「何やねんお前」的な何かは日常に潜む

文字数 1,115文字

 看護師に「体内からの毒素排出を促す点滴」をされ、なるべく安静にしておく様に言われた。だが、そもそも安静にする以外の選択肢が無い。普段なら、今頃は何をしているだろうか。勿論、やっているのは仕事ではあるが、午前中は細かいタスクをこなして……あ、駄目だ、眠い。そうだ、元々電車でも眠くて……あれ、点滴中に眠ったら駄目? 終わった時に言わなきゃだから駄目? いや、それだったら意識不明の人に点滴は出来ないか。よし、眠気に逆らわずに寝よう。
 強烈な尿意で目覚めると、嫌な汗をかいていた。そして、点滴は終わりそうだった。なので、ナースコールを押して点滴を外して貰う。それから、漏らさない様に小刻みに足を動かして移動、毒素を流しまくるトイレタイム。ついでに、服に空気を送り込んでかいた汗を軽く乾かしてみる。
 それにしても、鏡に映る顔は不健康そのものだ。血の気がない。ポン署の古津は、こんな状態の相手にネチネチ質問しようとしていたのか。
 点滴前は、今よりももっと体調が悪かった。もとい、治療して体調が悪化したら、医療事故を疑う。
 さて、病室に戻って暫くしたら昼食の時間が来た。
「こんにちは」
 偽看護師が現れた。そして、またベッドを区切るカーテンを閉める。今度は何をしにきたんだ。
「検食しておきますね」
 いや、それは配膳の前にされているだろう。生徒が給食を食べる前に、異物混入や味の異常がないか校長が食べるみたいに。
 ご丁寧にも持参した箸で、一口ずつ食べていく偽看護師。最後に数回頷いて、何故か納得した様な表情になった。そして、何も言わぬまま、偽看護師はカーテンを開けて去る。
 一口ずつ減らされた昼食を見下ろし、溜め息を吐く。幸い、パックされたものだけは手を付けられてはいない。そして、あまり食欲もない。なので、ジュースだけを飲み干し、何となく偽看護師の箸が接した面は避けて昼食を食べた。残すのは勿体ないが、無理して食べて吐く方が、本物の看護師さんの仕事になる。吐いたものの処理は簡単じゃないし、汚染物は全て消毒。そして、主治医への報告。好き嫌いで残すのはとにかく、体調不良で体が拒否している。それもまた病状だろうから、無理する理由もない筈だ。

 偽看護師が上手いことポン署の古津をいなしているのか、ネチネチ質問をされることなく時間が過ぎた。夕食時にも偽看護師が来るかと警戒したがそれはなく、食欲も回復してきたので殆どを食べた。このまま行けば、明日には退院出来る筈だ。むしろ、出来ないと色々と面倒だ。お金も掛かる。
 翌日、移動出来る位には回復したので、薬を処方され予約もしての退院。病院の最寄駅まではバスで向かい、そこからは慣れたルートで帰宅した。
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