第18話 その場のノリで決断はするべからず

文字数 7,773文字

「成程ね…」

「はい…」

 今までの経緯を全て静乃に説明すると、彼女は納得したように深く頷きいつものクールビューティーな様子に戻っていた。

ああ…あんな取り乱した静乃見たのなんて凄く久しぶりだ…。

よっぽど驚いて怒っていたんだな。

「…分ったわ。つまりあんたは巻き込まれたって事ね?このアイドル様のうっかりミスによって…」

「そ、そう!そうなのよ!!元はと言えばこいつが…」

「で、あんたはサインに目がくらんで協力したという訳ね…」

「だって新様のサインだよ!?これはもう貰うしかないじゃない!!」

「…あんたのその趣味には付いていけないわ。確かにあの人昔はかなりのイケメンだったけど…」

腕を組みソファーを陣取り足も組み…その姿はまるで女王様の様だ。足元に正座するあたしと伴が下僕の様に見える…。

そして、ダイニングテーブルの椅子に座るのは紫乃さんと九条さん。さすがの紫乃さんもこの時ばかりは緊張の面持ちであたし達を無言で見守っていた。

ちらりと紫乃さんへと視線を向けて見る(助けを求める為)…

こうなったのは紫乃さんの責任でもあるし。今回は悪気は無かったにしろ…。

黙ってたあたしもあたしだけどさ。色々あったからすっかり話すの忘れてただけなんだけど。

「…まぁ…ほら!蕾ちゃんこの通り色々あったから…許してあげてくれないかな?」

「…仕方ないわね…紫乃さんに免じて今回はそうしてあげる…。あんたの事だからすっかり忘れてたんだろうしね…」

さ、さすが静乃…お見通しですか…。

静乃の説得は紫乃さんに限る。彼女は紫乃さんの言う事にはあまり反論しないし、素直と言うか…。何せ彼は静乃にとっての理想の男性だそうだから。つまり惚れていると言う事だ。

静乃曰く『若くして趣味を仕事にして安定した生活を送っているから凄いのよ。それを鼻に掛けず、手の掛かる妹とその幼馴染達までしっかりと面倒を見てるし…その苦労を微塵も表に出さない所も良いのよ。』なんだそうだ。

まぁ…確かに凄い人なんだけど。紫乃さんの場合全部趣味で心から楽しんでやっている様な気がする…

ちらりと紫乃さんを見ると、ふっと笑い掛けてくれた…。多分『一件落着だね』とでも言っているのだろう。何だかんだでやっぱり紫乃さんは優しい。腹黒いけど。

「で?有沢伴…」

「ば、伴でいいです…。何でしょう女王様…」

こいつはこいつで静乃の迫力にすっかり気圧されて恐縮してるし…。

女王様って…確かにこの状況だとそう見えなくもないけど。

「…伴君、あなたゾノの事どう思ってるの?」

「え!?いきなりそんな事を!?別に俺は何とも…一緒にいて面白いし見てて飽きない奴だとは思うけど…」

「それだけ?良く見なさいよ…この子黙っていれば中々美人よ?胸無いけど足長いし髪綺麗だし…その上家事全般完璧よ?」

「…そ、そりゃ…まぁ…良いお嫁さんになると…。い、いや!こいつすぐ殴るし蹴るしプロレス技掛けるしで滅茶苦茶だぞ!?絶対こいつと結婚する奴生傷絶えねーよ…ああ、怖っ…」

「いいじゃない、ちょっとアグレッシブな女の子ってだけで…。私心配していたのよ…この子いつまで経っても彼氏作らないし、イケメンアイドルお断りって騒いでるし…合コンだって連れて行けやしない…」

「…女王様、お友達想いでいらっしゃるようで…」

「…でもあなたが現れてからゾノは少し変わった気がするのよね…今こうして隣に居ても平気そうだし…だから付き合ってもいいんじゃないかって…どう?」

「はぁ!?ど、どうって…!?」

本当何言い出すのこの子!?

