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エピソード文字数 776文字

 混乱しているあたしを、信也は見据えた。その目はとても鋭い光を放ち、思わずゾクリとした。

 その眼差しに……
 見覚えがあったからだ。

「……信也、元の場所って?」

「俺が戻るべき場所は、本能寺なり」

 あたしは信也の言葉に耳を疑う。

「織田信長のことをこの世の書物で調べ、よくわかった。俺は本能寺で自害するべきだったのだ」

「……冗談はやめて。あなたは織田信也、信長じゃない!どうして死ななければいけないんだよ。死ぬ必要なんてない。だって、明智光秀が信長を逃がしてくれたんだ……」

 思わず口から飛び出した言葉……。
 朧気な記憶が、鮮明に蘇る。

 ――そうだ。
 あの時、燃え盛る本能寺で明智光秀が織田信長を逃がした。

 でもあれは、夢の中の出来事……。
 現実なんかじゃない。

「やはり……そうか。紗紅は……(くれない)であろう」

 紅……?
 どうしてその名前を……?

 あれは、夢……。

 夢の中であたしが名乗った……名前……。

 だってその証拠に、何十年も戦国時代にいたのに、あたしは歳を取らなかった。

「本能寺にて俺は死ぬはずだった。いや、落ち延びる途中で死んでしまったのやもしれぬ。地震のように地面は揺れ、本能寺は火に包まれ崩れ落ちたのだからな」

「信也は錯乱してるんだよ。歴史書で知り得たことを現実だと錯覚してるんだ。自分が織田信長だと、勘違いしてるだけ。しっかりしてよ!」

 あたしは信也の体を掴み激しく揺する。

 信也は突然あたしの右腕を掴み、Tシャツの袖をまくり上げた。

「……な、何をするの!」

「これは陥没事故で負った傷ではない。小谷城を攻めた際に負った傷だ。俺が手当てした」

 あたしの右腕には……
 傷痕があった。

 これは……
 月華に襲われ、暴行された時に出来た傷だ。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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