胸裡4
文字数 1,187文字
狐目のようにいじらしく目を細め私を見つめる眼差し。
口元を軽く手で押さえ少女の様に口角を上げた彼女が愛おしい。
残りの少ないコーヒーカップがこの泡沫の蜜月の終わりを知らせ、胸の高まり、鼓動を早めた。
「それって、、、」
ごくりと唾を飲む。視線は桐一直線。彼女もまたこちらを見つめていた。
「恵助ってさ、私、中学の時にバレンタインにチョコあげたの覚えてる?」
「結構勇気出してあなたの机に置いたんだけど、恵助ってば慌てて教室から飛び出ちゃうんだもん。ちょっとショックだったかな、、、。」
「あの時は子供だったなぁ。でも、あなたって律義なとこもあって。3月14日にお返しもくれったっけ」
「昇降口であなたとお喋りして、いつまで経ってもモジモジしてる恵助、可愛かったな」
思い出す。雪の降る季節、冷たい昇降口。私はカバンにしまったままのお返しを朝からずっと渡す事ができずに彼女の帰りを一人待ち続けていたのだ。
暖房などあるわけのない空間に膝を震わせながら己の意気地なさを不甲斐なく感じていた。
彼女の下駄箱を何度も確認した。彼女がまだ帰宅していない事は確認済みだった。
ただ、待ち続けた。ただ一瞬。そっと渡すだけで良かった筈なのに。
その度胸がない当時の私。冷え切ったお返し。減り続けた靴。下校の残響。
このまま渡せずに今日は終わるのだろうかと思ったその時に彼女が現れたのだ。
「あれぇ?恵助。まだいたんだぁ」
少女だった頃の桐が私の隣にちょこんと座り。他愛もない世間話が続いた。
歓喜とプレッシャーに入り混じった感情が青少年の心を揺れ動かした。
この時間は永遠にも思える程長かった。いつまでも続いてくれないかと。
「、、、、そろそろ帰らなきゃ。またね」
彼女が立ち、同じタイミングで現れた女性徒に目を向けたその隙に彼女のバッグの横にお返しをそっと置いた。白い紙袋。水色のリボン。小さな小さなお返し。
彼女の元に確実に渡ったか確認することもなく私も彼女とは逆方向に下校した。
冷たかった。こんなにもあっけなくて良かったのか。雪が頬で溶け顎を伝った。
翌日、桐のカバンに水色のリボンが付いていた事を確認した。
受けとって貰えたのだとホッとしたのを覚えている。当時の私はこれで十分だった。
「あの時のお返しも嬉しかったな。今思い出しても良い思い出」
「ねぇ、ホントにあの時、、恵助の事、気になってたよ。いつもボンヤリしてて何考えてるか分かんなかったけど、、、好きだった」
「恵助はどう思ってたの?私の事、、中学のあの頃さ」
「俺は、、、好きだったよ。そりゃもう」
ふぅっと息を吐き、残りのコーヒーを飲み干す彼女。初夏の熱気なのかほんのり顔を赤らめた。
「そっか。じゃぁ、私たちって両想いだったんだね」
視線を反らす彼女が艶めかしい。彼女の光沢した鎖骨を日差しが照らした。
口元を軽く手で押さえ少女の様に口角を上げた彼女が愛おしい。
残りの少ないコーヒーカップがこの泡沫の蜜月の終わりを知らせ、胸の高まり、鼓動を早めた。
「それって、、、」
ごくりと唾を飲む。視線は桐一直線。彼女もまたこちらを見つめていた。
「恵助ってさ、私、中学の時にバレンタインにチョコあげたの覚えてる?」
「結構勇気出してあなたの机に置いたんだけど、恵助ってば慌てて教室から飛び出ちゃうんだもん。ちょっとショックだったかな、、、。」
「あの時は子供だったなぁ。でも、あなたって律義なとこもあって。3月14日にお返しもくれったっけ」
「昇降口であなたとお喋りして、いつまで経ってもモジモジしてる恵助、可愛かったな」
思い出す。雪の降る季節、冷たい昇降口。私はカバンにしまったままのお返しを朝からずっと渡す事ができずに彼女の帰りを一人待ち続けていたのだ。
暖房などあるわけのない空間に膝を震わせながら己の意気地なさを不甲斐なく感じていた。
彼女の下駄箱を何度も確認した。彼女がまだ帰宅していない事は確認済みだった。
ただ、待ち続けた。ただ一瞬。そっと渡すだけで良かった筈なのに。
その度胸がない当時の私。冷え切ったお返し。減り続けた靴。下校の残響。
このまま渡せずに今日は終わるのだろうかと思ったその時に彼女が現れたのだ。
「あれぇ?恵助。まだいたんだぁ」
少女だった頃の桐が私の隣にちょこんと座り。他愛もない世間話が続いた。
歓喜とプレッシャーに入り混じった感情が青少年の心を揺れ動かした。
この時間は永遠にも思える程長かった。いつまでも続いてくれないかと。
「、、、、そろそろ帰らなきゃ。またね」
彼女が立ち、同じタイミングで現れた女性徒に目を向けたその隙に彼女のバッグの横にお返しをそっと置いた。白い紙袋。水色のリボン。小さな小さなお返し。
彼女の元に確実に渡ったか確認することもなく私も彼女とは逆方向に下校した。
冷たかった。こんなにもあっけなくて良かったのか。雪が頬で溶け顎を伝った。
翌日、桐のカバンに水色のリボンが付いていた事を確認した。
受けとって貰えたのだとホッとしたのを覚えている。当時の私はこれで十分だった。
「あの時のお返しも嬉しかったな。今思い出しても良い思い出」
「ねぇ、ホントにあの時、、恵助の事、気になってたよ。いつもボンヤリしてて何考えてるか分かんなかったけど、、、好きだった」
「恵助はどう思ってたの?私の事、、中学のあの頃さ」
「俺は、、、好きだったよ。そりゃもう」
ふぅっと息を吐き、残りのコーヒーを飲み干す彼女。初夏の熱気なのかほんのり顔を赤らめた。
「そっか。じゃぁ、私たちって両想いだったんだね」
視線を反らす彼女が艶めかしい。彼女の光沢した鎖骨を日差しが照らした。