予想外過ぎる展開にあたしは新鮮な空気を求める金魚の様に口をパクパクさせるだけで言葉が出てこなかった。

静乃は真面目だ…こういう冗談を言う様な子ではない。

「ちょっと待った…。黙って聞いていれば勝手な事ばかり言わないでくれないか?」

と、ここでやはり異議を唱えたのは九条さんだ。

眼鏡を押さえ、まるで優等生が意見するかの如く鋭い眼差しを静乃へと向け立ち上がる…

「外野は黙っていなさい…これはゾノと伴君の問題よ。」

「いや、その問題お前が明らかに持ち込んだよな?それに外野ってな…俺は伴の相方だ。AZUREにとって今が一番大事な時期なのを知っているだろ?」

「…煩いわねぇ…時生(ときお)の癖に…。あんたそんな風に頭固いから愛想尽かされるんじゃない。これだから安全大好き優等生は嫌なのよ。」

「ちょ、それは今関係ないだろ!あれはお互いの価値観の違いであってだな…愛想尽かされたわけじゃない。あと本名馬鹿にするな。お前だって自分の名前気にしている癖に…」

「別に気にしてないわ…古風で良い名前だしむしろ気に入ってるわ。」

「俺だって別に気にしている訳じゃ…お前が言うと何かそう聞こえるんだよ。」

「被害妄想も良いところね…昔から変わってないのね。そう言う所…あと理屈っぽくて細かいネチネチしたところとか?」

「お前もその見栄っ張りで高すぎる理想とプライド持って生きるのやめたらどうだ?綺麗に着飾っても中身は…うっ!!」

 その直後…九条さんの喉仏に静乃の手刀が綺麗に入った…。

 おお…久しぶりに見た。静乃の瞬速の右手刀!!相変わらず素早く威力もある…恐ろしい…

「黙りなさい時生…それ以上言ったら殺すわよ…」

「ごほっごほっ…お、お前…それはやめろって言ってるだろ…!喉と顔は…」

「…情けないわね。これだから温室育ちの優等生は…」

 喉を摩りながら咳き込む九条さんは本当にちょっとだけ情けなく見えた。さっきまであんなに冷静で知的なイケメンオーラを醸し出していたのに…

 というか…この二人、なんでこんなに仲が良い(?)のか?さっきまでの会話を聞いているとお互い良く知っている間柄って感じだし。

 う~ん…でも九条さんて静乃のタイプじゃないんだよね。じゃあなんで…??元カレ??

「…時、お前愛想尽かされるってなんだよ?人にはあれほど『彼女作るな、恋愛禁止!!』って言っておきながらお前って奴は…見損なったぞ!!俺、信じてたのに…!!」

 いきなり立ち上がったのは伴だった。九条さんの前まで行くと突然胸倉を掴み上げて…

「え?おい…何勘違いしてるんだ?彼女なんて今までだっていないぞ?」

「そんな言い訳今更聞きたくない!!」

「い、いや…だからな…話をちゃんと最後まで聞けって。あ!先生に泣きつくなよ!?どさくさに紛れて何失礼な事を…」

 本当こいつ何やってんだか…。

 椅子に座る紫乃さんの膝に顔うずめて本当に泣きついてるし。そして紫乃さんも伴の頭を撫でて慰めてあげてるし…。

 そして何なのこの修羅場のカップルみたいな会話…?本当AZUREの二人仲が良いな…。

「…妹よ。この優等生君の。彼女は愚兄と違って凄く素直で可愛い小学生なんだけど…最近喧嘩したらしくてね。その時言われた事がよっぽどショックだったのよ…」

「時、お前妹いたの!?何それ!?お前なんで紹介しなかったんだよ!?信じらんねー!!」

「…だからだよ。話したら絶対会わせろって言うだろ?俺の可愛い妹をお前に紹介出来るか…」

「シスコン…と言うかロリコン?喧嘩の原因だってどうせ『伴に会いたい!!』『絶対ダメだ!!』って言う感じの物でしょう?それで捨て台詞に『お兄ちゃんなんて大嫌い!』って言われて落ち込んでるんでしょう?何が価値観の違いよ…馬鹿じゃないの?」

