相棒と友人たち-1-
文字数 4,286文字
「あのさー、高校生がこんなとこで独り暮らししてるってさー。あり?」
「マジありえねぇよなー」
「ったく、気後れしちゃうわよねぇ」
「え、おまえでもそんな感じ?」
「だって、オレここに来ていいって言われんの、まだ三回目だもん」
「へー。オレより少ねぇじゃん。オレ五回目」
「かぁ~」
「オレにはシュナウザーっていう、最強アイテムがねぇからなぁ」
「バロンはアイテムじゃねぇ」
肩に思い切り体重をかけてくる
「
「らしいのよねぇ」
長く形の良い指が、
「だからぁ、
「え、“謝罪と友情の
「
「え」
「ウソウソ!」
硬直した
「オマエのことはみんな信用してるよ。そのシャツだって、今オレがハマってるブランドの新作だぜ?海外の一点もの」
「あー。カッコイイよなぁ、これ」
「だろ?オマエとは趣味が合って嬉しいよ。
「カラーはビビッドなほうがいいじゃんなあ?」
「なあ?」
極彩色のTシャツを着る
◇
獣医にバロンを預け、人医から
「
銀縁メガネの奥で、男性の切れ長の瞳がきらりと光った。
「はいっ」
「大体のお話は、
「はいっ」
「後部座席のおふたりは」
「はいっ。確かに、俺を助けてくれた人たちです」
バックミラー越しに視線を寄越した男性に、
(……無視かよ)
何の感情もうかがわせずに戻された男性の視線に、
「このままお連れして、お待たせしておいてほしいとのご依頼ですが」
車窓を流れる景色を見ているふりをしながら、
取るものも取りあえず、
そのすぐ脇で、直立不動で待機していたのが、今運転をしている男性である。
インテリジェンスな雰囲気を持つ男性は、まだ若そうではあるが、かなりの地位にいるらしい。
何しろ着ているスーツは上等で、車は高級外車。
ちらりと確認すれば、腕時計も一目でハイブランドだとわかるもの。
おそらく、かけている銀縁メガネだって、そんじょそこらのものではないはずだ。
そんな社会人が、高校生である「
「……まあ、私の身辺調査などより、
それはつぶやきと言うにしては、はっきりと聞こえるものだった。
(身辺調査ってか)
窓に身を寄せて、
(交友関係いちいち調べられんのかよ、
――何か不審な点があれば容赦はない――
男性の背中がそう告げているようで。
(立派な大人のくせに、大人気ねぇことすんなぁ。……やっぱ、あの「天下のAIKA」の関係者か)
車は歴史ある建物が並ぶ、異国情緒あふれる街並みに差しかかっていた。
流れ去る洋館をバックに、考え込んでいる
同級生に「
しかし、そもそも社長の「
「AIKA」のHPを見れば、穏やかな笑みを浮かべた、舞台役者のような男前の顔を見ることができる。
だが、それだけだ。
あれだけ手広くやっている組織の代表者なのに、メディアへの露出はゼロ。
出回っている写真はHPの使い回し。
経歴、家族構成すべてが謎。
(あんだけでかい会社で、まったく引っ掛かってこねぇって、逆になんかありそうなんだよなぁ)
バックミラーに目をやれば、再び運転している男性と目が合い、すっとそらされていく。
(いや、なんだよこれ)
にやけそうな口元を片手で隠し、
義務教育である中学を卒業してからの二年間は、目的もなくフラフラと過ごしていた。
気まぐれで高校に入学してみたが、型にはまった日々には興味が持てず。
だが、久しぶりに心が浮き立つような気持ちで、
金髪碧眼、表と裏が激しく異なる
国籍はアメリカだと言うが怪しいもんだ。
名前も出身も。
大阪の老舗和菓子屋の惣領息子でもあるのに、なぜわざわざこっちの高校に、単身出てきたのか。
そして、
病欠期間が長くて一留。
だが、その原因に関しては、星の数ほどあったすべてのウワサがデタラメだった。
多くの時間を費やしても成果はナシ。
さらに予想外の謎は、所属している学校のセキュリティのキツさだ。
大概のプログラムはハッキングできる自信があったのに。
トレースバックされそうになって、突破を諦めたのだ。
そのため、三人の個人情報を学校側から入手するという、効率のよい手段は使えなかった。
逆に自分に関しても、これだけ強固に守られているのだと思えば、心強いといえば心強いのだが。
「
「はえ?」
急にインテリメガネに話しかけられて、妙な返事になってしまった。
「私は
(え、まさか情に訴えてきてる?)
「こちらの面倒ごとが増えますので」
(ああ、だろうな。合理性を重んじるタイプで当たりだ)
「
(身に危険が及ばない程度にね)
「好奇心で殺されないように」
「オレはネコ科は苦手なんで」
「ガチョウは彼らの獲物ですからね」
「!」
「ふふ、さあ到着しましたよ、どうぞ」
インテリメガネの笑顔なんて、怖いものでしかないらしい。
そんな短時間で、調べ尽くしたとでもいうのか。
(いや、まさかな)
「どうしたの?」
反対側のドアから降りた
無邪気そう
に(こいつも、なかなかのタマだよな。どこまでが計算ずくなんだか)
「どうぞ、こちらです」
インテリメガネが洗練された仕草で、丁寧に高校生を案内する。
(うは、これはこれは)
(サイコーじゃん)
ふらふらと毎日遊び歩いている場合ではなくなるかもしれないが、それでこそだ。
高校生には場違いなほどの高級住宅街をぐるりと眺めて。
◇
キッチンでは「タカハシです。ハシはブリッジではなく、建築材の“
その隣では、アシスタントをしている
「そこに座っていてください。手洗い、トイレはこちらになります」
以上、という感じの説明を受けたきり、ふたりはリビングで放置プレイ中である。
「いい匂いだね」
わずかに体を寄せて、
「だな」
「このソファ、イタリー製」
「へえ」
「そこのガラステーブル、ドイツ製」
「ほお」
時折り向けられるメガネの奥の瞳に、無駄口を叩く気も起きない。
「オマエ、そういうの詳しいんだな」
「はい、
「はい。アイカさ、
菜箸を手に、
「ええ、はい。終わりましたよ。重篤な怪我ではありませんでした。……え?」
インテリメガネの眉がぴくりと動いた。
「そう、ですか。……はい、バロンだそうです。……かしこまりました。ではのちほど」
「あんなスタイリッシュにエプロン外すメガネ、見たことねぇよ」
「ね。ただのエプロンなのにカッコいいね。あ、こっち来るよ」
「迎えに行ってまいりますので、少々ここでお待ちください。ところで、
「エヌ?」
「知りたいことはあるでしょうけれど、家主のいない間の詮索は無用に願います。必要ならば、
「あ?」
つい素の反応で、
(オレのミドルネーム、やっぱ知ってんのかよっ。しかも、わかりやすく匂わせやがって)
「取り繕っているよりも、素直であるほうが好ましくてよろしい。では、あまり
姿勢正しく出ていくスーツの背中を、
「オレ、あいつキライ」
「ねえ、エヌって何?」
「うっせ」
「ふふっ」
「笑うな」
小学生が