第1話

文字数 1,997文字

「じゃあ、またな」
「うん」
『チュッ』
遊びに来ていた彼が帰る時、私達は軽いキスを交わす。
彼がドアを開けて出て行くと、温かかった部屋の空気が一気に淋しく冷たい空気に変わる。
「次はいつ会えることやら…浮気でもしちゃおうかしら~」
彼はとにかくいそがしい。
頭の中だけがいそがしい日もあれば日本列島を東奔西走していそがしい日もある。
明日からは2ヶ月の長期出張だって。
『本当は浮気でもしてたりして…』と、意地悪心が顔を出す。
リビングテーブルのコーヒーカップを片付けようとすると
ソファの彼が座っていた所に飴玉のような物が2個あるのに気がついた。
玉の色はゴールドで透明がかっている。
「何だろう?飴?大切な物かな~?」
触ってみると少し柔らかく弾力があってお菓子のグミみたいな感じだ。
捨てて良いのか確認の電話をする。
「ねえ、小さいグミみたいな丸いものがソファにあるんだけど、これ何?」
「わからないな~。写メして」
「うん」
写メを送る。
「これ僕のじゃないよ」
「私のでもないわ。捨てるよ」
「良いよ」
 私はこの玉を日光にかざして見た。真ん中に何かがあって種の様にも見える。
「捨てるのかわいそう…」
とりあえず捨てずにソファの上に戻す。

寝る直前、彼からメッセージが来た。
『君と学生時代によく行ったカフェに先週行ったんだ。懐かしかったよ』
『わ~懐かしい~今度は一緒にね。おやすみなさい』
『うん。おやすみ』
私と彼は学生時代のカレカノで当時はお互いにひとめ惚れで磁石のようにくっついた。
今、2度目の恋。10年ぶりの再会でカレカノに戻ったけれど、顔はお互いに30代らしくなっている。
 
翌朝、彼からの『おはようメッセージ』で目がさめた。
『おはよう。今日も頑張って。出張先だから無理し過ぎないでね』
返信して起きると私はソファを見た。
ゴールドの玉が楕円形になっている。
「何だろう…やっぱり何かの種みたい」
彼のお土産のプリンを食べて空き容器に水を入れ、ゴールドの玉を浸してみると喜んでいる感じがする。
 
その玉は日に日に形を変えていく。
5日後には芽のようなものが出た。
10日後には芽が5センチ伸びた。
2週間経つと木みたいになってきた。
私はガーデニング屋さんに行って植木鉢と土を買って植えた。
すると元気一杯になって成長を続けた。
1ヶ月経つと木になって新緑をキラキラさせた。
1ヶ月半が過ぎる頃、ゴールドの実をたくさんつけた。ブルーベリーくらいの小さい実。
「君、ゴールドドロップスっていう名前どう?良いんじゃない?実は食べられるの?」
木に話しかけながら半信半疑、食べてみた。
「美味しい!」
凄く甘くて果汁がいっぱい。味はイチゴみたい。
一日ひとつ食べることにした。
彼に話そうか迷ったけれど『変な物食べないの』と、怒られそうなので秘密。
日に日に増えていく実。食べ始めてからとてもパワフル!
彼からメッセージが来た。
『今朝、夢で学生時代の君に会ったよ。可愛くて綺麗だった。懐かしかったな~夢も写メできたら良いのにな』
『それは良かったわね。ごめんね、今はこんなで』と返信する。
「何か嫌な感じ。老けたのは一緒よ~」
スマホの彼の写真に言ってやった。
彼が帰って来るまであと半月。
 
私はゴールドドロップスをどんどん食べる。 
肌がきれいになってきた。 
もっと食べる。 
シワが見当たらなくなってきた。 
もっともっと食べる。 
顔が変わったみたい。 

ようやく明日彼が帰って来る。

翌日のお昼に彼が帰って来た。
「おかえり~」
玄関で迎えると、
「どうしたんだ!何があったんだ!いや、どうでもいい。また会えて嬉しいよ」
彼は私をきつく抱きしめた。
「どうしたの?」
「気がついてない?学生時代の顔に戻ってるよ」
「え、変わって来たとは思ったけれど、昔に戻ったの?若返ったっていうこと?」
彼がスマホで私の学生時代の写真を見せてくれた。
「ほら、同じ顔だろ?」
「イヤ~!ホントだ~」
「う~!綺麗で可愛い。今度こそしっかり愛してやるからな」
「うん、可愛がってね」
「まてよ。何でそうなった?俺だけ老けたままなんて嫌じゃん」
「実はね、ソファにあったあの玉を育てたの。そしたら実がなって~。あ!実物見て!」
リビングの窓辺で日の光を受けてキラキラ光るゴールドドロップス。
「これよ」
「これか~」
「成長の記録も撮ったから見てね」
「ああ。これ食べてそうなったのか?勇気あるな~」
「食べちゃった」
「若返りの実か~僕も食べてみよう」
その日から彼も食べ始めた。
私の若返りは止まったみたい。

半月後…
朝目覚めると隣に学生時代の彼が寝ていた。
「ねえ、起きて!鏡見て!カッコイイよ!」
私は彼を無理矢理起こす。

「おおおおお!」
洗面所から彼のおたけびが聞こえてきた。

私達は昔の顔で3度目の恋をスタートさせた。
「今日もカッコイイ」
「今日も綺麗だ」
と、褒め合う毎日。
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