マキセ①

文字数 833文字

キノシタ サホのことは1年のときからずっと好きだった。

キノシタを一言で言えば、ボーイッシュ。

男女問わずすぐに仲良くなれる。

キノシタのことは、女と思っていない奴の方が多い。

オレもそうだった。

1年の頃、席替えで隣の席になり、それからよくしゃべるようになった。

正直、男友達と変わらなかった。

それが、ちょうど1年前の学祭の準備中、ジャンケンで負けて二人でジュースの買い出しに行った日からガラッと変わってしまった。



コンビニに人数分のジュースを買いに行き、会計を終えると、キノシタはアイスを選んでいた。

「何、アイス食うの?」

「うん、ちょっと待ってて!」

会計を終え、外に出た。


「お前、あちーよ、早く食えよな。」

「いーじゃん!こんな暑い中来てるんだからちょっとくらいおいしー思いしたってー!こ、れ、で、チャラ。負けも負けじゃないって思えるし。」

「なんだそれ。なんでもいーけど、早く食えよ。」

オレはキノシタに背を向けてゆっくり歩きだした。


「マキセ!」


呼ばれて振り返った口の中に、濃厚なグレープの香りが広がった。

グレープのシャーベット状のアイスを思わず、一口かじる。

「どう?ウマい?」

「…ん。」

口の中をシャリシャリさせながら答える。


そのアイスを、

キノシタも、

かじった。


「つめたーーーい!ウマーーーい!
みんなが暑い思いしてるときに食べるアイス!サイコー!!幸せー!
あ、マキセ、食べる?」


「…いや、いい。」


なんだ、こいつ。
なんなんだ?

キノシタはうまそうにアイスを食べ続ける。

なんだ、こいつ。

なんだ、オレ。

どうした?


あり得ない。

なんで。


その日から、キノシタが来るとグレープの香りを感じた。

隣の席にいるだけで、片側の体温が上がる。
耳のあたりが、どんどん熱くなる。

それからは、みんなで話していても、同じ空間にキノシタがいれば、いつもオレの言葉はキノシタに向けられていた。
なのにキノシタと話すときは、うまく話せてるのか自分でもわからない。

オレのアンテナはキノシタのいる方向を常にキャッチしていた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み