冷たく降り付ける雨

文字数 1,111文字

 アランが初めて少年に会ってから二日後、彼らは廊下で合い見えた。この際、アランは挨拶代わりに拳を繰り出し、少年はすんでのところでそれを避けた。彼らは、そのようなやり取りを数十分程した後、連れ立って食堂へ向かって行く。そうしてから食堂で食事を摂ると、少年は自らの家へ戻って行った。
 
 その後も二人のやり取りは続き、二つの季節が通り過ぎた。この頃、少年は上手くアランの攻撃を受け流せるようになっており、そのせいか表情も逞しくなっていた。しかし、その体から痣や傷は消えず、それをアランやリタは心配していた。
 
 それでも、少年を見守る者達は彼の家族について何も問わず、心の支えとなることだけに努めた。しかし、大雨が続いたある日、ついに悲劇は起こってしまう。雨の日に少年が外へ出ることはなく、ただひたすら空腹に耐えていた。少年は今までの経験で空腹に慣れてしまったのか、泣き言を漏らすことすらしない。
 
 しかし、薄暗く湿った環境は、彼を産んだ者の精神を蝕んでいった。その者からの暴力は雨音と共に激しさを増し、ついには刃物を持ち出した。鋭い刃先を見た少年は部屋を逃げ惑い、力の限り謝罪の言葉を叫んだ。だが、その声が誰かに届くことはなく、少年は壁際に追い詰められてしまう。
 
「――!」
 奇声と共に振り上げられた刃から身を守る為、少年は咄嗟に両手で顔を庇った。すると、刃の切っ先は少年の手の甲を切り裂き、そこからは赤い血が滴り始める。

 少年はその傷を押さえることすらなく、床に這いつくばって攻撃者から離れた。彼は、必死に次の攻撃を逃れようとするが直ぐに追いつかれ、その進路を塞がれてしまう。この為、彼は無言で口を開閉させながら表情を凍りつかせた。
 
「――ね!」
 少年の前に立つ者は、刃先を下に向けて振り下ろした。その直後、少年は反射的に刃物を握った拳を振り払い、その勢いのまま前方に体重を預けた。

 すると、奇声と共に少年の体は赤く染まり始め、その温かさを感じた子供はゆっくりと後退する。彼を襲おうとしたものは叫び、再び刃物の柄を握った。自らの腹部に刺さってしまった刃物の柄を。

 少年は、戸惑いながらも部屋を出た。一方、彼を産んだ者は腹から刃を引き抜き、彼を追う為に外へ向かった。しかし、刃先は動脈を傷つけていたのか出血が酷く、追いつく事の出来る前に倒れてしまう。
 
 家を出た少年は、雨の中孤児院へ向かって走っていた。しかし、その速度は次第に落ち、目的とする場所の手前で座り込んでしまう。少年は座り込んだまま動かず、激しい雨は服に付いた血痕を洗い流していった。その後、彼は偶然通りかかったリタに話し掛けられるまで、数十分の間座ったままだった。
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登場人物紹介

主人公
ネグレクトされている系男児。
しかし、救いの手が差し伸べられて成長する。

神父
主人公に救いを差し伸べるが、差し伸べ方がやや特殊な年齢不詳な見た目の神父。
にこやかに笑いながら、裏で色々と手を回している。

兄貴分
ガチムチ系脳筋兄貴。
主人公に様々なスキルを教え込む。
難しいことはどこかに投げるが、投げる相手が居ないと本気を出す脳筋。

みんなのオカン
主人公を餌付けして懐かせる系オカン。
料理が上手いので、餌付けも上手い。

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