 し、静乃さん…なんだろう?九条さんに関してはいつも以上に毒舌と言うか…容赦ありませんな…。

 冷たい視線を九条さんへと投げかけため息を吐く姿は、まるで大女優が煙草の煙でも吐く様だ…交渉しに来たマネージャーを馬鹿にするかの如く…

「…何言ってるんだい…静乃ちゃん…。可愛い妹に『お兄ちゃん大嫌い!』なんて言われたら俺でも落ち込むよ…もう一ヶ月くらい部屋に引き籠るね。」

「ですよね!?ほら見ろ!!お前は妹だからそう言えるんだ…お兄さんは大変なんだぞ?」

「そう…お兄ちゃんは大変なんだよ。年頃の妹の考えが理解出来ずに日々苦しんでるんだ…」

「不審者に付いて行かないかとか…」

「変な物に夢中にならないかとか…」

「危険な所へ行かないかとか…」

 紫乃さんの場合はもう手遅れでは??緋乃結構変な趣味してるし…

 まさかここで意気投合するシスコン兄二人…。ああ、何か当初の目的を忘れつつあるような…と言うかあたし、何か重要な事を忘れている気がする…。

 意気投合し、手を握り合う紫乃さんと九条さん…そしてそんな二人を依然として蔑む様な冷たい目で見つめる静乃…

 何なんだ?このドタバタ自由空間は??そして伴、あんたは戦線離脱して何呑気にみかん食べているの?

 困惑し半分何かもう皆好きにすれば良いと投げやりな気持ちで立ち尽くしている時だった。玄関のチャイムが鳴ったのは。

 ピンポーン♪

「伴ちゃん!!来たわよ!!私よ!光代叔母さんよ!!」

 ドンドンドン!!

 それはドア越しからでも分かる強烈な印象を与える大きな声、そして取り立てが来た様子で叩かれるドアの音…続け様に鳴らされまくるチャイム…

 その直後、その場にいた皆が一斉に黙り込み玄関の方へと視線を向けたのだった。一瞬肩を震わせ…。

 ドタバタしてすっかり忘れそうになっていたけど…ついにやって来たんだ。あの人が!!

「じゃあ、俺はこの辺で失礼するよ。部外者だし…」

「紫乃さん?ここまで来て見捨てるんですか?あたしを?」

「い、嫌だなぁ…可愛い蕾ちゃんを見捨てるなんて…でも、俺がここにいたら余計ややこしくなるだろ?時君と静乃ちゃんはともかく…」

 爽やかににこやかに立ち去ろうとした紫乃さんの着物の袖をしっかりと掴むあたしに、彼はもっともな事を笑顔で言った。

 確かに…あの東雲青嵐が有沢伴の家に居るなんて可笑しい。強烈なキャラの光代さんの事だ。きっと一般人の倍は騒ぎまくるだろう。

「…仕方ないわね。紫乃さんが帰るなら私も帰るわ…」

「静乃まで見捨てないで!!ほ、ほら!この状況で九条さんだけいたら何か変だし…!静乃、九条さんの彼女って事でここに残ってさ!!と言うかお願いします…」

「なんで私がこんなシスコン男の彼女に…。でも、そうね…あんた残して帰るのも心配ね…」

「そ、そうでしょ!?」

 静乃の美脚に縋り付きあたしは懇願した。もうプライドも何も知った事ではない。

 だって…あたし一人(いや、正確には伴と二人だけど)じゃ不安だし怖いんだもん!!あの良子叔母さん越えしてそうな人相手にするには…しかも伴の彼女として振る舞うのだから尚更。

