現世からの隔絶

文字数 1,289文字

 
 
 ─── 遙か昔

 世界には〝ヒト〟と〝リノ〟と呼ばれるふたつの人類が共存していた。

 リノと言う人種には特殊な力があった。

 彼らは自然界にある力を自在に操ることができ、同時に自然を愛し世界の秩序を保つのが使命だった。

 一方。ヒトと言う人種は自然を操る術を持たないが生命力が強く、知恵を巧みに絞り苦難の日々を乗り越えて繁栄していった。

 ヒト族は自然の力を操れるリノ族たちを尊敬し、敬愛した。

 また、リノ族は努力や工夫を重ね生活してゆくヒト族を尊重し見習った。

 ふたつの種族は互いの存在を認め、歩み寄り助け合いながら永くを生きてきた。

 だが───


 時代が進むに連れヒト族の人口は増加。
 するとヒト族は自然と共に寄り添う事を止め、対抗する手段を考案し次第に自然を恐れない様になってゆく。

 そのうちに自然の力を自由に操るリノ族を疎ましく思うようになり、その力を〝魔の力〟と忌み嫌いだしたのだ。

 そしてついにはリノ族を迫害するようになった。


 暴走は迫害だけに留まらなかった。

 繰り返し自然破壊を行い、更に勢いに乗ったヒト族。

 リノ族を恐れ、恐れは恐怖から憎しみ、嫌悪、憎悪へと変じていき、リノ族たちは魔の象徴として排除すべき対象となっていった。

 多くの者が〝リノ族狩り〟の被害に合い、たくさんの命がその犠牲となった。


 リノ族は決断した。

 ならばヒト族の妬みや嫉みが渦巻くこの世界を捨てようと。


 この世界を……諦観(ていかん)した。


 リノ族はこの世界から完全に隔絶(かくぜつ)されたもう一つの世界を創り出し、そこへ移り住んだ。


 リノ族の理想郷。


 ─── リノ・フェンティスタ。
  


 現世(うつよ)からリノ族が姿を消し、ヒト族だけが残された世界は均衡と秩序を失い穏やかだが確実に、ゆっくりと崩壊の道を辿って往くことになった……。






 ─── リノ族は新天地にて一から国を造っていった。

 七人の力ある者たちが立ち上がりリノ族をまとめ、導いた。

 平穏な世界。
 リノ族の誰もが安心して平和に過ごせる理想の世界を創り上げる為に。


 しかしながら、この世界でも争いから逃れる事は難しかった。

 力の強い者、弱い者とで地位が築かれたのだ。

 更に頂点に立つ者の一部にはヒト族への〝復讐〟という密かな野望を持ち、憎しみを育て続けた者が居た。

 その小さな黒い歪は長い歳月を経て大きな闇となり、一見平穏で豊かなリノ・フェンティスタを確実に暗い色へと染めていった。


 〝それ〟は水面下で限界まで膨張し続けていく。



 ある日、遂に弾けた。


 元々争い事を好まないリノ族の殆どは復讐などは望ましくないと事の行く末を、そう結論づけた。

 そして。

 間もなくその〝闇〟は封印された。


 ─── 再び、リノ・フェンティスタには平穏な日常が戻って来たのだった。



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登場人物紹介

ラインアーサ・S・ローゼン

(ライア)

本編物語の主人公。

シュサイラスア王国の王子。
王子と言う立場を隠し、お忍びで城下の街をぶらつくのが大好き。

スズラン

本編物語のヒロイン。

酒場の看板娘。

セィシェル

酒場のマスター、ユージーンの一人息子。スズランに寄り付く人物はゆるさない。

ハリ

ラインアーサの側近。

記憶喪失で二重人格。

ジュリアン

ラインアーサの幼馴染。

民兵警備隊の副隊長。

妹大好きなシスコン。

エリィ

謎の美女。

ラインアーサに懐いている。

イリアーナ

ラインアーサの姉。

ずっと行方不明だったがラインアーサが居場所を捜し、漸く帰国する事ができた。

リーナ

ジュリアンの妹。

ラインアーサに淡い想いを抱いている。

ユージーン

酒場のマスター。

ライオネル

シュサイラスア大国の国王。

ラインアーサの父。

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