、関東のとある地方都市への一泊出張だった。
 私鉄の特急を使えば片道一時間半で、その気になれば日帰りできる距離にある街だったが、一泊という事にしたのはちょっとばかり観光がしたかったからだった。週末の出張という事もあり、会社も日帰りで済む内容を一泊にしたのを大目に見てくれた。
 出張の予定が終わり、駅前にあるビジネスホテルにチェックインをして、荷物を預けた後、僕は襟元を緩めて、街に繰り出した。出張という事もあり、街に対して入念な下調べをしてきた訳ではなかったが、知らない街を自分の足で歩くのは、新しい刺激になるから好きだった。
 駅前のロータリーを抜け、昭和感漂う建物で構成された商店街を歩く。本当に年号が昭和だった頃はそれなりに栄えて、賑わいを見せていたのかもしれないが、今は錆の浮いたシャッターが閉じられている店舗が多かった。一応営業している店舗も何件があったが、地元の人間を相手に商売している店舗らしく、年老いて死へと向かっているような気がした。
 そんな物悲しい気分を味わいながら街を歩いていると、商店街の突き当りに古い神社があるのが見えた。近づいてみると、神社入り口の右手に『本日 古物市』と紙に書かれた看板が立てかけてあった。こういう所に掘り出し物があるんだよなと思った僕は、さっそく神社の境内に入る事にした。
 古物市は境内にビニールシートや茣蓙を敷き、その上に売りたい物を置いて開催されていた。木々に覆われた境内は商店街より気温が低く、風が吹くと肌に心地よかった。日当たりは良いが物がない商店街とは異なる、日陰は多いが人が多いという環境は、暗いところで栽培するモヤシやカイワレ大根のような、可愛らしさをとささやかさを併せ持った不思議な密度があった。
 僕はこういう雰囲気は大好きだから、ゆっくりと並べられた品々を眺めた。並べられているのは携帯型ラジオに安っぽいデザインのCDプレイヤーや、押し入れや倉庫から引き出してきたであろう陶器やガラス製品など。安っぽい家電製品は欲しくなかったが、美しい模様が描かれた陶器などは僕の好みと値段が釣り合えば、購入を検討しても良かった。
 陶器が並べられた店を抜け、本が売られている店に向かう。だが並んでいるのはハードカバーの大衆小説や十年ほど前に連載が終わった少年漫画の単行本二十巻セットなどで、こちらも僕の興味を引くものは無かった。
 衰退している地方都市に新しい刺激を期待するのが間違っていたか、とあきらめかけた瞬間、何かの瓶詰を売っている出店がある事に気づいた。興味を持った僕は立ち寄って、どんな瓶詰が売られているのか確かめてみた。
 そこで売られていたのは人間の瓶詰だった。瓶詰も一升瓶に詰め込まれた女の物から、保存用の小瓶に入った妖精のような少年の瓶詰、あるいは両親と子どもの瓶詰など。どれもこれもが面白く、そして恐ろしかった。
「どうですか、面白いでしょ?」
 店番の男は、笑顔で僕に声を掛けた。
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