「…仕方ないわね。じゃあ紫乃さんの彼女としてなら…」

「ちょっと待って!なんでそこで紫乃さんなの!?」

「伴君…あなたの私服を紫乃さんに貸せば普通のお兄さんに見えるじゃない?今から脱出するなんて不可能よ…その恰好で…」

「まぁ…確かに…紫乃さん目立つし…」

 逃げようとしている紫乃さんの肩をがっしり掴みながら、静乃は淡々と冷静にそう言った。

「…あのね、静乃ちゃんまで…」

「それに紫乃さんも心配なのでは?ゾノと伴君の事…サイン会終わった後呟いてましたよね?大丈夫かな的な事…そんな二人を放っておけると?」

「…わかったよ…確かに心配だし…近所のお兄さんって事で一芝居打とう…。」

「交渉成立ですね…そうと決まれば…」

こうして内輪揉めしている間にもドアの向こうから騒がしい声とチャイムが鳴り響いている…

「そ、それなら紫乃さん…」

「あ、俺ジャージで良いよ?伴君がいつも着ている…近所のお兄さんらしいだろ?」

「なんかそんな紫乃さん見たくない!!」

 ジャージ姿の紫乃さんて…確かに見たくないかも…新鮮だけど。

 笑顔で提案する紫乃さんは伴を初め何故か一同に断固拒否され、静乃が急いで伴のクローゼットを漁り始めた。

「と、とにかく開けるぞ!?(小声)」

『う、うん…(小声)』

 ガチャ…

 ついに恐怖の扉は開かれた…伴の手によって…

「伴ちゃん!!あんたいつまで叔母さん待たせるの!!まったくも~!あんたって子は!!」

 ドスドスドス…

 その人はドアが開かれるなり押し入り、靴を脱ぎ捨てるとそのままズカズカと足音荒く部屋の中へと突き進んで行った…

「まぁ~!!初めましてぇ~!!伴ちゃんの叔母の光代です~!!あら!?随分大きな子ねぇ~!!でも写真で見るより美人さんねぇ~!!うふふふふ!!」

 リビングに現れ即座にあたしをロックオン。力強くあたしの手を握り満面の笑み…そして大きな声で大笑い。それだけでも強烈だったが…

 うわぁ~…す、凄い奇抜な恰好…。濃い目のピンクのフリル付きワンピースって…しかも真っ赤な口紅に分厚く塗りたくられたファンデーション…良子叔母さんをやっぱり思い出す。

「あら~!!お友達!?随分美人ねぇ~!!あ!伴ちゃんの同業者さんかしらぁ!!モデルさん!?そっちの子は…まぁ!!伴ちゃん!!時君いるならそう言いなさいよ!!あらあらまぁまぁ!!」

「お、叔母さん…」

「伴ちゃんがお世話になってますぅ~!!あの子と一緒にいると疲れるわよねぇ~!!本当もうイケメンさん!!髪もサラサラで肌も綺麗で羨ましいわぁ~!!腰も細いのねぇ~!!」

「叔母さんそれセクハラ!!ノータッチでお願いします!!」

 慌てて伴が待ったをかけた…

 あたしから今度は静乃、そして九条さんへ…。光代さんは彼の髪と顔を撫でまわし腰を思い切り掴みと好き放題だ。それでも動じずなんとか笑顔で耐える九条さんは本当に凄い。

「あら!?そっちのイケメンさんは誰かしら~!?」

「近所の者です。どうも。」

『!?』 

 と、伴の寝室らしき部屋から現れたのは…ジャージ姿の爽やかイケメンお兄さん!?って紫乃さん!?

 彼はジャージも完璧に着こなし物としていた…。爽やかスマイルでイケメン好青年度は更に増し輝いている…

「…紫乃さん普通にイケメンだったんですね。てっきり雰囲気イケメンだと思ってました…」

「…ははは、そうかな?でもこの恰好楽だね。俺も普段着そうしようかな。」

「やめて下さい…緋乃に言われちゃいますよ?『そんなだらしない兄を持った覚えなどございません。』って笑顔で…」

「ああ、それは嫌だなぁ…」

 まぁ、なんでジャージをチョイスしたのかはともかく(静乃チョイスはスーツだったからか)、普通の近所のイケメンお兄さんに見え無い事はない。多分。

 再び九条さんにセクハラ…もといスキンシップをしている光代さんを見ながら小声でそんな会話をし、後でこっそり写メでも撮って緋乃に送ってあげようと思った。

「ああ、じゃあ俺はこれで…」

「何?まだいいじゃないの!!こんなイケメンに囲まれるなんて叔母さん滅多にないんだから!あはははは!!若いっていいわねぇ~!!」

「は、はぁ…ははは…」

 こうして、紫乃さんも強制的に残されたのであった。

 あたしを見捨てようとするから…

 光代さんは紫乃さんと九条さんを無理やり両隣に座らせプチハーレム気分を満喫し、伴をこき使い…とにかく自由に振る舞っていた。本当自由気ままに。

 あたしが手伝おうとするとがっしり腕を掴まれ『お客さんなんだからいいのよぉ!!』と上機嫌に止められたので何も出来ず…かと言って何も聞かれず…

 あれ?これって…あたしもしかして若干無視されてる!?何かお気に召さなかったとか…

 い、いや…でも両隣にはイケメン二人もいるからそれで舞い上がっているとか??

