第3話

文字数 1,009文字

 タメットとのやり取りにも慣れてきた頃、思いがけなくコオを訪ねてきたのはジュリア
ンであった。
 ブオロン族集落の巡回診中に、タメットと共に現われた彼は、困惑気味に武装ゲリラ達
が求めているというある珍奇な要求をコオに伝えてきた。それはジュリアンにとってもま
ったく非現実的で、馬鹿馬鹿しいと言わざるを得ないような要求であったのだろう。しか
し、それが多額の利益をもたらしてくれる顧客の要求であると言うなら彼に否を唱えられ
るはずもない。
 コオにとってもそれは同じ事であった。拳銃を懐に忍ばせながら顧客側の尊大さで二人
を睨んでいるタメットを窺いながらジュリアンがコオに伝えたことを要約するとこうであ
る。

「伝説として伝えられる、いかなる戦争においても勝利を収める事ができる、超人的な能
力を持つというブオロン族の不敗戦士を探し出せ」

 武装ゲリラの幹部達がこの現代においても未だにそんな迷信を信じていることに呆れる
コオとジュリアンに、タメットは相手のそういう反応を予想していたのだろう、凄味のあ
る笑みを二人に見せると、こう付け加えた。
「見つからなくても構わないが、いずれにしてもまず、俺に知らせろ」
 聡明なタメットは伝説など信じてはいないのだろう。超人など存在しないと分かれば良
いということかと思いながら、コオは、もしそんな者がいたとしたら、タメットは自分の
立場をも危うくしかねない者を見過ごしてはおけないだろうとも思った。タメットはそこ
まで計算できる男だと、既にコオは知っていたのである。

 新たな屈託を抱え込むことになってしまったコオだったが、この仕事は結局のところ、
彼の良心の呵責となることはなかった。伝説の不敗戦士は見つからなかったのである。
 不敗戦士というからには身体能力が優れているはずと考えたコオは、その立場を利用し
て、まず、ブオロン族の人々の身体測定を行ってみた。が、その結果は彼らに特長的に優
れているような能力は見当たらないままに終わった。コオがよく知る日本人の標準からす
ると、確かに秀でている部分もあったが、同じ環境に住む他の部族との違いはなく、むし
ろ劣っているくらいだ。それでも諦めずに調査を続けてみたが、彼らの筋力や瞬発力、反
射能力にもまったく違いを見出せない。赴任から十か月余りが過ぎたころ、コオはついに
伝説の戦士を探し出すことを諦めたのであった。
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