プロローグ・パートⅤ 『お姫様』との『お茶の時間』

エピソード文字数 1,499文字

 暎蓮は、廊下を歩きながら、彼女の後ろにいた彪の手を、楽しげにとり(ここでまた、彪はつい、顔を赤らめるのだった)、軽く引っ張って歩いた。そして、毎回彪を迎えている部屋である、『雲天宮』の、『応接の間』に彼を(いざな)った。……この『応接の間』は、彪以外には、たとえば、彼女の家族などがこの宮殿を訪れた時にも使う、『正客』のための、特別に豪華な部屋だ。彪は、この華麗な部屋に、初めて誘われた時は、緊張して言葉が出なかったものだった。庶民の出である自分を、ここまで厚遇してくれていいのだろうか、とも思っていたが、暎蓮は、そんなことは気にもせず、毎回、彼を大事な『正客』扱いで、この部屋に誘うのだった。

 『応接の間』には、もう座がしつらえられてあったが、暎蓮は気を遣って、上座下座を作らないようにしてくれてあった。……本来ならば、この国の『正妃』である彼女が上座に決まっているのだが。
「どうぞ、お好きな側へ、彪様」
 先に部屋に入った暎蓮が振り返り、彪を招じ入れ、座を手で示した。
「ありがとうございます」
 彪は、一礼して、片方の座に正座した。
 暎蓮も、卓をはさんだ彼の正面に座り、二人の座の横に置いてあった横長の棚を開け、そこから茶道具を取り出すと、彪のために、いい香りの茶を淹れてくれた。
 茶卓に茶器を置き、優雅な手つきで、それを彼に差し出しつつ、彼女は言う。
「今日は、この間、王音様に教わったお菓子を、作ってみたのです。彪様のお口にも、合うとよいのですが……」
「いや、そんな。もったいないことで……」
 彪は口ごもった。暎蓮に気を遣ってもらうなど、申し訳ない。
「まず、お茶を一服、どうぞ」
 彼女の勧めに、
「ありがとうございます。……いただきます」
 彪が一礼して、茶を一口飲んだ。
 ……宮廷に入る前は、こんな高級な茶は飲んだことがなかったが、それでも、暎蓮が淹れてくれたと思うだけで、どんな茶であろうとも、彼にとっては、『甘露』同然だ。
 その『甘露』の茶を、口に含み、しみじみと味わい、ゆっくりと飲み込む間に、暎蓮が、今度は、宝物を見せるかのように、自分の後ろから、埃よけの布をかぶせた菓子盆を取り出した。盆から布を取り去り、言う。
「……その、王音様から教わったお菓子というのが、これなのですが」
 中身がよく見えるよう、彼の側に傾けられたその盆を覗き込んだ彪が、感嘆の声を上げる。
 庶民の出の彪が、見たことのないような、かわいらしい菓子が、盆の中にきれいに並んで入っているのだ。
 彪は、暎蓮がこんなに上手に菓子を作れるということに、感心した。
「きれいだね」
 本心から、彼は褒めた。しかし、それに対する彼女の返答は、
「これ、王音様のお子様が、一番お好きなお菓子なんですって。どんなものか作り方をおうかがいしたら、とてもおいしそうだったので、ぜひ彪様にも召し上がっていただきたくて」
 ……であった。それを聞いて、彪は、ひっくり返りそうになった。
 王音の子といえば、まだ赤子で、味の好みもわかるかわからないかの境目ではないか。
 それと、もう十三にもなる自分とを、同一視して、この菓子を作ったのかと思うと、彪は思わず、苦笑せずにはいられなかった。
(お姫様は、俺よりも子供みたいだな)
 ちなみに、暎蓮の年齢は、彪とは十一違いの二十四歳。夫の扇賢はまだ十七歳で、彼よりも上の歳なのだが。世間から隔絶された生活を送っているせいか、純真だ。ついでに言うなら、『斎姫』というのは不老の力があるため、彼女の外見もまた若く、どう見ても、十四、五にしか見えないのだった。
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登場人物紹介

白点 彪(はくてん ひゅう)

十三歳。『玉雲国』の『宮廷巫覡』で、強力な『術』を使える『術者』でもある。

この国の『斎姫』で初恋の相手、十一も年の違う憧れの『お姫様』である暎蓮を護るのに必死。

温和な性格。

甦 暎蓮(そ えいれん)

二十四歳。しかし、『斎姫』としての不老の力で、まだ少女にしか見えない。『玉雲国』の王である扇賢の妃。『傾国の斎姫』と言われるほどの美女。世間知らず。

彪が大のお気に入りで、いつも一緒にいたがる。しかし、夫の扇賢に一途な愛を注いでいる。

使う武器は、『破邪の懐剣』と『破邪の弩』。

桐 扇賢(とう せんけん)

十七歳。暎蓮の夫にして、『玉雲国』の王。『天帝の御使い』、『五彩の虎』の性を持つ。単純な性格ではあるが、武術や芸術を愛する繊細な面も。

生涯の女性は暎蓮一人と決めている。

彪とはいい兄弟づきあいをしている。愛刀は、『丹水(たんすい)』。

関 王音(せき おういん)

二十代後半。扇賢のもと・武術の師で、宮廷武術指南役。美しく、扇情的だが、『天地界』中にその名と顔が知れ渡っているほどの腕の『武術家』。

暎蓮にとっては、優しい姉のような存在。彪や扇賢にとっては、やや恐れられている?

愛刀は『散華(さんげ)』。

ウルブズ・トリッシュ・ナイト

二十代後半(王音より少し年下?)。扇賢のしもべで、『玉雲国』ただ一人の『騎士』を自称する、人間界の西方が出自の金髪美男。暎蓮に懸想しており、彪や扇賢とは好敵手関係?戦うときは銀の甲冑と大剣を持つ。マイペースな性格。

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