「伴ちゃん、あんたちょっと!!こっち座んなさい!」

「え?」

 嫌なネガティブ思考を巡らせていると、突然光代さんがキッチンに立つ伴を手招きしあたしの隣へと座らせた。

 な、なんだいきなり?もしやこれからいびりと言うものが始まるんじゃなかろうか!?

 こ、怖い!!身内怖い!!

「…紫乃ちゃん。あなた伴ちゃんの何処を好きになったの?」

「え?」

 あ…そっか…。光代さんは紫乃さんの名前をあたしの名前だと思い込んでいるんだっけ…

 「ああ、叔母さん…こいつ蕾って言うの。紫乃さんはこっちな。あの写真送ってくれたの紫乃さんなんだよ…それを叔母さん勘違いして…」

「え!?あんた嫌だ!!なんでそれ早く言わないの!?叔母さん恥かいたじゃない!!もぉ~!!本当この子は…」

「…何度も言っただろ…でも聞かなかったんだよ…」

「そんなの知らないわよぉ~!!もう!!ごめんねぇ!蕾ちゃん!本当…」

 バシバシ!!

「い、いててっ!?叔母さん痛いから!!」

「もう本当小さい頃からこの子こんなんでねぇ…時君も色々迷惑かけられてるでしょう?何せマイペースで自由だから…」

「それは叔母さんじゃん…」

「だから私昔から心配でねぇ…でもふらふらしてるけどちゃんとした信念はある子なのよ?アイドルになるって言った時には本当倒れそうになったけど…」

 伴の背中を叩きながら、光代さんは意外にも真面目な話をし始めた。

 伴の両親の事やこの世界に入るきっかけや出来事…ついでに小さい頃の伴のおまぬけエピソードまで…何から何まで色々と。

 ああ…こうして見ると…恰好はともかく普通の身内を心配する叔母さんなんだな。ちょっとオーバーなリアクションだけど。

 けど、伴を見つめる瞳は間違いなく何処にでもいる優しい叔母さんで…何となくわかった。この人が伴を本当に大切に思っていると言う事が。

「だからね…伴ちゃんに一番必要なのはこの子をしっかり支えてくれるお嫁さんなのよ!やれ合コンだので適当な女捕まえて引っかかって欲しくなくてねぇ…」

「適当に選んでねーよ?」

「あんたは黙ってなさい!だからね…蕾ちゃん。あなた見た感じ普通の良い子に見えるし…私ちょっと安心したのよ。伴ちゃん、こんな良い子泣かす様な事すんじゃないわよ!?桐原家のお嫁さんになるんだから!」

「話飛躍し過ぎだよ!!なんでいきなり結婚とかになってんの!?」

「お黙り!!蕾ちゃん!伴ちゃんの事…見捨てないであげてね!?あなたになら任せても良いような気がするのよ!」

「いや、俺は色々と身の危険も…(急に殴られる等の)」

「とにかく!伴ちゃんの事…よろしくお願いします!」

 ガシッ!!

 光代さんはしっかりとあたしの手を握りしめると、そんなとんでもないお願いをしたのであった。騒ぐ伴を放っておいて…

 お、お願いって…それはつまり…あたしは桐原家に嫁ぐこと決定って事なのか!?い、いやまさかね…

 でも…ここまで来て『嫌です。そもそも彼女じゃないし』なんて事は言えない…絶対に…

 全員の興味津々、期待に満ちた眼差しを受けながら…あたしは暫し硬直し、とりあえず引きつった笑みを浮かべ光代さんへと目を向ける…

 てか皆なんで黙ってるの?誰か助けてよ…!!こんなに援軍いるって言うのに…!!

 ああ…もう!!こうなったら仕方ない!!

「…ま、任せて下さい!」

「まぁ!頼もしい子!!」

 あたしはしっかりと頷いていた。宣言までして…光代さんの手をしっかり握り返して。

 でもこれで平和になるならそれでも…

 って良くない!!なんで頷いたあたし!?

