第128話 演武

文字数 2,114文字

 二人の様子を見ていたユウトはヴァルの方へ体を向けて歩み寄ってしゃがみ込む。そしてヴァルの上に停まっているラトムに目線を合わせて声を掛けた。

「ラトム、お疲れ様。連絡係は相変わらず忙しそうだな」
「まったく大変っス。ラーラにこき使われっぱなしっス。けどユウトさんのお役に立ててうれしいっス!」

 ラトムは今、ラーラ直属の連絡役として、高速の移動能力と簡単な発声能力を活かし、あちらこちらを飛び回っている。ラーラとマレイの間を主に行き来しており、必要な資金や物資のやり取りを大工房と星の大釜の間で頻繁に行っていた。

 連絡役としてユウトから離れてしまうことを最初こそ嫌がっていたラトムだったが、そのアイデアを言いだしたのがユウトだったため、しぶしぶ連絡役を引き受けている。今はその役目の重要性にやりがいを感じているのか、ラトムは胸を張って答える様子にユウトはほっと胸を撫でおろした。

「ありがとな、ラトム。それで、何かオレに連絡があったんだろ?」
「はいっス。もうすぐ調査騎士団が到着するのはご存じだと思うっス。そこでラーラは明日、大釜で一度集まって夕方に打ち合わせをしたいそうっス。ユウトさんも参加するようにと言ってたっス」
「わかった。了解したとラーラには伝えてくれ。
 それと・・・無理はしないようになラトム。本番ではどんなことが起こるかわからない。その対応にラトムやセブルは必要不可欠なんだからな」
「はいっス!しっかり力を溜めておくっス。治癒羽の回復には間に合いそうにないっスけど、もっと活躍して見せるっス!それじゃ、行ってくるっスー!」

 ラトムは意気揚々にぴょんぴょんとヴァルの頂点で数回跳ねる。ラトムの爪とヴァルの金属の肌とが軽くぶつかりコツコツと音を鳴らすと打ちあがる花火のように天高く舞い上がって行った。
 
 空に昇ったラトムは次の目標に向けて水平方向に進行方向を変えると、赤い光の尾を残してすぐに見えなくなる。昼の明るさでも見えるラトムの軌跡をユウトは見送った。

「ユウト。それじゃあ一旦仮設工房に戻ろうか」

 ユウトの後姿に向かって心を立ち直らせたモリードが声を掛ける。その声に応えるように立ち上がったユウトも振り向いてモリードに返答した。

「そうだな・・・オレはここに残ってもう少し身体を動かしてから向かうよ。ヨーレンから左腕を動かす許可がでるまで本格的に体を動かせてなかったからな」

 そしてユウトは持ち上げた自身の左腕に目を落とす。ヨーレンによってつなぎ直された左の前腕中央にはぐるりと一周するように細い金色をした線がとぎれとぎれに肌を割って浮かび上がり、薄く金の輝きを返した。

 ユウトには腕の違和感は感じられない。しばらく動かせなかったためか筋力の衰えを若干感じるものの、跳ね飛ばされる以前との違いはわからなかった。それどころか腕を走る金糸の部分では、魔膜の生成と操作が容易になっているようにユウトには感じられる。それは腕の接着に使用した魔術具が十分にその役割を果たした証拠だとヨーレンがうれしそうに語っていたことをユウトは思いだしていた。

「なら先に戻っておくよ。ユウトこそ、あまり無理はしすぎないようにね。君が最も重要な大役をこなさなければいけないんだから」
「ははは、確かにその通りだ。オレもほどほどにしないと」

 モリードに釘を刺されユウトは軽く自嘲気味に笑い声を漏らして苦笑いを浮かべる。モリードもそんなユウトをやれやれと笑みを浮かべた。そしてモリードはふうと鼻で息を漏らし手を軽く掲げて歩き出す。そのモリードに続くように丁寧に布でくるんだ大剣を担いだデイタスが「また後でな!」とユウトに声を掛けてその場から去っていった。

 二人を見送ったユウトはその場にたたずむヴァルに語り掛ける。

「今から光魔剣の修練するんだけど、なにか気づいたことがあったら教えてくれ」
「了解シタ」

 ユウトは背を向けてヴァルからの返答を聞きながらある程度の距離を取った。

 腰のベルトに固定していた光魔剣を取り出すと光の刃を出さないまま構えを取る。両足を肩幅に広げ腰を落とし、両手で持った光魔剣の先端を斜め下に向けて頬へと寄せた。

 ユウトは集中力を高め、これからとる動きをイメージする。刃の重みをもたない光魔剣の扱い方について、ここしばらく身体を動かせない間に独自に動きの型を考えていた。ベースをガラルドのものとしてゴブリンの身体にあった動かし型にアレンジを加えている。息を留めて静止したユウトの身に着けるフード付きのマントの裾が風でなびいた。

 ユウトは力みのない動作で低く跳ぶと着地と同時に縦に一閃手首を翻して光魔剣を振り下ろす。降り始めと終わりの間だけ顕現した光の刃が広げた扇のような残像を残した。

 ユウトは停まることなく光魔剣を振り続ける。一定のリズムを刻みながら各動作は複雑さを増し続けた。

 さらにメリハリの効いた動きに合わせて現れる光の帯の形も様々に形を変える。それはまるで柔らかな大筆で空に字を描くようだった。

 そしてユウトは最初の構えに戻ると、唐突に動きを止める。それまでユウトの動きに追従していたマントだけが取り残され、大きく舞って落ちた。
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