第3話 「iPad執筆奥義、色反転の術!」
文字数 3,503文字
ヨシ!
足の具合もだいぶ良くなってきたゼ!
なんとか走れそうだ
お〜メデトウっす♪セーンんぱい!
パチパチパチパチ〜(iPadで潰した足、まだ引きずってたあぁあアッ!?)
いよいよだな…
あと30時間もすれば新型iPadがやってくる!
それまでに、執筆環境の点検すっゾッ
おー!
なにかこだわりの設定とかあるんすか?
(クッソどうでもいい)
気になるようだな小林!
人によってそれぞれとは思うが
俺が先ず最初にすることは
“色の反転”だ
あ“〜
やっぱうまくいかねぇ〜
文字色まで反転されちまってる
でもそうしねえと”吹き出し色“に白字が溶けちまうし…
(
うあ”、待ってるスタンバってるッ!わかったよ聞いてヤルって、口を裂かして餌待つヒナ鳥
グワァ!!
クソカワ♪)
せんぱあい、どうやったんすか?さっきの
聞いてくれる
過ッ小林!Siriタン使えるなら「色を反転」と話しかければやってくれっぞ
ちなみに俺の尻は「ハンテン」だけで色カワだぜ♪
もちろん、手動設定もあるぞ⬇︎
設定アプリ ➡︎ 一般 ➡︎ アクセシビティ ➡︎ ディスプレイ調整
“色を反転”あったっす!
そこで“スマート”を選ぶと
写真とか、アイコンとか、
色が反転するとこの世のもので亡くなってしまう現象を抑えることができる!
キャッ、まるで別人!
(さすがの先輩も反転.Verは萎えるワァ〜)
…んな、なんだコリャン!
センパイセンパイ!
スマート反転してるのにスーパーのチラシがキモいっす
精肉類とかピッ殺すぎて食欲失せるDeath!…お、
この特売チョイスなら小林カジキ鍋かな…
(あれ?ありゃ?気づいてねえ?)
ああ〜、それな
対応してないアプリだとそうなる
Safari(iOS標準ブラウザ)でも…
窓切り替えて戻ったりすると
なんか、バグる
(動作環境 iPad pro iOS12.1 11/5で最新)
せんぱい…
言っちゃなんすケドぉ…
“Smart”とかプッシュしてる感あるっすけど…
まぁ言いたい事はわかるぜ小林
だが、まぁ、多少熟してた方が味わい深いってもんだろ?
サポセンにもエラー報告したし?
まぁその内修正されるさ
Appleだしな!
うん。そうだね…。
(まぁが3回…自己肯定レベルIIIだこれ!慎重に言葉を選ばないと宗教戦争になる!)
まぁようは、それまでユーザー側で順応すりゃいんだよ
窓戻りのバグも、
非対応アプリの誤反転も
色反転解除すりゃまぁ済む話しじゃねえか!
うん…。
(嗚呼…そうか
センパイ。
気づいてないんだ
もう、痛くないんだ
何も感じられないんだ…
そう、だからーー
もちのロン!手段はある! そう、iOSなら。
色反転をショートカットに登録すると、グッと使いやすくなんだ!
それ、どうやるんすか?
(ーーだから。
バッテリミッター仕掛けられても
平気でいられたんだ…)
ホームボタンが空いてるなら
トリプルクリックに色反転を割り当てるのがお勧めだぜッ!
さっきの色反転を切り替えた方法と大体同じ場所で設定できる
設定アイコンをタップしたら…
一般 ➡︎ アクセシビティ ➡︎ ショートカット(一番下にある)
色を反転(スマート)に触れるだけだ
後はーー
そして雲が太陽を跨ぐより早く
自ら光輝き反射光を薙ぎ払うだろう!
ーー大きな手が
小林の手ごとスマフォを取り上げ
画面を確認した
えー、あー、これわぁ。
そのお…
なんでこのランキングに
Apple狂信者が入ってないのかなぁ…なんて?
分かり切ってる事じゃねえか!
そん中に“既婚者が入ってねえ”のと同じ理由さ!
(なんだコイツなんだかコイツ何がなんなんだよ、なだなだなだコイツはよぉ!もうなんでこん兄眩しいんだよッ!)
(
何イイかも?とかコビャヤシチャッカリ思っちゃってるのさ!
チョピリ濡れてんじゃねえか!?
