十九 次期主幹

文字数 1,049文字

 夕刻。
 後藤総理急死で職員が右往左往する内閣府庁舎六階で、与田は先を越されたと思った。内調の裏の仕事を知っている者を始末する手筈が整っていたから、後藤総理急死のどさくさに紛れて主幹と内閣情報官と関係者を始末して、今回の記録を全て消した。一歩まちがえば、俺が全ての始末を実行した犯人に仕立てられたはずだ・・・。
 あの二人はどこから後藤総理を狙撃したのか?射程距離は三〇メートルだ。その範囲に身を隠す所はトイレだけだ。トイレを調べるべきだったか?そんな必要ない。俺と同業の彼らは俺の事を口外しない。俺も彼らの事を口外しない。俺は彼らを始末する気は無い。
 成田主幹と上司の内閣情報官と部下は交通事故で他界した。これまで下請けを使って標的を始末してきた記録は、標的が始末されるたびに、成田主幹が全て処分していた。その事は俺が確認している。今、標的始末の事実を知るのは俺とあの佐枝たち二人だけだ。
 ところで新たな主幹は誰だろう?また記憶力と野心が達者なだけで実行動もできない東大出の頭でっかちが主幹になるのか?せいぜい心不全で事故らないようにしろよ・・・。

 内閣府を出た与田は職員専用駐車場へ行った。そこには仕事を終えた時期主幹候補者たちがいた。与田はそれらの顔ぶれを確認し、タバコを咥えてライターを点火させたが火は点かない。与田は身体の向きを変えて、なんどか点火を試みるが着火はしなかった。
 与田は自分の車に乗った。車のシガーライターでタバコに火を点けて、スマホのディスプレイを開き、転送された画像を確認した。隠し撮りした時期主幹候補者三名の画像がそこにあった。ライターは高感度の特殊な望遠カメラだった。こいつらの一人が俺の上司になる。そして、その上の内閣情報官は内閣官房の他部署からの横滑りだろう。
 俺の調べでは、内調の裏の仕事を知る者は政府内にいない。新たな上司は裏の仕事をさせないだろう。もし新たな上司が裏の仕事を指示した場合、内調外に、内調の裏の仕事を知る者が居ることになる。裏の仕事を知っているのは歴代の元総理や元副総理や元内閣官房長官だ。彼らの記憶をどうやって調べればいいか?裏の仕事を知る者を見つけて始末するのは時間がかかる。それとも、内調の裏の仕事を公にするか?元総理や元副総理や元内閣官房長官は狡猾だ。内調に裏の仕事をさせていた事実を決して公にしない・・・。
 新主幹就任後、それとなく状況を観察するしかない。新たな上司が裏の仕事を指示した場合、あの二人に何らかの影響があるはずだ・・・。
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