第十二章 『羅羅』対『合』

エピソード文字数 1,616文字

 『合』は、懐から、柄の部分になにか『符』のようなものが貼ってある短刀を取り出すと、それで素早く、自分を捕えようとする、羅羅の、網のように形を変えた髪を切り裂いた。それを見た羅羅が、歯噛みする。
「羅羅さんの『気』に気付いていた?」
 彪が、『合』の台詞に驚いて、叫んだ。……もう『巫覡』ではない彼が。……それに、あの短刀。なにか、外部から、『力』が与えられている。
「まさか」
 彪が言っている間にも、
「……この、悪鬼め!」
 『合』の顔も、先ほどとは違って、魔に憑かれた顔になる。その背後に、暗い表情の、鬼のような顔をした女が浮かび上がった。
 ……暎蓮は、その彼女を見て、眉根を寄せた。……なにかが、おかしい。
「……やっぱり!……憑りつかれてる!」
 彪が言い、それはその通りなので、暎蓮もそこにはうなずく。
 『合』は、羅羅の『邪霊』から伸びる長い髪の攻撃を、今度は跳躍して、さかさまになり、天井に着地する形で、よけた。そのまままた、飛び降りて、部屋の床に着地する。……確かに、普通の人間にはできない動きだった。
 羅羅が、歯を食いしばり、その口から牙が伸びる。彼女の手の爪も、長く伸び、羅羅はそれで、また『合』を襲った。『合』がそれを片手を出して、自分の持つ『邪気』を、まるで盾のようにし、防御する。その『気』の使い方は、『結界術』にも似ていた。
「……な、なんだ!?あれ……!」
 それらを見た彪が、さすがに声を上げる。……あの『気』の使い方。常の人間にはできないことだ。
「あの盾みたいなの。……『結界術』に近いけど、『邪念』でできている。もと『巫覡』であったとしても、あの『気』の使い方。……普通だったら思いつくはずはない」
「『合』様のあの動きもです。……不自然すぎます。……これはもしかして」
 暎蓮がそう言っている間にも、激しい霊波同士がぶつかり合い、その衝撃で、部屋が派手に揺れた。
 彪があわてて、今度は、『清白宮』自体と、中にいるほかの人たちを護るため、外にいる自分たちと、『合』の部屋だけを囲む形で、『入らずの布陣』を敷きながら、隣に立つ暎蓮に、言う。
「やっぱり、お姫様の読み通りだったね」
「……いえ、そうではないかもしれません」
「え?どういうこと?」
「『合』様には、どこか外から、力が働いています」
 彪が、はっとした。
「あの短刀の、『符』……」
「ええ」
「……『合』さんが、自分で作り上げた『符』?奥さんに憑りつかれている、その『怨念』の『力』かな?」
 暎蓮がそれに答える前に、『合』は、今度は口から羅羅の魂に向かって自分も『邪気』を吐いた。羅羅が、長い髪で、自らの身を包み、繭のような形をとってそれを遮断する。
 ……戦いに、一瞬の間があった。
 その時、二人は、同時に同じことを叫んだ。
「『この三十年、お前のことを忘れたことなどなかったよ!』」
 羅羅が、
『私を裏切っておいて、よくそんなことが言えたものだね。……おとなしく、『滅界』に落ちな!』
「お前こそ、私の妻をよくも殺したな!おかげで私は、三十年前からずっと、妻の亡霊に悩まされつづけて生きてきたんだ。……この女も、お前と同じくらい執念深くて、毎夜毎夜『恨みを晴らせ』と言ってきて、もう、たまらなかったよ。『恨みを晴らさないのなら、お前もとり殺す』とまで言ってきて……。街の『仙士』に頼んで、妻の『念』を少しずつ自分に取り込むことで、なんとかここまで生きながらえてきたがな。お前の『邪霊』を滅せれば、私の中から妻の念も消え、今度こそようやく安楽が来る。さあ、今すぐ、『地獄界』へ行け!」
「お姫様!『仙士』って……。……じゃあ、ここまで『恨み』を隠し通せていたことも、あの短刀の『符』も、そして、羅羅さんの最初の『気』に気付いていたことも」
 彪が、改めて驚いた顔で言う。暎蓮も、やや、顔を厳しくして、うなずいた。
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登場人物紹介

白点 彪(はくてん ひゅう)

十三歳。『玉雲国』の『宮廷巫覡』で、強力な『術』を使える『術者』でもある。

この国の『斎姫』で初恋の相手、十一も年の違う憧れの『お姫様』である暎蓮を護るのに必死。

温和な性格。

甦 暎蓮(そ えいれん)

二十四歳。しかし、『斎姫』としての不老の力で、まだ少女にしか見えない。『玉雲国』の王である扇賢の妃。『傾国の斎姫』と言われるほどの美女。世間知らず。

彪が大のお気に入りで、いつも一緒にいたがる。しかし、夫の扇賢に一途な愛を注いでいる。

使う武器は、『破邪の懐剣』と『破邪の弩』。

桐 扇賢(とう せんけん)

十七歳。暎蓮の夫にして、『玉雲国』の王。『天帝の御使い』、『五彩の虎』の性を持つ。単純な性格ではあるが、武術や芸術を愛する繊細な面も。

生涯の女性は暎蓮一人と決めている。

彪とはいい兄弟づきあいをしている。愛刀は、『丹水(たんすい)』。

関 王音(せき おういん)

二十代後半。扇賢のもと・武術の師で、宮廷武術指南役。美しく、扇情的だが、『天地界』中にその名と顔が知れ渡っているほどの腕の『武術家』。

暎蓮にとっては、優しい姉のような存在。彪や扇賢にとっては、やや恐れられている?

愛刀は『散華(さんげ)』。

ウルブズ・トリッシュ・ナイト

二十代後半(王音より少し年下?)。扇賢のしもべで、『玉雲国』ただ一人の『騎士』を自称する、人間界の西方が出自の金髪美男。暎蓮に懸想しており、彪や扇賢とは好敵手関係?戦うときは銀の甲冑と大剣を持つ。マイペースな性格。

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