(三)‐3

文字数 380文字

 さらに木野は郁雄が駆け出しの画家であることを知ると、「業者に絵を売ってみてはどうでしょう。いい業者を知っていますよ」と誘われた。遺産があればしばらくは生活に困らずに創作活動ができる。ただ、それだと長くはもたないので、なるべく早い段階で絵などを現金化した方がいいのではないか、というのである。
 郁雄は半信半疑であった。確かに絵だけで食べていけるような状態ではなかった。コンクールへ出品しても評価されないことが多かった。だから絵が売れるようになるまでまだまだ時間がかかるだろうとは思っていた。
 そこで木野の勧めに乗ってみることにした。紹介されたのは美術品の運送を専門に行っているファイナートセキュリティという会社であった。運送業が主要事業であったが、目利きもいるとのことで、美術品の売買なども行っていた。それならば、と安心してその業者に任せることにした。

(続く)
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