ダンスはやめられない

文字数 1,394文字

歌子には,何度も電話をかけ,メールも何回も送った。数日反応はなかった。

ある日,ようやく電話に出てくれた。私は,どうせ今回も出ないだろうという気持ちでかけたから,出てくれて,驚いて,最初は,何も言えずにいた。

すると歌子が言った。
「私は,もうあなたに話すことは何もない。でも,あなたが思っているような酷い人じゃないから話してみようか?」

私は,歌子がここまで腹を立てた原因がまずわからないから,尋ねてみた。

すると,私のメールを全文は読んでいないけれど「反省しろ」という言葉が目に入り,それが決定的だったと言った。国籍が違うことや,歳が離れていることなど,色々考慮しても,その言い方が許せないと言われた。我が子にも,誰にも,言われたことがないと。だから,仕事は,一緒にやらなきゃしょうがないけど,あとはもういいと。これまで親しく付き合って来たけれど、もうできないだろうし,もうしないと。もうただの知り合いとして他の人と同じように付き合ってほしいと。これからは,「歌子さん」と呼んでほしいと。

そして,最後に言われた。
「そして,あなたも色々言いたいことはあるだろうけど,聞きたくないから。私は,これで言いたいことが言えたから。」

それで,電話を切られた。

いくら何でも,私の話を一言も聞かずに,自分が決めたことを一方的に告げて,電話を切るのは,あまりだと思った。

しかし,自分の言い方が歌子を傷つけたことは,深く受け止めた。

数日が経ち,自分の言い分も,少しぐらい聞いてもらいたいと思い,メールでお願いしても,会わないと断るだけだから,電話してみた。すると,出てくれた。

歌子が「距離をおかないとまた同じことを繰り返すから、こうして電話でしょっちゅう話したりしたくない。」とすぐに切ろうとした。

すると,私が腹が立って来て,言った。
「仕事だけの付き合いにしてと言われているけど,ここまで人の気持ちを無視する人とは,仕事も出来ません!もう無理です!」

そういうと,歌子の態度が急に優しくなり,「そう決めつけないでよ。これまで通り付き合ってしまうと,関係を修復できなくなるから,距離を置きたいの。私は,唐とは(私は歌子のことを「歌子さん」と呼ぶように命令されたが私のことは,まだ呼び捨てで呼ぶつもりらしい)関係が修復される可能性を残しときたいから。」

「修復なんて,もう無理です!」
メールではなくて,直接歌子に怒り,声を荒げるのは,初めてだった。

「嫌なら,ふってくれたらいいけど,私はその可能性を残したいから。」
歌子の口調は,子供を宥める母親のように優しく変わっていた。

今なら,私が仕事を一緒にできないと言われ,それは困ると思ったから,態度を変えただけかもしれないのは,わかるが,その時の私には,その点に気づく余裕はなかった。
「私は,あなたのことが100%嫌じゃないよ。」

「わかっているよ…今日,ダンス行く?行くなら,迎えに行くけど。」

私は,歌子と喧嘩してからダンスには行っていなかった。「来るな」と言われたわけではないが、話すら聞いてくれない人と一緒に車に乗るのは嫌だった。

歌子の誘いに対して,私は,少しだけ迷ってから,何故か,「行く。」と答えた。

歌子が迎えに来ると。
「本当に,よく来てくれた。」と驚いている様子だった。

私も,あの時,どうして「ダンスに行かない?」という歌子の誘いに乗ったのか,自分でもよくわからない。
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