ハティナモン編(6)

エピソード文字数 2,738文字

アロカーヌの森に潜入した一団は、あれからチャルターを中心に「きのこ狩り」を行い、エリンギキマラとナメコ兵士を縛り上げて連行した。連中は悪魔の言った通り、その日の夜には元の姿に戻ったが、イチモツだけはキノコのままだったという。いずれにせよ、政府の極秘裏組織であるノースはその存在を暴かれ、誘拐という卑劣な犯罪もチャルターらによって明らかになったのだった。

翌日、今回のアロカーヌの森での戦いで犠牲になった人達の合同葬がしめやかにとり行なわれた。勇敢なゲオ博士の亡骸にも、たくさんの花が捧げられた。

ナギとリンも、葬儀に参列した。ナギは、遺族の中にひとりぼっちになってしまったルナの健気な姿を見て心を痛めた。
それはリンも同じだった。ゲオ博士を死なせないと言ったのに、死なせてしまった悔しさを、リンはひと知れずかみしめていた。

そんな数日後の昼下がり。

チャルターの農場に30人ばかりが集まっていた。

コア・ステーションの建設を今度こそ止めさせるべく、政府に直談判するために集まったのだ。

その中にナギとリン、そしてアビスとムジカもいた。

「リョータちゃん、もとのおっきさに戻っちゃったんだね! 面白かったのに!」

アビスが笑いながら言う。リョータがアビスの手の上で「カッコー、カッコー」とおどける。
戦いの後、リンは「気に入ったみたいね」などと言ってしばらく大きくなったリョータをそのままにしておいた。リョータも「こけこっこー」と得意げに言いながら、首を振ってナギの後を犬のようについて来ていた。

「私はやっぱり、ちっちゃい方がいいよ。肩にとまってくれてると落ち着くんだ」

ナギはそう言ってリョータの頬を指先でくすぐる。

「ねー、ナギってリョータのファンだったよねー」

ムジカが胸の前で手を組んで言う。ナギは微笑みながら頷く。

「あ! ナギのお気に入りのバンドのボーカル、リョータって名前だったね! そっか、そっからつけたんだね、リョータちゃんの名前!」

アビスがひらめいて言う。ナギは嬉しそうに頷く。

「うん。でも、どんな名前にしようかずいぶん悩んだんだよ」

ね、リョータ。ナギは肩の上のリョータに話しかけた。


「さ。皆さん、出発します。バスに乗ってください」

チャルターがみんなに声をかける。アビスとムジカは、ナギに勧められてバスではなく、ピンセルの車に乗り込んだ。

バスは当然、普通の道を行くが、ピンセルの車はいつも通り空間の隙間を直進する。アビスとムジカは「すごい! すごい!」とはしゃぎ騒いだ。

「リン、つきあってくれてありがとう」 ナギが言う。

「別に。アタシはただ、コア・ステーションを作ろうとしてるニンゲンがどんなバカな顔をしてるか見て笑いたいだけよ」

そう言って少し笑って横を向いているリンの頬のコウモリのタトゥをナギは見つめる。
アビスがいて、ムジカがいて、リンがいて、リョータがいて、ナギは今のこの時間を愛おしく抱きしめた。こんな風にみんなを取り戻して行けたら。みんなと過ごせる時間を取り戻して行けたら。
グラディ、ランス、そして、お兄ちゃんとも、いつか。

ピンセルの車に遅れて、バスは目的のハティナモン政府官邸前に着いた。通達はしてある。政府の大臣達も揃っているはずだ。

チャルターがゲオ博士の遺影を抱いて門に近づくと、警官に守られたスーツの男が眼鏡のフレームをいじりながら立ちはだかった。

「お待ちしておりました。わたくし、環境大臣秘書のヘトロと申します。皆さんの要望書はここで、わたくしがお預かりいたしますので」

「ふざけるな!」

「門前払いする気か!」

「大臣を出せ! 中に入れろ!」

チャルターの後ろでみんなが怒号を飛ばす。

「な、君。お客さんが来たらまずは中に通すのが礼儀じゃないのかなあ」

チャルターがたしなめる。しかしヘトロは見下した冷ややかな目つきで、眉の先ひとつ動かさない。

「何? あの態度! 聞く耳持たずのつもり!?」

「完全にバカにされてるー。なんか、むっかつくー」

アビスとムジカが頭から湯気を出しそうにして言う。近くではリンが縁石に腰かけてチェラシスをほおばっている。完全に高見の見物だ。

「もっとたくさんの人数で来ないと駄目みたいね!」

腹立たしげにアビスが言うのを、リンが聞きとめた。

「そんなことなの? なら早く言えばいいのに」

リンが悪魔のように笑った。

おもむろに突き出す右手。マウスを呼び出す。リンは抗議の人々にマウスを向けた。

「え!? ちょ、リン、な、何を」

慌てるナギ。だがリンはかまわず二次元結界を張り人々をクリック。そして、マウスを移動させて空クリック。

人が、増えた。
いや、正確には人々がコピーされたのだ。

リンはさらにコピーを続ける。コピー。コピー。

あっという間に、30人が1000人以上になった。

ナギは辺りを見回す。ナギもアビスもムジカも、コピーされて20人以上いる。

「大臣を出せ!」

1000人のシュプレヒコールは壮大だ。さすがのヘトロも青ざめる。面白がってさらにコピーを続けようとするリンを、ナギが慌てて止める。

ヘトロは逃げるように退散し、替わって大臣達がしぶしぶやって来た。

「大臣。貴方達のやっていることは、自分達の国を滅ぼすことと変わらない。コア・ステーションを作ってアグル族から農業を奪ってしまうなんて、狂気の沙汰だ」

チャルターが代表して言う。1000人から喝采が起こる。

「しかし、我々は自由経済の原則に則り」飄々として答える大臣。

「その自由は誰のための自由かな? 一部の金持ちがさらに儲ける自由、そのために他人の生業を奪う自由、国もろとも食い物にする自由、 そんな歪んだ自由が許されるのか!?」

チャルターの反論に、さらに湧き起こる喝采。

「アグル族は100年かけて豊かな実りをもたらす大地を作り上げて来たんだ! それはこの国の宝だぞ! 機械と薬に頼ったら、この大地は死んでしまう!」

チャルターが熱弁しても、渋い顔をして聞き流そうとする大臣達。


「飽きたわ」

リンが欠伸をした。

「コトバの通じないニンゲンなんて、消しちゃった方が早いわ」

リンが近くの彫刻をクリックする。彫刻が消滅する。大臣達は虫のように慌てふためき始めた。

「わ、わわわわかった。話を聞きましょう。だ、代表の方、官邸の中で」

チャルターはナギ達に親指を立てて見せ、アグル族の代表とともに官邸に入って行った。


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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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