フリルと焼け野原

文字数 999文字

 恋っていうものは、ふわふわのフリルたっぷりに、世界をきらきらにする。だけど、ときに世界を一面の焼け野原にするし、まあ、いまのわたしには目の前が真っ暗なんだよ。
 世界の滅亡。

 既読がつかない。

 わたしは指いっぽんで、世界を壊した。

 わかってる。大事な告白を、スマホでする弱虫なわたしがいけないって。
 でもね、彼を目の前にすると言えなくなるんだ。
 それに、今は大学の講義が対面式ではなくて、ぜんぶweb講義なんだ。
 彼にはなかなか、会えないんだよね。
 思い詰めてメッセージを送ったわたしも、ある意味で被害者なんだ。

 好きです。
 コロナで会えなくなって、寂しいよ。会いたいな。

 そう送ったのは、3時間前。お風呂から出て、眠ろうと思ってたんだけど。どうしても彼に伝えたかった。
 わたし、昨日の夕方に久しぶりに美容室に行って、髪を切ったの。そうしたら、自分でも可愛くなったなって思えて。彼に見せたい、会いたいって素直に思ったの。
 だけど、もうこんな時間。
 メッセージ、送らなければよかった。
 既読がつかない、それがこんなに苦しいなんて。

 彼のやさしい笑顔、もう一度見たかった。

 わたしは、諦めた。うとうと、走馬灯みたいに、彼との思い出を夢に見た。
 大学の入学式で初めて会った日。席が前後で、地方から出てきて不安だった私に、気さくに話しかけてくれたよね。
 桜のはなびら、頭のてっぺんに付いてて、背の高いあなたは笑いながら取ってくれた。
 風邪で講義を休んだ日、電話をくれて、次の日ノート貸してくれた。綺麗な字だったな。
 昨年のバレンタインに、義理だよって嘘ついて、小さなチョコレートをあげたけど、すごく喜んでくれたね。
お返しに今この部屋にあるキャンディくれたよね。私、勿体なくて食べられなくて。
 永久保存にして瓶にいれてあるの。大好きだよ。

 わたし、あなたと、ソーシャルディスタンスなんて取りたくないよ。

 首をこっくりさせている時だった。

 ピコン、とスマホが鳴った。
 わたしは瞬時に飛び起き、スマホを見た。
 すぐ既読にするなんて、いつもは恥ずかしくてできないのに。


 返信遅れてごめんな。今日、バイト夜勤だったんだ。
 俺も、好きだよ。会いたいな。

 世界が一瞬で、きらきらし始めた。
 わたしの部屋って、こんなにピンクで可愛かったっけ?おふとんもいつもより、ふかふかしてる。

 24時50分、彼はコンビニの夜勤の帰り。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み