【昔話】 ✿ 西方ヒストリア10

文字数 1,096文字

自分の本当の名は「新兵衛(しんべえ)」だと、忠平(ただひらは秘密を語った。

新兵衛は死んだと思うております。

私が「忠平」として伝えた忍術。


これはすべて、旅人が伝えた見聞の一つ、もしくは里で自然と芽吹いたものとしていただきたいのです。


後生でございます。私の素性は殿の胸の内におさめていただきたく・・・

あいわかった。

されど…うまく言葉にできぬ。あまりにも無常じゃ。


おぬしはそれでいいのか、忠平? 自分の名も残さぬなど…


偽りでも「忠平」の名は、そなたの身になじんだのではないか?

はい、これが真名ではなかったか、と思うほどです。

されど、「名」を知られぬのが、忍びでございます。


上手も下手も知る人もなく、功者なるが上忍。


音も、臭いも、智名も、勇名もない。これが真の忍びです。

忠平として殿に忠義を尽くし、名もなき人生を全うし、誇りとしたいのです


殿は、それがしに手をさしのべてくださった。


忠平は殿の手足となり、どこへでも東奔西走いたしましょう

(知られずの名忍と、名君。なんという引き合わせか…)
知られずとも、誇りと申したな?
はい。
わしの先祖も、それは名君であった。
殿…

黒木。儂はの、忠平が肥後からここへ行き着いた経緯を聞いた時から、不思議な縁を感じていたのじゃ

忠平。儂の先祖は肥後におったのじゃ

肥後に…

わしの家の本当の名はな、「菊池」と申すのじゃ。


菊の池じゃ、綺麗な名であろう?

まさか、あなた様は…!!  征西府(せいせいふ)の・・・

そう、南朝征西府将軍菊花紋章の尊い御方のおそばに、わしの先祖は仕えていた。


足利義満殿より先に、明皇帝より「日本国王」の冊封を受けたお方である。


その御方の名は「懐良親王(かねながしんのう)

忠平は目を見開き、ただ深く頭を垂れた。

足利義満殿は、はじめの頃、明との貿易がままならなかった


「懐良親王」が日本国王と認められていたためだ。

はい、存じております・・・。


勘合を用いた貿易にこぎつくまで「懐良親王」の名を用いねば明との通商ができなかった…。

明は長らく「足利義満は、懐良親王に刃向かう者」とみておったそうじゃ。


我ら南朝からすると、そのような見解で違いは無いがな

お殿様はそう言うと、じっと忠平を見つめた。

忠平、面を上げよ。


わしは…里人の顔が見えぬ殿様ではありたくないのだ。

忠平は静かに、伏せた顔を上げた。

それにしても…なにやら嬉しい。


そちに語ったからかのう。祖霊が喜んでおるわ。


やはり…名を知られぬのは、辛いのう。

祖霊とは、家族や親族の霊魂のことである。

も、先祖の武勲も、桃源郷に秘したものすべてが宝じゃ。


いつの世か平穏が訪れ、すべてを語れるといいのう。

はい、必ずや訪れます
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色