件名:兄さんへ

文字数 818文字

『件名』
 兄さんへ。

『本文』
 ごきげんよう兄さん。元気かしら? 残念ながら、私こと神沢花火は元気ではないわ。
 兄さんがこのメールを読む頃には、私は既に死んでいるか、あるいは死にかけていると思うの。何故ならこのメールは、私に万が一の事があった場合に兄さんへ送ってくれと、友人に頼んでおいたものだから。まぁ要するに遺書って訳ね。
 え、どうしてこんなメールを遺したのかって? もちろん意図があるわ。
 人間が造るもの。遺すものには、絶対に何かしらの想いがある。例外はないわ。まぁ中にはそれが悪意だったりするけど。
 私はどう死んだのかな? 私はどう死にかけているのかな? 自分の死因って、凄く興味が湧くわよね? そう思わない?
 お陰様で私には病気もないし、精神も健全だわ。だから可能性が高いのは事故死かしらね?
 例えば、私が事故にあって死にかけていたとする。そこにブラックジャックみたいな医師が現れ、四億円で助けてやる、みたいに兄さんが言われているとするわ。
 四億円なんてお金、普通の人間じゃ到底用意できないわ。例え犯罪に手を染めたとしても、難しいと思うの。でも生憎、兄さんは銀行員。銀行員であれば割と可能だと思うの。
 例えば。これは例えばの話よ?
 兄さんは毎月業務で、多額の融資を実行しているわ。それこそ工場建設などの設備資金を考えると、一億円、二億円という金額を平然と動かしている。それら融資の入金口座を、悪意を以て変えてやるだけで、銀行員は簡単に何億円という金を横領できてしまう。
 当然、これは極端な話よ。実際には、内部の精査があるでしょうから、そう簡単にはできないでしょうけど。法律と良心と、そして人間を捨てれば、銀行員ほど酷い犯罪のできる仕事って、中々ないと思うのよ。
 例え私を救うためだとしても、絶対に犯罪に手を染めないでね。
 私が死んだら、兄さんが壊れてしまいそうで。 

 私は兄さんが心配です。
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