ランキング1位〜12位が束になってきても“イケそう”とかもうヤバイYO小林ダイジョブか!?人生棒に振ってバントに賭けるほど追い詰められてねえだろうがよおおお!!)
俺が知るかよ!
知らねえから分かんなくて聞いてんだっつの
まったく変なやつだな小林ッ♪
ヨシッ、忘れ物なし…
行ってくるぜ小林!
先輩が乱暴に扱うせいかな…
ドアの閉まりが日増しにゆっくりだ
玄関に差し込む黄昏は
徐々に細り
最後は張り詰めた光の糸
閉錠の鳴りに合わせるよう
途切れる
うー、サブ。外の風つめてぇ〜
ホッカイロ先輩が急にいなく無っ身体ッ
そだーー
こんな日こそ
お鍋、おナベ♪チラシな食材メモメモと…
よっしゃ
もうすぐポイント溜まんけん♪
めげない小林あきらめない!
小早く汁って加熱だ保熱ッ
そうと決まれば買い出し買い出し
食うぞ〜喰うぞ〜ッ
メカジキ掻っ込むぞ
今夜は鍋だろうが余さず平らげてやらあ!
小林は
壁に刺さった時計をみる
時針フンシン真っ黒だ
白な壁地に墜とした影はネズミ色
シンプルさなら
この世に指折り入る刻計り
日時計の次くらいだから棒も二本
秒は映すに値しない
彼が見やすいという理由で持たせた針だから
剥き出しのモーター音は耳障りなれど
顔を向けられないことはない
十二進法が邪魔になるだろうと
付属の時盤は外してあるが
時刻を読み取れないこともない
えっと、んっと、
鮮魚のタイムセールは……
ちょっと走れば間に合うな
小林は
未熟なお掃除ロボットが役目を果たせるよう
障がい物を取り除く
互いに綺麗好きではないし
嫌いなものも違うけど
苦手なものは
どうしようもなく苦手であるという事だけは
解り合えていると感じていた
だから小林は
小まめな掃除を欠かさない
彼の視覚を煩わさないようにするには
これがいちばん楽なのだ
残りの環境整備を機械に託し
いざ戦場へ赴かん
ランニングシューズを履こうとしたその時
ドアの向こうから雨音が響いてきた
黒傘を見下ろすと
内側に畳まれた白い雲と青い空の生地が覗く
ピンと広げれば
雨粒弾いて頭上に晴天模様を飾るデザインだ
空は開けた方が良いからと
嘯いて選んだ傘は
どう見ても身の丈に不釣り合いだ
小林は考える
己は何を二人に届けようとしているのか
小林は反転する
いともカンタンに
心の色を
ひっくり返す
一呼吸で傘の柄を掴み
駆け出した
走る、走る、小林走る
その軽快な後ろ姿は
雨に尻を叩かれたように自転車立ち漕ぐ男子高生もあんぐりだ
__あの男が
中降りで買い寄ることはないだろうと
中に目をやるのも惜しんで先へ行く
雨が降っても濡れるだけ
傘をさしても傘が濡れるだけと
乾らりと言って退けそうで
小林には我慢ならない
ならば濡れるべきは傘であろう
少しでも多く身代われと
そいつを逆手に持ったまま
雨を横に倒して突っ走る
通気性抜群のランニングシューズはあっという間にグッショリだ
燃ゆる夕映えどこへやら
雨と雲で世界はすっかり灰色だ
それでも小林は反転する
色がどう変わったか見分けがつかなくても
ずっとずっと
昔からやってきたことだ
だから、
だから、
なのだから___
__この回路はトリプルクリックにだって負けちゃいない
何かが変わるかもしれないと
右へ左へ駆け抜ける
そうしていれば前へ進めると
小林は
それ以外の歩みを
まだ知らない。
一瞬で止まる
荒れた息
遠目には
増え始めた通行人の傘波に浮き沈みするツンツン髪
逸る気持ちを抑え
小走りながら
乱れた髪と呼吸を整える
雨のせいか
寒さのせいか
男の長身を支える左足は
どこか歩みにぎこちない
いたたまれずに背伸びして
傘を掲げた
頭上に広がる裏地は仮初めの晴天
されども
小林が見上げた先だけは
紛れもない晴れ男だった
漸くにして気付く
同じ傘の下に
居る事を
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