 しかし時すでに遅し…

 光代さんは満足そうに暫く好き勝手話した後、来た時と同じ様に嵐の如く去って行ってしまったのだった…

 みかん箱を三箱も抱えてタクシーで…

「また来るわよ…うふふ…」

 ちなみに、光代さんは最後にそう言い残し去って行った…
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登場人物紹介

宮園 蕾(みやぞのつぼみ)


長身がコンプレックスの高校三年生、ただいま崖っぷちの受験生。『FORESTFLOWER』と言う花屋の一人娘。イケメン・アイドルが大の苦手(というか嫌い)で、拒否反応を起こすこともある。猪突猛進、アグレッシブで口と一緒に手(または足)が出るが人は選んでいるとかなんとか。いつも明るく元気なのでポジティブに見えるが、実はかなりのネガティブ思考者で、未だ過去のトラウマから抜け出せずにいる悩み多きお年頃の主人公。合唱部所属。演歌歌手の大御所、藤岡新之助の大ファンでファンクラブにも入っている。

有沢 伴(ありさわばん)


本名は桐原伴利(きりはらばんり)と言う。人気絶頂中のアイドルユニットAZURE(アズーロ)で、とにかく明るく前向きなポジティブ男子。思ったら即行動してしまうので、相方の時やマネージャーの黒沢に良く叱られることもある。可愛い女の子が好きなので、チャライ面もあるが実は一途な努力家だったり。人気アイドルだが、オフの時は全くそのオーラーを感じないオーラゼロ男でもある。オフの日はジャージでダラダラしている。猫とみかんが大好き。

如月 紫乃(きさらぎしの) 


妙な和装の星花町の優しいお兄さん。商店街で『青嵐堂』と言う古書店を営んでいるが、実は腕利きの祓い屋でもある。また、幻想和風を得意とした人気の若手イケメン作家東雲青嵐(しののめせいらん)でもある。蕾が幼い頃から面倒を見てきたため、紫乃の妹と同じくらい過保護な時もあるが基本蕾には優しいため、蕾もよく頼っている。時に優しく厳しく蕾を暖かく見守っている。妹ラブなちょい腹黒な人たらし。

柏崎 静乃(かしわざきしずの)


蕾の中学時代からの親友。女子高生とは思えぬ美貌と貫禄とナイスボディの持ち主で、常にネイルは欠かさないおしゃれ番長。見た目が派手で、常に理想と意識が高いため男をとっかえひっかえしているが、意外と面倒見のよいツンデレ気質。クールな現実主義者。蕾に日々的確なツッコミをしてくれる。持ち前の美貌と長身で読者モデルも気まぐれにやっているお嬢様だが、家族と折り合いが悪く家を出て知り合いの家に下宿している。紫乃の大ファンでもあり密かに恋心も抱いている。合唱部部長。よく奇抜なユニーク創作料理を生み出す。

桃瀬 苺(ももせいちご)


蕾の友人。小柄でか弱い心優しい保護欲そそるシャイガール。声も気も小さく、人見知りもするためよくいじめられたりするが、蕾や静乃がその度に助けてくれる。小学校から女子だらけの世界で育ったためか、男が苦手。声を掛けられたらまず逃げる。内気だが歌声は見事、合唱部でも常にトップで彼女に憧れる後輩も少なくはないが、本人は自信がないので全く気付いていない。お菓子作りと編み物が得意で、可愛い物が大好き。飼っているうさぎと猫と過ごす時間が癒しのひと時。三人姉妹の真ん中っ子。

九条 時(くじょうとき)


人気アイドルユニットAZURE。歌やダンスだけでなく、演技力も優れているため舞台などもこなす完璧なアイドル。本人も期待に応えるため日々努力を惜しまず、緩み切っている伴を日々叱咤している。非常に意識の高い完璧主義人間。とにかく何事も完璧にこなす。自分にも他人にも厳しく、伴には人一倍厳しいが、ちゃんと信頼と友情はある。普段は礼儀正しくにこやかだが、とにかくAZUREのためにプラスになる事はするが、その妨げになる者は容赦なく排除する冷酷な所もある。東雲青嵐の大ファン。趣味は勿論読書。年の離れた妹と祖母と過ごす時間がほっとする一時らしい。

