第17話:巨大台風の弱体化作戦3

文字数 1,191文字

 台風の聖女作戦は、その後もはかばかしくなかった。1969年に熱帯低気圧制御実験が成果を出したとはいえ以後の実験はあまり進んでない。その理由は、いろいろな制約があり実験に適した熱帯低気圧の数が少ない事。

 この種の実験で進路の急変など思わぬ結果が出ることを懸念する意見があるためだ。熱帯低気圧の制御方法については各国の利害調整等が非常に難しく、各国の利害関係はおろか同じ国の中でも、いろんな意見があり、まとめることが難しい。台風は災害をもたらすだけでなく貴重な雨をもたすという面もあり、常に不要のものではないからだ。雨を望んでいる人にとって途中で雨を降らせる行為は本来は得ることができた雨を盗まれる事になる。

 台風の制御は技術開発という難しい問題があるが、それ以上、どのような制御方法が望ましいか意見集約が難しい。台風の制御が実現すれば防災上はかりしれない貢献をするが難しい問題だらけで時間がかかる。従って現状では熱帯低気圧の予報精度を上げる研究、その精度をあげた予報を活用する研究に主眼がおかれています。また、いずの対策にも莫大な費用がかかり、そう簡単に実行できるというわけには行かないと言う問題も大きい。

 なかなか巨大台風に対する人類の挑戦の切り札となる作戦は、その後、世界中から聞こえなくなっ2010年、三重県桑名市の鋼構造物設備会社、伊勢工業が台風が進む海域に潜水艦を出動させ、海中の低温水をくみ上げ海面水温を下げることで勢力を弱める構想をまとめ、このほど日本とインドで特許を取得した。海面水温が高いと台風の勢力が維持される事に着目して考えた模様。この会社は伊勢工業で2006年1月に日本と米国、インドの3カ国で申請、今年7月に日本とインドで認められ近く米国でも認められる見通しという。

 特許は「海水温低下装置」という名称で潜水艦の両側に長さ20メートル、直径70センチのポンプ付き送水管を8本取り付けたうえで、水深30メートルから低温の海水を海面にくみ上げる仕組みだ。発案者である同社の北村皓一社長84歳によると潜水艦1隻当たりの送水能力は毎分480トン。潜水艦20隻を台風の進路に配備すると1時間で周辺海域5万7600平方メートルで水温を3度程度下げられ、台風の勢力を弱められるという。

 茨城県つくば市の気象研究所などによると台風の発生には海水温が25から26度以上である事が重要な条件で勢力を維持するには27度以上が目安になる。同研究所は今回の特許について「現状では台風の進路予想の精度などに課題もあるが、理論上は台風を小さくすることが可能」と評価している。北村社長は、これまでも水道管の漏水を内部から補修する「内面バンド」など約30件の特許を取得しているが、特許使用料などの対価は求めてこなかった。今回の特許も構想に対する公的機関のお墨付きを得るのが目的と話している。
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