大切なことは瓔珞から教わったーー瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~
文字数 1,476文字
わたしは今驚愕している。先生が変わってしまったからだ。
コロナウィルスの予防接種で家から一番近い泌尿器科に来ていた。わたしのような無職は機動性が高いため、いつでも参られるのだ。
昔から見てもらっていたその先生は、男性でピンク色の白衣を着ていた。レントゲンを撮るときには小走りでレントゲン室に行っていたが、廊下の中待合の椅子の足に足の指をぶつけたりしていた。
またその泌尿器科でわたしは大学生の頃ピアスを開けた。先生と何度も位置を確認してできた、こだわりのピアスホールだ。ただ耳たぶの真ん中のだっさい位置だったが。わたしの知る先生は少し鈍臭かったけど、患者の話をよく聞く、可愛らしさのある先生だった。
「お願いします」
診察室に入ると、いつもと先生の様子が違う。まずこちらを見ない。前はまず目を見ながら明るく挨拶をしていた。カルテだけを見ながら、薬を飲んでいないかなどを聞いていく。何が、というわけではないが、先生とわたしの10年ぐらいの関係の中ではじめて見る先生だった。
どことなく、横柄な印象だった。
「あーやっぱり?」
母親が草加せんべいぼりぼり食べながら、今日の話を聞く。実は母も「先生が良くなくなった」とは前に聞いていたが、きっとたまたま先生の虫の居所が悪かったんだろうと思っていた。だが今日会って疑惑は確信に変わった。
先生は変わったのではない。
元からそういう性格
だったのだ。よく知る人物が途中で性格が変わるのはとても驚くことだ。そして大多数の人「その人に何かあって変わったんだ」と思う。わたしもそう思っていた。けれど、今回の話の主人公、瓔珞は違う。
「こんな短期間に人の性格が変わるわけない。本当の性格が出てきただけよ」
舞台は中国・清の乾隆帝の時代。繍坊の女官として後宮に入った
なんといってもこの瓔珞がすごい。基本自分から意地悪しないが、あっちが仕掛けてきたら、倍返しだ。コップ一杯の水を浴びせられたら、バケツにたぷたぷの水を入れ、相手にぶっかける。
「わたしは自分から仕掛けないが、やられたらやり返すわよ」
と言いながら。
姉の死を探るため、夜な夜な調査をしていたら、密会しているというあらぬ噂を立てられれば、わざと石灰を食べ、お腹を大きくする。そして噂を立てる者にわざと妊娠しているとみんなの前で訴えさせ、瓔珞は逆に「はめるために貶めるような事をでっち上げられた」として犯人を故宮から追放した。騒ぎは大きくして無視できないようにするーーそれが瓔珞のやり方だ。
中国版半沢直樹と呼ばれるほど痛快なお話で、何度も窮地に陥っても持ち前の機転で鮮やかに解決していく。
時々、瓔珞のシーンを今日のように思い出すことがある。そのぐらい瓔珞から学ぶことは多かった。
今いじめ問題などは「未然に防ぐこと」で、やられた時にどう対処するかというのは語られない部分だ。だって起きないことが前提だから。でも実際はやられた時にいかに対処するかというのは現実的にとても大切なことだと思う。奴婢の瓔珞はいじめられている妃に対し、ハサミを手元に投げつけ、こう告げる。
「いつまでもいじめられたままでいいの? 立ち上がるのよ」
個人的には義務教育として見せたいくらい、大事なことは瓔珞から教わった。
今回のお話:瓔珞(エイラク)~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~
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