第5話 ✿ 肉を食うに限る

文字数 946文字

を見ていた。


修道女であった時の自分を。


あの日、「あの子の涙」を見てしまったことを。

……
涙を無理矢理ぬぐい、あの子は赤い顔で恥ずかしそうに、メアリーを見ていた。
(神様の御前で泣く人を、はじめて見たわ)
泣いていると知っていたら、空気を読んで、この聖堂には入らなかった。

(私たちが何度祈りを捧げても、神様はだんまりよ。


 だんまりで見下ろす神の前で、あなたはどうして泣くの?)

人でないから、いいのだろうか。


答えがないからこそ、怒りや哀しみをぶつけられるのだろうか。

(神様が、与えてくださるものと言ったら…)

ふと、神様がパンを与える話を思い出した。


パンよりも甘くて香ばしく、人を幸せにするものが、ポケットにあった。

あなたも、お1つどう? しょっぱい涙のあとは、甘いものが一番よ
台所から、盗んだばかりの出来たてクッキーだった。
ありがとう…。いただくわ

(本当は、クッキーよりも食べたかったのは、お肉だけど。


 悲しいことがあったら、をたらふく食うに限ると思うのよね)

そう思うと、本当にどこからともなく、お肉の焼ける良い匂いが漂ってきた。


夢の中なので、願ったことがすぐに叶うのだろうか。

ん? これはお肉の焼ける匂い

メアリーが目を開けると、狭い部屋の台所で、男女が調理をしている。


お肉の焼ける香ばしい香りに、メアリーは垂涎だ。

お。目が覚めたのか、嬢ちゃん
やっと目を覚ましたのね
あなたたちは、私をさらった……うっ、動けない!!
メアリーはイスに縛り付けられていた。

喫茶店のお手洗いで、突然私を縛り付けたわね! ここはどこ? 目的はなに!?

決まっているじゃない。あなたを人質にして、たんまりと金をせしめるわ

お金目的ね。


で? 身代金はいくらくらい欲しいの?

あら、案外肝が据わったお嬢ちゃんじゃない。


そうねぇ…。ざっとこのくらいかしら?

女がメモに書くと、メアリーは口をあんぐりさせた。
こ…こんなお金…
出せないって? んなわけないでしょ。伯爵のご子息の、婚約者さん?
あなたたち、私のことを知っているのね
そうさ。すべて知った上でさらったんだよ。メアリー・デイヴィス。

さて、身代金を用意してくださるのは、伯爵様かしら、あなたの実家かしら?


このくらい、はした金でしょ

こんなはした金欲しさに私はさらわれたの? 安すぎるわ
は?
い?
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登場人物紹介

シスター・ガブリエラ


本名:メアリー・デイヴィス

ルーク・リンフォード


伯爵卿の息子。

シスター・テレサ


修道女。負傷兵アルバートの手当てをした。

アルバート


 元軍人。顔が怖い。

 戦後、警察官になる。

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