第1話 汲田の急接近

文字数 1,389文字

 
 そろそろ登場人物を増やす時期か。という魂胆を自ら晒していく。
 私が教室で白い机に突っ伏しているとき、汲田と世間で呼ばれている女子が私の元にやってきた。
 突っ伏していたのに、なぜ気づいたのかって。そりゃ私の頭頂部には気配だけを感じ取ることの出来る目があるからなのだ。
 では汲田の頭頂部には何があるのか?
 私は気になって顔をあげて、彼女の頭頂部を凝視したが、目で見られるものは何もなかった。大切なものは目に見えないから、汲田の頭頂部にも大切なものがあるんだと思う。
 汲田の隣にはお嬢様キャラを徹底している渡会もいた。渡会の隣には人差し指よりも薬指が長い熊本がいた。熊本の隣にはプチトマトは苦手なのに大きなトマトは食べられる堀越が座っていた。堀越の前には誰もいなかった。渡会は浦部のことが嫌いだった。浦部はバスケ部に入りたかったが挫折した。
 登場人物が5人増えた。実際には汲田しかいなかった。登場人物が4人減った。今クラスの登場人物は何人でしょうか?
「みいこちゃん、何か面白い話してよ。みいこちゃん面白いって皆言うからさ」
 問題の途中だが、話しかけられたので話に集中することにする。
「私、面白くないよ。皆が買いかぶっているだけだよ」
「そんなのいいからさ。何でもいいから面白いこと言ってよ」
 キツツキ位しつこい。赤キツツキかあって回文としては邪道だよな。
「そんなこと言われてもなあ」
「なんでそんなもったいぶるの。私は面白いもの摂取しないと苦しくなるの」
「面白いものをカルシウムみたいに言うなよ。面白いものは骨だ」
 私の後ろに松島が立っていた。松島は私が思っていたことを代弁してくれた。
「そんなこと分かってるよ」
 汲田は気が立っていた。今にも襲い掛かってきそうだ。
「分かってたんだ。それならいいんだけど」
「っていうか松島に用ないんだけど、これは私とみいこちゃんの問題だから」
 問題で思い出したんだけど、私、問題を出してたよね。あの時若かったなあ。
 私が何も喋らないでいると、汲田は口を動かし続けた。
「私が昔話を作ったら、面白い話をしてくれる?」
「今、話を作っても昔になる前に私たち死んでるよ」
 松島は優しい。夜空に浮かぶ蛇つかい座よりもね。
「昔々あるところにって言っても、昔話って認めてくれないなら、昔って何?」
「なんで、そんなに昔話にこだわるんだ。最近の話でいいだろ」
「じゃあ、最近の話をしたら面白いこと言ってくれるの、くれないでしょ」
「そんなの分からないよ。でも、何もしないよりは、何かした方がいいのかもね」
 私は挑戦的に微笑んだ。
「分かった」
 汲田は素直で率直だった。

 それから、汲田がした話があまりにも最近の話だったから、私たちの笑顔がはじけて口一杯に広がって、空を舞う龍になって、世界一ビタミンが豊富な野菜になりました。めでたし。めでたし。私の方が先に学校で飼っているウサギ愛でたし。愛でたし。

 こんなに仲良く笑い合っていても、私たちはいつか離れ離れになって、お互いの忙しさの中で会えなくて寂しいという気持ちも薄れて、たまには連絡しようかと思って取り出したスマホを、まあ今更連絡しても迷惑なだけか、と変に遠慮して、ずっと友だちでいようね、という約束を仲良く破り、でも、皆そういうもんだよな、とどこにいるかも分からない皆と同じであることに安心した。めでたくなし。めでたくなし。
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