八月二日 東京 「響」
文字数 233文字
東京の夏の、じめじめとした重い空気を纏った葉桜が見下ろす路地で、ゆっくりと、身体は倒れていった。荒い呼吸音だけが、静かに響き、刃物をもつ手は、震えていた。
「う……なぜ……きみは…………だれだ……?」
途切れ途切れの声に、刃物の持ち主は、怒りよりも、悲しみを滲ませた声で応えた。
「お前の……せいだ」
東京都立翡翠中学校で三年の担任をしている神田龍弥が殺害されたのは、八月二日の夜九時。現場は、東京都目黒区の、田舎といえる路地裏。包丁で心臓を一箇所、刺殺だった。
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