第三話 FOR SALE

エピソード文字数 2,308文字

こんにちは店主さん。
これはこれは勇者様。
この街に滞在していると知り、いずれご来店いただけるものと思っていました。このお店『ドリームアームズ』ほど、名品を取りそろえている武器屋はそうないですからね。
王都はとても発展していて、お店も多いですね。物珍しげな商品がたくさんありますし、街を歩き回るだけで目がくらむようです。
店主さん、この聖鉄製フランベルジュより強い武器はありますか?
ええ、ございます、ございますとも。勇者さまのお眼鏡に完璧に適うものがございます。

実は……この店そのものでございます。
店、そのもの……?
左様です。
勇者様、この武器屋を経営してみる気はございませんか?
えっ!?
武器屋を……経営?
勇者様、よくお考えください。魔王を倒したあと、その後の生活を考えたことはありますか?
その後の私個人の生活より、今は人間界に仇なす魔王さんを倒すことです。そのためだけに、私はひたすら訓練を積み、戦ってきました。
喝!
勇者様は間違っている! 何もかも!
ひいっ!? そ、そうなんでしょうか……?
あなたがよくても、一緒に戦っている戦士や僧侶、魔法使いはそれで納得するとでも?
やれやれだ……。あなたみたいな脳筋思考の女子がリーダーだなんて、パーティーメンバーが不憫でならない……。
ですがみんなは、請け負った大任に全力を尽くしてくれています……!
おやおや、これだから無責任極まるリーダーを持つと、その部下たちが困るというもの……。
いいですか勇者様、教えてあげましょう。あなたは目先の仕事だけ好きなようにやり散らかして、その後の責任はご破算にしようとする真のクズだ。何やら思いやりがあるように見えて、その実、自分の望んだように周りを振り回しているだけのアコギな存在なのですよ。
そんな! 酷すぎます……。
であれば、リーダーであるはずのあなたが、しっかりメンバーたちの長期的行く末に責任を持つべきでしょう。あなたにはそれができていますか?
…………。
もう一度お聞きします。
魔王を倒したあとのメンバーたちの生活は?
私……何も考えてませんでした……。
でしょう。わかればよろしいのです。
店主さん……! どうすればみんなの将来をちゃんと用意してあげられるんでしょうか? 私は、みんなに喜んで欲しいんです!
私が社会という名の"えげつないシロモノ"のことを、優しくかみ砕いて教えて差し上げましょう。
私は断言します。もし勇者さまが魔王を倒してしまうようなことがあれば、勇者さまたちは、守ったはずの人々からポイ捨てされるだけ。あなたはただ、人々や王に利用されている憐れな存在にすぎない。
そんな風に考えたことはなかったです……。
あなたは今まで子どものように純粋だった。しかしこれからは、パーティーの仲間たちの将来を考えるため、もっと大人にならなくては。あなたに魔王討伐を依頼した国々は、いざ目的を達成しさえすれば、あなたがたに何もしてくれないに違いありません。だからこそ国にすがるのはヤメにして、自らの力で収入源を確保しなくてはならない!
収入源の確保……!
魔王を倒したあとの仕事は決めてますか? 住まいは? 食事代は? 結婚はどうするんです? 子育ては厳しさを増すばかりですよ? 生活資金が支給されると思ってますか? インフレ対策はどうします? 老後の生活は? 介護が心配ではないですか? 死ぬその時まで財産を守りきることができますか? 王国が財政破綻したらどうするのです?

……人は誰しも、生涯を全うするために、しっかりした人生計画が必要なのです。社会ってのは、非常に世知辛いものですから、自分の計画性だけが頼りです。戦闘ばかりだった脳筋のあなたにはわかるまい!
深く考えてきませんでした……。
だからあなたはダメなんだ。何はなくとも、まずは収入源の確保です。そこでこの武器屋なのですよ。
でも経営なんて、武器を買うのとはワケが違うんじゃないでしょうか。パーティーが銀行に預けてあるお金をぜんぶかき集めたって、100万Gに届きませんし……。とてもこんな立派なお店を買えるわけが……。
いいでしょう。
この武器屋『ドリームアームズ』、今すぐ名義変更して頂けるならば、たった98万Gでお譲りいたしましょう。
今だけ!
98万G……!? このお店が?
左様でございます。
で、でも……そこに飾ってあるトライデントは、槍使いの方なら喉から手が出そうなほどの一品に見えますし……軽く15万Gは超えてくるような……。
色々並べてあるブロードソードやファルシオンは汎用品ですがかなり丁寧に作られた品々で、一振り2万Gでも買いたがる冒険者は結構いるんじゃないかと思うんですけど……。
さすが、魔王軍との戦いの最前線に身を置いてきただけあって、武具の目利きは並の武器商人に引けを取りませんね。私が勇者さまにこのお店を託したいと考えたのは間違えていなかったようです。
それにこんな立派なお店は、内装を整えるだけでもすごくお金が掛かりそうですよね。
賃貸契約の保証金や、開店時の内装費で150万Gは優に掛かっているでしょうね。そして店頭に並んでいる商品や、奥の倉庫にある在庫を含めれば……このお店を開業するにあたり費やしたお金は、1000万Gを下りません。私のこの『ドリームアームズ』は、王都リステリアでも有数の高級武器屋だと自負していますよ。
でも先ほど、このお店を98万Gで譲ってもらえると仰っていましたよね?
私の聞き間違い……?
聞き間違いではございません。
たしかに、98万Gでよろしゅうございます。
本当の、本当ですか……?
もちろんでございますとも。
私は勇者さまにご奉仕して差し上げたいのですよ。にっこり。
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登場人物紹介

勇者

剣技・魔力ともに秀でた有数の戦闘技術の持ち主。幼いころからその力は有名で、王国政府から懇願されて魔王討伐の旅に出た。
心優しく、単純な性格。誰に対しても丁寧で、魔王にすら謙虚な姿勢で臨む。

魔法使い

まだ年若いにもかかわらず、王国魔法協会で最高の魔力の持ち主。勇者を護衛するメンバーとして王国魔法協会から派遣され、最も早くからパーティーに参加した。ギャンブル好きで、大都市にくるとカジノに入り浸る。

僧侶

教皇庁の特殊工作員。教皇庁の思惑から勇者パーティーに派遣され、魔王軍攻略に参加している。
ゾンビ30体を同時召還し使役することができるほどの驚くべき魔法力を秘め、その実力は魔法使いを上回る。タイマン勝負でも、愛用の聖鉄製大型ジャッジガベルを振り回し、戦士を圧倒する実力をみせる。表向きは清楚な女性に見えるが、パーティー内での戦闘力は、実のところ僧侶が最も高い。

戦士

ツワモノ揃いのパーティーメンバーのなかで、唯一の庶民的能力。
苦学生で、生活費を稼ぐために、冒険者ギルドに所属して時々バイト活動をしていた。あるときダンジョンに挑む勇者パーティーにポーター(鞄持ち)として雇われる。最後に加わったメンバー。
正式には今でも冒険者バイトだが、数字や法律に強く、パーティーの知能を担っている。すでに古株になってしまっており、最後まで同行しそうな雰囲気である。

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