皐月 聡一郎(さつきそういちろう)


蕾の住む星花町の商店街、喫茶店金木犀の若き店主。元は刑事だったが、金木犀を経営していた両親が亡くなったため後を継ぐことにした。イケメンで落ち着いた物腰とバリトンボイスが魅力的で、隠れファンも多い。蕾とは五年前からの付き合いで、色々と面倒をみてくれている。堅物で過保護なお兄さんの面も……。蕾の初恋の人。

皐月 珠惠(さつきたまえ)


聡一郎の妹で高校一年生。五年前、星花町に越して以来の付き合いでいまでは蕾の妹的な存在。小柄で元気いっぱいな明るい女の子だが、かなりの霊感体質なのが日々の悩みの種の一つ。紫乃が現れてからはちょくちょく相談しているらしい。猫と小鳥が好きで、家で文鳥を飼っている。小柄な割にかなりの食欲魔人。合唱部所属で、蕾とは同じ学校へ通っている。

文月 忍(ふづき しのぶ)


蕾の幼馴染みで実は結構なご近所さんでもある。長身の眼鏡(伊達)イケメンだが、中身はかなりのお子様で常に眠そうで気だるげ。放っておけば速攻眠る。ドS気質のジ●イアンだが、腐ってもイケメンなのでモテる。だが、本人は興味も示さない。退屈するのが大嫌いで、自分が楽しければそれでいい…というどうしようも無い駄目人間だが、芸術肌で絵を描くことに関しては天才的な才能を持っている。しかし、創作時はアトリエに籠り、集中しすぎて基本的な生活行動が疎かになったり、音信不通になったりしてよく周りの人間達を心配にさせる。ひ弱なもやしっ子に見えるが意外と力は強い。緋乃と如月家の縁側が大好き。

如月 緋乃(きさらぎひの)


蕾と忍の幼馴染みで紫乃の妹。見た目はか弱そうな美少女だが、中身は全く違う。兄同様かなり変わった女の子で、同じく祓い屋として紫乃を手伝ったりたまに自分一人で仕事をしたりしている。いつもにこにこゆったりとしていて幸せそうにみえるが、結構苦労している。口では兄を突き放す様な事を言っているがきっと本当はお兄ちゃん大好きなはず(紫乃談)。お嬢様口調なのは、祖母の影響かららしい。ふわもこの触感と甘い物、そしてホラーを愛してやまない。愛猫の琥珀のお腹を撫でるのが好き。めっちゃ力持ち。

日下 凛(くさかりん)


金木犀のアルバイト店員。美少女のような愛らしい容姿をしているが、立派な二十歳の成人男性。都内の洋菓子専門学校へ通っているため、お菓子作りが得意。また、愛らしい容姿は凛にとってコンプレックスなので『可愛い』と言うのは禁句となっている。もし言ったら……彼の逞しい拳が飛んでくるだろう。人懐っこく明るいので、金木犀では人気のマスコット的存在。愛らしい容姿のため、よくストーカーや痴漢に遭うが逞しく撃退している男らしい一面もある。

千石 正宗(せんごく まさむね)


星花町の治安を守る星花警察署の警部。一人娘の蛍をこよなく愛するバツイチのイケメンお父さんでもある。警部なのに常に緊張感が無くゆるふわすぎる空気を醸し出し、よく仕事と言っては町内をふらりとうろつき部下を困らせているらしいが、人望は何故か厚い。『星花署のハシビロコウ』と呼ばれている。

菖蒲 茨(あやめ いばら)


本名は立花涼花(たちばなすずか)と言う可愛らしい名前。伴の従姉で紫乃の腐れ縁の同級生。派手な髪色とゴスロリ衣装を身にまとい勇ましく振る舞う男の様な人。豪快で態度もデカく口は悪いが面倒見の良い姐さんタイプ。普段は緑泉出版と言う小さな出版社で働きながらフリーのカメラマンをしている。ウィッグ&カラコンマニア(?)なので日々髪形や目の色が違っているためたまに知り合いにあっても気づかれないこともあるとか。

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