第3話

文字数 611文字

「俺らは何を聞かされとんねん」

 呆れかえって声を上げたのは同じ大学に通う経済学部二回生の剣崎紫雄(けんざきしゆう)だ。

 わたしが部屋を出て向かったのは、自分の住むマンションから東大路通りを西に横切って更に少しわき道に入ったところにあるこれまた贅沢とは程遠い造りのワンルームマンションだった。四階建てのタイル張りのマンションで、門をくぐると駐輪場に自転車が乱雑に停めてある。どこにでもありそうな、通り過ぎても印象に残らない建物である。但し、その名前を見た時、人は皆あんぐりと口を開ける。何の冗談だ、と顔を顰める人もいれば、笑いだす人もいる。そして、笑いだすのは大体我が大学の学生達である。

— すずめ荘

 なんでも初代の大家さんがペットのすずめをとてもかわいがっていてつけた名前だそうだ。真偽のほどは知らんけど。かわいい名前だね、という向きもあるかもしれないけれど、残念ながら大家さんは若干抜けていたらしい。門扉には漢字でマンション名を掲載してしまったのである。

— 雀荘(じゃんそう)

 かくしてわたしは、大学生活の大体二分の一を雀荘で、次の四分の一を自分の部屋で、そして残りの部分を大学で過ごしている。

 門をくぐって外廊下を通り、左から三番目の一〇三号室。そこがわたしたちのたまり場だった。今日も留守電には「これから鍋やるし、来るなら来たらええよ」と部屋の主である菊田玲人(きくたれいじ)君から妙に気の抜けたメッセージが残されていたので、のこのことこうしてやってきた訳である。
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