第16話 リコリスの戸惑い~ジンギスカン・パーティ~

文字数 1,604文字

ここに到着して今日で1週間。私達の歓迎会としてみんながジンギスカン・パーティを催してくれた。


賢いクローブさんと優しいゴマさんが、お肉の準備をしてくれた。マトンとラムというお肉を、私もビオラちゃんも初めて食べた。


芯の通った優しさを持つナツメグさんと、包容力のある大人のセイロンさんが持ってきた、採れたて野菜もとても美味しい。


明るいお花のようなシナモンさんのことを、コウジさんはさり気なくフォローしている。お互い何度も目配せしているみたい。あの2人は相思相愛なのね。


リーダーのカルダモンさんとサンショウさん、テンポのよいキャッチボールのような会話をしていて楽しい。


アールグレイさんとミリンさんは、とてもお似合いのカップル。


もちろんサフランお姉ちゃんとグリズリー君も。


バジルさん、チャイさん、ナンテン教授、ヒノキさん、村長さん、みんなマイペースで自由で見ていて驚いてしまう。



そして初めて会ったビオラちゃん。

私達2人は理屈抜きですぐに打ち解け合った。

今晩は満月がきれいなので、川沿いにある温泉にみんなで入る。

夜9時までは女子、それ以降は男子が入るルールになっていた。


今は10時半を回ったところ、温泉上がりの男子たちが賑やかに帰って行く声が聞こえる。

リコリスさん、男の人たちみんなお風呂上がったみたいですよ。
じゃあ私達も入りましょうか。
はい。今までお風呂は一番最後だったから、みんなより先に入るのは落ち着かなくて。
私もよ。みんなから誘われたけど。
満月と満天の星の下、温泉につかる2人。
気持ちいい……

住んでいた場所が最北端でほぼ雪に囲まれていたから、ここが楽園みたいです。


こんな贅沢な毎日でいいのかな、って不安になっちゃう。

その気持ち、すごくよくわかる。


ここに来て驚いたことが、みんな対等だったことなの。

サンショウさんが命令口調で何か言うと、女子達が笑うのよね。

びっくりした。ケンカになるんじゃないかってずっとヒヤヒヤしていた。

私もです。みんな言いたいこと言い合って、いつか誰かが怒鳴り出すんじゃないかってドキドキしていたら、みんなで笑い出して……
ね、信じられない。

2人でクスクス笑い合っているとき、突然岩陰から声。


サンショウがまだ1人温泉につかっていたのだ。

ちょっと君たち、9時過ぎは男子が入る時間なんだけど。

時間過ぎているから出ていってくれない?

あ、ごめんなさい!
すみません、すぐ出ます。
サンショウの目の前で、裸のまま慌てて温泉から上がる2人。


ワンテンポ遅れて目をそらすサンショウ。

わっバカ! 冗談に決まっているだろ!! 真に受けるなよ。


俺が出るからおまえら温泉に入ってろ。絶対こっち見るなよ。

温泉から上がり、焦りながらバスタオルを巻くサンショウ。

立ち去ろうとする間際、背中を向けたまま、

ここで会ったことはみんなには絶対内緒だぞ。

あいつらになに言われるかわかったもんじゃないからな!

サンショウは立ち去る間際にチラッと振り返ると、温泉の中でリコリスとビオラは手を取り合ってうなだれていた。


リコリスの白い鎖骨が見え、また慌てて目をそらす。

はい、わかりました。絶対に言いません。

サンショウさん、くつろいでいるところを邪魔してごめんなさい。

はい、言われた通りにします。
くそ、調子狂うな。

おまえらなんでも真に受けすぎ。冗談もわからないのかよ。まったく。

サンショウはびっしょりな体で歩きながら、リコリスの白い肌を思い返していた。
(ヤバい、リコリスの裸が頭から離れない。


……コウジの『履歴検索アプリ(ポートフォリオ君)』で調べたら、あいつ、被差別地域で上級州国民の愛人だった女なんだよな。その囲っていた宮地ヒイラギって男、今でも必死に探し回っているんだぜ。

リコリスの耳たぶに入れられていたチップを取り出して、あらゆる電波を攪乱させているけど、気が抜けない状況だってアールグレイが言っていた。

リコリスは厄介だ。そんな女とは関わるな)

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色