ドアから

文字数 1,666文字

小さな灯のついた薄暗い部屋のベッドに横たわる。俺の一番幸せな時間……


寝るでもなく、寝ないでもなく、ただ夢うつつを楽しんでいる。

「おや?」

ギィィィッと部屋のドアが開いた。ドアの陰から出てきたそれはペットの黒猫だった。

俺のネコは世界一可愛くてどのネコよりもしなやかな体を持っているんだ。
そのふわふわの毛を撫でた時の気持ちよさといったら……


ほら今もこうして撫でてあげると俺の腕の中でうっとりとしている。


「これじゃしばらく眠れそうにないな。」

ふう、とため息をつくと艶やかな毛がそっと揺れる。

俺がドアを閉めようとした時、またドアから入ってくるものがいた。

赤い蛇だ。


このヘビは俺の家の近くにある原っぱに住んでいて、時たま開けっ放しにしている庭の窓から入ってきてこうして俺の部屋に来るんだ。決まって寝ようとしている時に。


ヘビを気持ち悪いだなんて言う人もいるが俺はそうは思わない。

この硬くスベスベとした肌は俺の憧れなんだ。もし俺の肌がこんなにも滑らかだったなら、愛おしくて一日中撫で回しているだろう。

クリクリとして大きな目は今にも宝石がこぼれ落ちそうで、こんなステキな目は他にはないだろうと思わせる。


俺が彼に見とれていると、いつのまにか出て行ってしまっていた。


「さて、俺もこのコと一緒に寝るか。」


ドアを閉めて灯を消そうとした時、ドアからまた入ってくる奴がいた。


小人だ。


人間の十分の一くらいの大きさのそれは奇妙な見た目をしている。はっきり言って俺は大嫌いだ。

目と鼻と口があんなにも近くにひっついているだなんて気味が悪い。手と足の関節もあり得ない方向に曲がるし、何よりもぷくぷくとした体つきはアンバランスで棒か何かで突き飛ばしたくなる。


だけど彼らにも良いところはあるんだ。彼らがどこからかもってくる木の実は甘ったるくてほっぺたが落ちるほど美味しい。

「どこから持ってくるの?」と聞くと彼らは白い歯をカタカタといわせながら、
「それは秘密です。」という。

仕方がないのでこの前庭に種を埋めて育ててみたけど上手くいかなかった。


「…………またネコを借りに来たのかい?」

「さすが旦那様話が早くて助かる。」


俺は直様ネコを貸してやった。


もし相手がドラゴンやゴブリンやシーサーペントなら駆け引きもしたが、見た目が気持ち悪いこいつらには手早く要件を済ませてもらってさっさと帰ってもらうに限る。



黒猫は振り返ってミャオと鳴いて、小人を背に乗せてドアから暗い部屋の外へと旅立って行った。



果たして俺はまた床に就いた。灯のない暗闇の中に確かにある天井を見つめ、ただ過去を思い返す。砂漠の中を船で漕ぎ進むような果てしない人生を。


遠くの方から声が聞こえる……。


「ねえ、もう帰ろうよ〜…。」
「ばーか何にも出てこねえよ。」
「帰っても良いぜ、一人でライトも無しにこの家から出られるんならよお。」
「わ、わかったよお〜。」



またあいつらだ。俺はただここで静かに暮らしているだけなのに、変な噂をたてた奴が仲間を呼んで人の家にドカドカと土足で上がり込んで来るんだ。
……頼む、この部屋には入って来ないでくれ。


だが俺の願いも虚しく、ドアは開いた。丸い明かりの先、ライトを手にする奴らは身震いするほど奇妙な見た目をしている。小人の十倍はある奴らの見た目は気色悪いったらない。


おまけに俺を見て金切り声をあげやがる。叫びたいのはこっちだってんだ。


俺は一番手前にいたやつを腹で叩き潰し、廊下を走ってるやつを腕でねじ切って、部屋の窓から飛び降りたやつはでろでろにしてやった。


誰だってこうするさ。もし嫌いな奴が十倍二十倍と大きくなって目の前に姿を見せたら遠慮なく殺したくなるだろう。可哀想だとは思わない。きっとこいつらだってそうだ。



俺はぐしゃぐしゃになったこの死骸を窓から庭の池に放り込んでまた眠りについた。
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