第63話 総合システム部の発足:2023年6月

文字数 1,280文字

(T商事に総合システム部ができ、鈴木がトップについた)

2023年6月。東京。T商事オフィス。

「新しく総合システム部長を仰せつかった鈴木だ。
これから、総合システム部の当面の方針を説明する。
大きなミッションは次の2つだ。

第1は、国内システムと海外システムを統合したシステムの構築だ。この場合の課題は、皆さんも、よく知っているように、国内のレガシー・システムを、より新しい、海外システムに近い方向に修正して、全体を一体化することだ。

第2は、その総合システムを通じて、現在、わが社の競争相手になっているダマスカスに対抗出来るシステムの構築だ」

「質問があるんですけど」
若手社員が言った。
「なんでも、どうぞ」
鈴木が答えた。
「レガシー・システムの統合って、昔のシステム部が何十年もかかって、できなかったことが、そんなに簡単に出来るんですか」
「いい質問だ。おっしゃる通り、簡単にはできない。しかし、ダマスカスが出てきた以上、これが出来なければ、わが社はつぶれてしまう。背水の陣だ。出来ない困難な課題は、実行可能な小課題に分割して、実行するしか方法がない。直ぐに、問題を解決することはできないが、階段を一段ずつ上ることは出来る」
鈴木は、このように返答したが、実際には、階段を一段上ることすら難しい状況であった。「問題は、コーディングではない。組織の問題だ」鈴木は思った。

国内のレガシー・システムのトラブルが長引いたこと、ダマスカス対策が放置できないということが、広く認識されて、海外システム部と国内のシステム部を統合して、総合システム部を作ることになった。総合システム部の部長は、副社長も兼ねるポストに設定された。とはいえ、組織改革が行われたのは、海外システム部と国内向けのシステム部だけで、他の組織には手がつけられなかった。ダマスカス対策に、一番詳しいということで、部長には、鈴木が昇格した。

他の組織に手を付けずに、システム部門だけをいじって、システム化の改善をすることは容易ではない。過去の実績を見れば、成功例より、失敗例が多い。昔、政府が、IT化を推進すると言って、IT庁を作ったことがあるが、初代のIT庁の長官の心中が浮かんでくるような気持だった。
国内のレガシー・システムを止める訳にはいかない。それは、当面は、そのまま走らせておいて、どこかで、止まらずに、切り替える必要がある。

この手で、よく知られている事例は、自動連結器への切り替えだ。汽車の連結器は、もともと「ねじ式連結器」が主流だった。これは、手間がかかる上に、危険だった。1925年に、連結作業を担当した連結手の総数は1810人であったが、1年間の死傷者数は、537人に達した(朝倉希一著 汽車)というから、自動連結器への切り替えは急務だった。この切り替えは、列車を止めることなく、本州では主に1925年7月17日、九州では7月20日、連結器が一斉に交換された。
今回も、恐らく、同じような方法を使わざるを得ないであろう。ただし、IT化を進めるには、組織に手を入れないと成果が出ない点が連結器とは大きく異なった。
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